露店の最後の日
露店販売の最終日、今日は朝から多くの人が来ていた。
昨日に引き続き多くの学生やどこかの家の使用人等が俺たち3人(リーサは手続きの為に学園行っている)に挨拶に来てくれた。
「ヴィオラ様とお別れなんて胸が張り裂けそうです。」
「ヴィオラ様これを私と思ってお持ちになってくださいませ。」
「メイちゃん、メイちゃん、メイちゃ~~~ん」
「泣くな、同志よ。メイちゃんの旅立ちを笑顔で見送ると決めたではないか。」
最後まで濃いなぁ、ファンクラブの連中は・・・
でも、まぁ、ヴィオラとメイちゃんの2人も挨拶に来てくれたのをよろこんでいるので良しとするか。
「店長さん、すこし宜しいですか」
声を掛けられた方に振り返ると見たことがある使用人と初めて見る女性が並んで立っていた。
「初めまして、店長さん。うちの使用人から本日が最終日というとこで挨拶をしたく参りました。」
「このような露店を贔屓にして頂いていましてありがとうございます。」
「むしろ感謝するのはこちらの方です。恥ずかしながらうちのような貧乏男爵家ではこの街の物価では少々厳しかったのですがこのお店を発見できたおかげで幾分余裕が出来ました。それに、娘の初の凱旋をあのような素晴らしい物にして頂きまして、娘の晴れ姿を見たときは涙が止まりませんでした。」
「こちらとしては街を護る為に出た人たちに感謝を届けたかっただけですからお礼を言われるようなことは何も。」
「そんなことはありませんよ。凱旋は貴族にとっての最大の見せ場であると共に最高の名誉です。それをあのように素晴らしい姿で行えるのは羨ましいとすら思えますからね。それに感謝するべきことはもう一点ありまして。」
「これ以上お役に立てた記憶がないのですが。」
「むしろここからが本命ですよ。先日の戦勝パーティーでうちの使用人を使ってくださった際に家名を掲示なさったでしょう。名ばかりの貴族である男爵家はどこにどれだけいるか分らず結婚に苦労するのですが、あの時の御かげで娘の婚約が決まりました。家の代表として、親として深く感謝しております。」
「そんな、とりあえず頭を上げてください。こちらはパーティー開催の為にこれだけ協力してくれましたと伝えたかっただけですから。あぁ、そうだ、御息女のご婚約おめでとうございます。目出度い時に手ぶらで帰って頂くのも忍びないですので少しお待ちください。気持ち程度の品をご用意しますので。」
感謝されっぱなしで恥ずかしくなった俺は慌てて馬車に戻りカバンから適当な袋を取り出すと詰められる限りの塩を入れて男爵家の方に贈った。
女性は挨拶に来ただけなのでこの様な物はもらえないと最初は渋ってはいたが俺が口八丁手八丁で無理やり渡すと大事そうに抱えて帰って行った。
この後も店を閉めるまで下級貴族の方々が挨拶に来て口々に感謝を告げていくので俺は恥ずかしさに耐えられず適度に返事をし、塩を渡して見送って行った。
俺の心が褒め殺し戦法に耐えられなかったから仕方ないことなのだ。
たとえ、このあと他の塩業者から文句を言われようと知ったことではないのだ。
・・・
・・
・
「主様、今日はいろんな方々が挨拶にくださいましたね!!」
「それだけメイちゃんとヴィオラが頑張った証だよ。」
「ボク達だけじゃないさ、主だって凄かったじゃないか。」
「そうです、そうです。主様あってのメイたちです。全ては主様あってのことですよ。」
「あんまり褒めないでくれ。朝からずっと褒め殺し続きで体中がかゆくなりそうだ。」
「おや、主。照れてるのかい?」
「照れている主様も可愛いです。」
「やめろ、やめろ。ご主人様をからかうんじゃない。」
「ゴ主人たちは本当に仲がイイナ。」
そう声を掛けてきたのはリーサで横にはネフェルが静かに控えていた。
俺はこれ幸いとリーサに話しかけ無理やり話題転換をした。
「お帰り、リーサ。手続きはうまくいったのか?」
「ああ、学園長の計らいで退学から休学にして貰えタ。事が済んで学園に戻る意思があるのなら復学できると言ってイタ。」
「おお、いい提案じゃないか。とりあえずリーサ達も戻ってきたことだし送別会の会場に行くぞ。」
リーサ、ネフェル、メイちゃん、ヴィオラ、俺の順で馬車に乗り込んでいく。
乗り込む前に一度だけ後ろを振り返る。
何も置かれていないただの道、ただの道だが俺に取ってはもっとも記憶に残る道になった。
「また、ここで店を出来たらいいね。」
「ああ、そうだな。」
ヴィオラの言葉に返事をし、馬車に乗り込む。
北部から帰ってきてここで店をするかはまだわからないがこの街での商売は一旦これで終わりだ。
俺は後ろを見るのをやめ、前を見て馬車を進め始めるのだった。
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