過ぎたるは及ばざるが如し
学園都市を出て3日、途中で仕入れの為にいろんな町や村に寄りながらも他の人たちの倍以上の速さで北上を続けていた。
時たますれ違う人達がぎギョッとした目でこっちを見ているが仕方ないよね。
「始めは驚いたが慣れると快適ダナ。」
「そうでしょう、そうでしょう。セキトは凄いのです。」
メイちゃんが胸を張ってリーサの言葉に賛同する。
そんな二人は馬車の幌の一部をめくりそこから顔を出して気持ちよさそうに風を感じている。
そう、なんとこの二人、この暴れ狂う馬車の中をロープが無くても大丈夫になっていたのだ。
因みに俺は未だにロープが手放せない、これが無かったら俺は荒れ狂う船の甲板に置かれたタルの如く転がり続けるんだろうな。
ちなみ、ネフェルは自分の体の一部を馬車の巻きつけてるのでロープが要らない、便利な体でちょっとうらやましい。
「主、もうすぐで次の宿場町に着くよ。」
「そうか。じゃぁ今日はそこで仕入れをしたら泊まっていくか。セキトより俺がもたないな。」
「分かったよ。じゃ、セキト今日の最後だからもう1段階飛ばそうか。」
『承知』
ちょ、別にこれ以上飛ばさなくていいからぁぁぁぁぁ~~~~
・・・
・・
・
その日の夜、俺たちは宿に併設された食堂で次のルートを話し合っていた。
「賊が出る道?」
「そう、旧街道と呼ばれるところでね、ちょっとした小山を突っ切るルートなんだけど見通しの悪さ故にいつしか賊が居座るようになってるんだ。今も間違いなくいるだろうね。」
「それでそんな道をわざわざ言うって事は何かしら利点があるんだろ?」
「その通り、この道は現在の道よりも圧倒的に早い。今の街道の半分ぐらいの時間で抜けられるだろうね。」
危険で速い道か、安全で遅い道か、まぁ迷う必要はないか。
「明日のルートは旧街道を進む。それでいいか?」
「意外ですね。アナタが危険な道を選ぶとは。正直あの速度ならなら迂回路でも大丈夫だと思いますよ。」
「まぁ、ネフェルの言いたいことも分かる。俺だってわざわざ鉄火場に行きたくはないからな。でもヴィオラが言ったって事は問題が無いと判断したからに間違いないだろうしな。それに何かしら考えがあってのことだと思しな。なぁ~」
最後の一言と共にヴィオラとメイちゃんのほうを見るとメイちゃんがサッと顔を逸らした、間抜けは見つかったようだなぁ。
「おやぁ~メイちゃんはどうして顔を逸らしたのかなぁ~主様気になるなぁ~」
「ベ、別にメイは何も悪い事は考えていませんヨ。」
「ホントかなぁ~だったら目を合わせられるよねぇ~」
「…ハァ、主。あんまりメイをからかわないでやってくれ。それにボクが何を考えていたかなんて察しがついているんだろう。」
少しからかい過ぎたようだ、ヴィオラが呆れながら助け舟を出した。
ヴィオラの言う通り2人の考えていることはだいたい察している。
何せアレを受け取ってからあえて渡してないからな。
「まぁな。あえて渡してなかったからな。いい機会だから渡してもいいが、1つだけ言っておきたいことがる。それは力に溺れないで欲しいって事だ。アレは魔剣の類じゃないけど凄い性能なのは分かったからな。まぁ2人なら大丈夫だと思うけどな。」
「主はそう思っていたのか…分かったよ。力に溺れないように祖霊と誇りに誓おう。」
「メイも天神様と慈母様に誓います。ただ、主様の敵を倒すだけに使うと。」
「分かった。2人の言葉も聞けたしルートも決まったから部屋に戻ろうか、渡すのは部屋でね。」
そういうわけで俺たちは部屋に戻ることにした。
「なぁ、ネフェル。あの三人は何の話をしてルンダ?」
「さぁ?このネフェルには分かりかねます。」
置いてけぼりでスマン、どういう事かはきっと明日に分かるから。
・・・
・・
・
次の日、俺たちは旧街道を進んでいた。
ヴィオラは翡翠色に輝く武具を身に纏って御者をしてメイちゃんの横にはとても人形には見えない傀儡が座っていた。
それらを初めて見たリーサとネフェルはかなり驚いていたが気にしないで欲しいとは言っておいた。
しかし、賊が出るとは思えない程穏やかな所だなここは。
周りで鳥が鳴いてるし山道とは思えないほどの緩やかな坂道、他の行商とも合わないから進みやすいしこのままゆっくり行こうぜ。
「主、遠目ながらに馬防柵が見える。一戦交える覚悟だけはしておいてくれ。」
ああ、さようなら俺のノンビリタイム。
こんにちは、俺のシュラバタイム。
