送別パーティー(前哨戦)

「待ってたよ、イサナ君たち。さぁ入って、入って。」


ロッソ邸に到着するとダニエルさんが奥の部屋まで案内してくれた。

部屋にはロダンさんとカービン家とストンズ家の面々がそろっており設置されているテーブルには美味しそうな料理や数多くの飲み物が用意されていた。


「ようこそイザナ殿。今回は君に言われた通りの面々と最後に是非挨拶をしたいと言う者ばかりなので気楽に楽しむといい。どれだけマナー違反でもそれで不快感を示す様な人たちではないからな。」


「今回は態々自分たちの為にありがとうございます。」


「気にすることはない。ここにいる者は君の世話になった者ばかりだからな。さて、まだ到着しておらぬ者がおるので始めるわけにはいかない。なので今のうちに挨拶をしてくると良い、酒が入り始めると面倒なことになるでな。」


そう冗談交じりにロダンさんが言った。

この人の始めた会った時の眼光は何処に行ったのかと思うほど優しいお爺さんになったな。

俺は最後に一言お礼を言ってロダンさんに言われたとおりあいさつ回りを行うことにした。


「前のパーティー以来だな商人殿。いきなりロッソ商会から使いがやって来たので何事かと思って話を聞いたのだがこの街を出る君の為のパーティーを開くと聞いて参加させてもらったよ。うちのライザがどうしても君に食べて貰いたいと言ったので一部彼の作った料理があるので後で出会うことがあれば感想を言ってやってほしい。」


「お久振りですカービン子爵。では、ライザさんの料理から頂かせて頂きます。」


「ああ、是非食べてやってくれ、彼も喜ぶだろう。ホントはもっと話したい事があったのだが後ろがつかえているようだからまたあとで話すとしよう。」


カービン子爵が俺の後ろに指を差すので俺も後ろを振りかえるとストンズ子爵がソワソワとしていた。

カービン子爵が静かに離れて行ったので俺はストンズ子爵に近づくと行き成り抱き締められた。


「イサナ君、君には感謝してもしきれないよ!妻のことといい、娘のことといい、君が居なければどうなっていたか想像すらできないよ。君のおかげで我が家は王命を受けると言う最大の名誉を授かることが出来た。君こそ我が家の守護天使だよ!」


感謝してくれるのは嬉しいが離してくれ!

タップしているのにも気付かずストンズ子爵は全力でハグ続ける。

マンガとかで可愛い女の子の胸に埋もれて窒息しそうになってる表現があるがまさかオッサンの脂肪で窒息することになるとは…


「あなた、そろそろ離してあげて。あなたのおなかに埋もれているわよ。」

「ああ、ゴメンねイサナ君。溢れる感謝の気持ちを抑えられなかったよ。」


大丈夫ですよと言って俺を助けてくれた天の声を確認する。

そこにいたのはストンズ夫人メリンダさんだった。

前回はいかにも倒れそうな状態だったが今はしっかりとしておりとても最近まで弱っていた人とは思えなかった。


「こんばんわ、イサナさん。本日は改めて感謝を伝えに参りました。私だけでなく娘も救っていただきありがとうございます。今後何かしら困ったことがありましたら是非当家を頼ってください。全力で力になりますわ。」


「ありがとうございますストンズ夫人。もしも、こちらで対処出来ない事が起きましたら頼らせていただきます。」


さて、次は誰に挨拶を行こうかなと思っていると会場の扉が開いた。

そこから入って来たのは宰相ジェームズ・グランヒルズ公爵とどこかで見たガタイのいい老騎士だった。


おいおいおい、マジかよ…

こちとらただの露天商だぞ、そんな奴の送別会に普通宰相閣下が出張ってくるか!?

誰か止めろよ!いや、止めてくださいお願いします、ホントマジで……

完全にパニックになってる俺に近づいて来たのは老騎士の方だった。


「こうして直接会うのは2度目だな、商人。先の戦いの後処理は実に見事であったのでな一言礼を言いたくて宰相殿に無理を言ってこの場に来させてもらった。もし君が凱旋式や戦勝パーティーの準備をしていなければ状況を読めぬ馬鹿貴族共が騒いでいただろう。改めて感謝する。」


「こちらも商人としての考えがありましたので感謝される事ではないですがお役にたったのならば光栄です、騎士様。」


「騎士様…ああ、そう言えばまだ名乗って無かったな。ワシの名はガランド・バーデン。今は前線から退いた老人だ。また関わることがあればまた素晴らしい活躍を期待している。」


「ご丁寧にありがとうございます、こちらはイサナ・オオイリ。しがない行商ですがよろしくお願いいたします。一つお尋ねしますが先日のビンゴでクマの置物を当てたお嬢様のご親戚ですか?」


