出発の日

パーティーの翌日、とうとう出発の朝になった。

寝てる間に神様工房に行ってたので休んだ感じではないが体に疲労感は全く無く言い出発日和だ。

馬車や僅かに残っている積み荷の確認をしているとカービン子爵がやってきた。


「いよいよ出発だな。」


「はい、短い間でしたがお世話になりました。」


「むしろ、世話になったのはこちらのほうだ。その礼と言うとおかしい話ではあるがこれを受け取って欲しい。」


カービン子爵に渡されたのは蝋で封をされた2つの手紙だった。


「北部に向かう途中我が領地とストンズ家の領地に行くのならこの手紙を屋敷の誰かに見せるといい。宿代わりにはなるだろう。」


「わざわざありがとうございます。是非とも寄らせていただきます。」


「我が屋敷には息子がいるからいろいろと売りつけてやってくれ。それとレムスからの伝言で『我が領地最高の石工たちが創った石畳の道を通って欲しい』とのことだ。」


「わかりました。所でストンズ子爵はどこに?」


「合ったら涙が止まらなくなりそうだから遠くから見送る、だそうだ。実際既に泣いていたしな。まぁそれはともかく南門から続く石畳はまだまだ短くはあるが見事な物だから是非通っていくといい。その道も間違いなく君のおかげだからな。では、ここで失礼する。君の武運、いや商運を願っているよ。」


「ありがとうございます。こちらもカービン家の方々が末永く幸せでいるように願っています。」


俺はカービン子爵が見えなくなるまで見送ると最後の確認をして回ったのだった。


・・・

・・


朝霧の立ち込める街をの中をいつもとは逆の街の出口に向かって馬車を進ませる。

この時間になるといつもは他の商人同様に街の中心部から学園方面に向かっていくのでかなり違和感を感じる。


「主様、いつもと進む方向が逆なのでなんだか不思議な気分になりますね。」

「やっぱり?実は俺もそんな感じになってたんだよね。」

「魔法学校とは逆に進んでいるだけなのに変な感じダ。」

「ここでそれを行ってどうするんだい。これからボク達は南の貴族門から出るんだよ。」

「おいおい、俺たちが初めて通ったところを忘れたのか?俺は違和感よりも懐かしく感じるぜ。」

「…そういえば主達とここに来たときは貴族門を通ったんだったか。すっかり忘れてたよ。」

「そう言う事だ。そんなことを言ってる間に着いたな」


3つの門が学園都市でもっとも大きくて豪華な貴族門。

始めて来たときは周りを見回す余裕が無かったけど落ち着いて改めて見るとその凄さがよく解るな。

とりあえず馬車から降りて宰相の手紙を渡して出発の手続きをすると門の兵士にすこし驚かれた。

まぁ、中にいるのが女子供ばっかりだったら驚くわな。


「では、開門致します。皆さんとまた会えることを楽しみにしております。」


兵士の人がそう言うと手元にあった鐘を打ち鳴らす。

見た目の割に大きな音を上げる鐘の音が辺りに響くとその鐘に返答するように城壁のいろんな所から別の鐘の音が聞こえてきた。

街中に響く綺麗な鐘の音の残響が収まると目の前の大きな門が少しずつ開き始めた。

開いた扉から見える広大な景色と延々と続く立派な石畳の道が目に見えると旅立つ寂しさよりもこれからの新しい出来事への期待に胸が躍り始めた。


「では新天地目指して、しゅっぱ~~つ!」


「「「「お~~!!」」」」


出来立ての石畳の道はとても進みやすく俺たちの順調な旅路を祝ってくれているようだった。

俺はその気持ちを長く味わいたくてゆっくりとその道を進んでいったのだった。


・・・

・・


「ナァ、ゴ主人。この速さで本当に一か月で集落に着くノカ?その、疑う様で悪いのダガ、とても厳しいと思うのダガ…」

「巫女様の言う通りです。アナタは一か月で着くと豪語したので巫女様がアナタの奴隷になったのですよ。もしも、無理なら分かっているでしょうね・・・」


ゆっくり進んでいるので不安げなリーサとお怒り気味のネフェル。

石畳の進み心地の良さにゆっくりしすぎたのも確かだな、石畳も終わったし学園都市も見えなくなったからスピード出すか。

ただ、セキトに頑張ってもらう前にちょっと準備をするとしよう。

俺はカバンから安全の為に用意した神様工房製のロープを取り出すとメイちゃんに近寄った。


「メイちゃん馬車と縛るからジッとしててね。」

「はい、主様!」


元気いっぱいに返事をしてくれたメイちゃんと馬車をロープで縛っていく。

こういう時にシートベルトにあるあのカチッと止まる仕掛けがあれば便利なんだけどな、今度作れるか聞いてみよう。


「アナタ、一体何をしているんですか!?」


何故かネフェルが驚いた声を上げた。


「見ての通りメイちゃんを縛ってるんだけど。」

「どうしてそんなことをするんですか!?そんなにきつく縛ったら彼女が痛がるでしょう!」

「いや、結構伸縮性があって見た目よりはきつくないよ。それに縛らないとセキトが走り出した時に時に危ないし。」

「危ない?馬車馬が本気で走ったからと言ってたかがしれているでしょう。ワタシと巫女様はその様な怪しげなことはしませんよ!」

「まぁ、無理にとは言わないから良いけどとりあえずなるべく重心を下げて何かに掴まれるようにしといたほうが良いぞ。」


どうやらネフェルは縛れるのがお気に召さないらしい。

まぁ、あんまり苦しくは無いとはいえ縛られている感じはするから仕方ないか。

俺は馬車の中に残っていた荷物を全てカバンの中に納めると御者をしていたヴィオラに縛って貰った。


「じゃぁ、セキト頼んだ。事故しない程度に走ってくれ。」


『承知。千里を駆けぬけて見せましょうぞ!』


いや、そこまで気合を入れる必要はないんだけど、と言う前にセキトは一度気合を入れるかのように嘶くと力強く踏み込んだ。

3歩程でトップスピードに入ったセキトは凄まじい速度で馬車を曳き始める。

馬車の車輪が轟音を立てながら回り、尋常でない量の土煙を上げてながら進む。

そして、馬車の中は中で凄い事になっていた。

トップスピードに上がった途端リーサとネフェルは後ろに勢いよく後ろに転がった。

リーサは鍛えられた運動能力を発揮しなんとか体勢を立て直して馬車を掴み安定したの姿勢を取ったのだが、ネフェルはそれどころでなかった。

完全に体勢を崩して馬車から転げ落ちそうになったネフェルをリーサが何とか抱きしめるとあろうことがフリーになっていた下半身(この場合は蛇身か?)が俺にしがみ付いたのだ。

俺の体に巻きついている事に気づいてないネフェルは落ちそうになった恐怖からかか下半身にかなり力が入っている。

俺も精一杯タップをしているのだが安全用のロープとネフェルに二重に締められているせいか思うように力が入らない、ちょっと、マジで気づいて!

薄れ行く意識の中、最後の耳に入って来たのはキャーキャーと楽しそうなメイちゃんの声だった。


この旅、不安しかないんだけど…な……ガクッ………

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