そうこうしている内に柵の前に着くと何処からか声が聞こえた。
「そこで止まりな!!悪いがちょいとお前らの荷物を分けちゃくれねぇかな。大人しく渡してくれるなら無事に通してやるぜ。ただし、抵抗するってんなら痛い目見せるしかねぇけどな。」
まさに、賊って感じだな。
ただ、話してる相手が全く見えないんだよな、どこに隠れてるんだか。
「さて、主。最終確認だけど一戦交えていいんだね?」
「ああ、怪我だけは気を付けてな。」
俺が返事をするとヴィオラは一度ニッコリと笑うとすぐに真剣な表情になり腰につけてた短弓を取り出した。
ただ、あの弓なんか変だな、弦がついて無いしよく見たらヴィオラは矢筒も着けて無かった。
何を考えているんだろうと思ってみているとヴィオラが構え始めた。
すると本来ならば弦があるところに青白い光が奔りヴィオラがそれを引くと共に同じように青白い光を放つ矢が現れていた。
そして、少し離れた葉が生い茂った木に向かってその矢を放つとその矢に刺さった賊が声も出さず落ちてきた。
「来るぞメイ!賊を倒すんだ!」
「お任せを!慈母様から託されたこの力で主の敵を討ち倒します!」
メイちゃんは傀儡と共に馬車から飛び出すと馬車の側面からやってきた賊に向かって突撃していった。
賊たちも小さな子供と麗しい女性(のように見える傀儡)に面食らったのかその足を一瞬止めてしまった。
メイちゃんはその隙を見逃さす手や腕を素早く降ると太刀をもっと慈母傀儡が賊をまとめて一刀両断にした。
「クソ、バケモノ共め。荷物を持てるだけ持ってトンズラするし―」
俺がヴィオラやメイちゃんの戦いに見とれいていると賊が一人馬車の中に入って来たのだがリーサのストレートをまともに食らいぶっ飛んで行った。
「ゴシュジン、メイスでいい2本クレ。」
俺はリーサに言われるがままカバンからメイスを2本取り出し渡すとリーサは馬車から出て行った。
「アタシはリーサ、リザード族の戦士! 命を捨てる覚悟のあるやつだけかかってコイ!!!」
リーサの力強い名乗りにほとんどの賊が戦意を失った。
なかには破れかぶれ気味に突っ込んでいった奴もいたが武器や鎧を砕いてなお威力が落ちないメイスの一撃を食らって吹き飛ばされていった。
「チクショー 撤退だ、撤退。こんなバケモノたちの相手をしてられるか!」
賊たちは這う這うの体で逃げて行った。
出来れば、覚えてやがれとか行って欲しかったな…
「主、怪我は無いかい?」
「ああ、大丈夫だ。お前こそどうだどうなんだ?」
「ハハ、ボクもヴィオラもリーサも無傷さ。さて柵をどけて先に進もうか。」
「それなら、俺に任せろ。お前たちばっかりに良い恰好させられないからな。」
「主が?結構な量があるけどキミに出来るのかい?」
ヴィオラが疑いの眼差しを向けて来るが俺はそれを無視して柵が置かれている所に向かった。
そこではメイちゃんやリーサ、ネフェルが撤去作業をしていたがまだまだ大量に残っていた。
「ハイハイ、退いた退いた。今からご主人様の凄いって所を見せてやるからな。」
俺は皆をどかせると久々に腰に着けてた小槌を手に取った。
「ああ、そういえば主のカバンの力を着けばすぐ片付く―――」
「お願い、打ち出の小槌。目の前の柵を全部消してくれ!」
俺はお願いしながら打ち出の小槌を振るとボフン言う様な音と共に柵が煙包まれ、その煙が晴れると柵がひとつ残らず消えていた。
「どうよ、俺だって凄いだろ?」
俺の後ろで見ていた皆に尋ねてみると皆驚いた表情をしていた。
「ネフェル…君は主の魔力を感じたかい?」
「いえ、全く。巫女様は?」
「アタシも分からナカッタ。そもそも術なのかすら分からないノダガ。」
「主様、しゅごい…」
・・・アルェェェ?
俺の中では「ご主人様凄い!カッコいい!!」ってなるはずだったんだけどな。
「ああ、すまない。あまりにも予想外過ぎて反応できなかったよ。主、あまりにも凄すぎるその力は本当に緊急以外使わないでくれよ。ボクたちが驚くからね。さぁ皆、主が柵を片付けてくれたから馬車に乗ってくれ先を行こう。」
ヴィオラの言葉に皆が馬車に乗り込んでいくので俺も置いていかれないように急いで馬車に乗り込んだ。
とりあえずこれは俺の凄さが伝わったんだよな?そうだよなぁ!?
どうにも納得できないまま先を目指すのであった。
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