「ああ、その通りだとも。チェルシーはワシの孫娘で先の戦いが初陣でな君の用意した凱旋に参加出来たので感謝している。それと、あのビッグベアーの置物だ!!あれほど猛々しく、生き生きとした物を見たのは初めてであったわ。アレを見るたびに若かりし頃ビッグベアーと一騎討ちしたときの事を鮮明に思い出せてなこの年であるにもかかわらず血が躍るのだ。本当に良い物だ実に感謝しているぞ!!!」


「コチラの用意した物がこれほど喜んでもらえるなら商人冥利に尽きます。造った職人にはこちらから伝えておきましょう。」


「百の言葉で言い表せられぬ程惚れ込んでいると是非に伝えて貰いたい。あと、もし素晴らしいクマの品物があるのなら一度我が家に来たまえ。損はさせんぞ。」


「そこまで言われるなんて恐悦至極です。ただ、残念なことに今の在庫の中には御座いませんので次にこの街に訪れた時にはご用意しておきましょう。」


あまりのクマ熱に押され気味になったのでここらで無理やり話を終わらせることにした。

この手の人間は聞けば聞くだけ倍になって帰ってくるからな適度に切り上げんと痛い目にあう。

その後しばらく言葉を交わし老騎士バーデンは満足して俺の前から去って行った。

そして、入れ替わりに近づいて来たのがジェームズ・グランヒルズ宰相だった。


「…全くあの人のクマ好きは変わらんな。収まって来たと思っていたのだがアノ彫像を手に入れてからまた再熱したようだな。ソレはともかく商人久しいな。元気そうで何よりだ。」


「いえ、宰相閣下もお変わりなく元気そうで。本日はわざわざしがない行商の為にありがとうございます。」


「話は聞いたぞ。少し前まで何処に行こうか悩んでいたと言うのにまさか北部の荒地に行くとはな。あそこは完全な別世界だ、皆が皆リザード族の留学生のように受け入れてくれるとは限らん気を付けていくがいい。」


「…お心遣い感謝いたします。万全を期して向かいます。」


アレ?この宰相ってここまで優しかったか?

凄い違和感なんだが…


「凄い違和感を感じるって言う様な顔だな。意外と思うだろうがこう見えてお前のことは割と気に入っている。そこで提案なのだが北部から戻ってきたら我が家の御用聞きにならないか?」


その言葉に周りがざわついた。

御用聞き、要するにその家、専属の商人になれって事だ。

現宰相家の御用聞きになればそれはそれは儲かるだろうし有名になれるだろうな。

だけど、まぁ、俺の答えは考えることもなく決まっている。


「素晴らしいご提案ですが謹んで辞退させていただきます。」


俺の言葉にますます周りがざわついた。


「我がオオイリ商店は富や名声よりも自らの信念と大きな責務で動いております。それゆえに行商という形をとっております。」


「ほう。我が家を敵に回すかもしれないとしてもそちらを優先するのか?」


「ええ、我が信念はこの命よりも重く責務は天よりも高くなっております。」


たとえ何があろうと俺は「うん」とは言わない。

何せ神様グランフィリア様異世界の神様俺の世界の神様に泣きつきそれを見た神様が何億という人の中からから俺を選んでくれたのだから。

1国を敵に回したとしても受け入れる気はない。


「やはりそうか。貴様ならそう言うと思っていた。何せそういうとこを含め気に入っているのだ。」


お、おお!?

何かしらんが無駄に好感度上がったぞ。

でも好感度上がるなら可愛い女の子が良いなぁ、オッサンルートに入る気は毛頭無いです。


「とりあえずこれを持って行くと良い。国内であればこれ一つで自由自在だぞ。」


そう言って渡されたのは1つの書簡だった。

とりあえず確認の為に開いてみる。


【通行許可証

 この者 国王セレンディア14世の名において通行を許可する】


ご丁寧にまぁ、おっきな、までオシチャッテー


……

………


「ファーーーーー!!!!」


驚きのあまり声が出たので何事かとみんなの視線が突き刺さるがそれどころじゃない。

おま、これ、玉璽入りの通行許可証だと!!!

俺の視線がさっきから宰相と通行許可証を行ったり来てる。

てか、驚きすぎて声が出ないので一番いい反応をしそうなダニエル君に渡して見た。


「~~~~!!!!」


スゲー、息を飲む音で悲鳴を上げてる。

その後も何人か覗いては驚きのリアクションを上げている。


「喜んでもらえた様で何よりだ。さて、商人よ。荒地帯は不可侵地域。交流すら無い地域で足を踏み入れる人間は皆無だ。貴様はこの国の者ではないようだが貴様の動きが我が国の総意と取られかねん。故に無様は姿をさらしてくるなよ。」


「なるほど、それゆえのコレ玉璽入り通行許可証ですか。しかし、での支払いですとあまりにも代金が釣り合わないので向こうでお釣りを用意してきますね。」


「期待はしないが待っておいてやろう。」


そう言うと宰相はわずかに笑って他の人の方に向かって行った。

それからしばらくするとロダンさんが準備が出来たのでパーティーを始めると言った。

なんというか、始まる前から凄く疲れたぜ…

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