幕間・オオイリ商店休業日
いつも通り露店を終えて宿でのリラックスタイムに俺はメイちゃんとヴィオラを呼んだ。
「休んでたとこ呼んで悪いな。ちょっと重要なことを忘れていてな。」
「「重要なこと?」」
2人の声がハモる、よほど心当たりがないのだろう。
この街に来てやっと落ち着いたので帳簿でもつけようと思って気づいたからな。
「2人の主として今まで気づかなかったことがひじょ~~に恥ずかしいので大人しく受け取って欲しい。」
俺はしずしずと2人の目の前に革袋を差し出した。
2人は不思議そうに受け取って、中を確認して驚いた。
「主様、これは!」
「主、流石にこれは受け取れないよ。」
2人が見て驚いた革袋の中にはお金が入っている、要するに給料である。
額にすると15銀、ロダンさんに聞いた4人家族の平均食費が8銀程らしいのでだいたい倍だな。
「今まで働きっぱなしだったからなそのことへの感謝をこめてその金額にした。これからは毎月払うようにしていくからこれからも頑張ってほしい。」
メイちゃんは初めての給料にかなり嬉しそうだがヴィオラは何とも言えない表情をしている。
「主、流石にこれは受け取れないよ。今のボクの身分は借金奴隷だからね。主人が世話をする義務はあれど基本的に無給で働きの評価は全て借金の返済に充てられるものだ。」
なるほど、ヴィオラの言い分も分かる。
借金奴隷は返済の為に身を粉にして働き主人は彼らの衣食住を保障する義務があるそれがこの世界の常識なのだろう、なのだろうが。
「悪いがヴィオラの言い分を聞く気はない。うちでは奴隷だろうと何だろうと働いた従業員には絶対給料を出すしついてくる限り衣食住の世話もする。よそはよそ、うちはうちだ。俺はまだまだこの世界の全てが曖昧だから俺が正しいと思う道を進むだけだ。」
俺の答えにヴィオラはポカーンとしていたがすぐに表情を変えた。
「全く……主は本当に傲慢だね。そこまで言われたら奴隷のボクは大人しく従うしか無いじゃないか。困った主に拾われたものだよ。」
口ではそんなことを言っていたがその顔は嬉しそうにほほ笑んでいる。
「とりあえず給料についての話は終わりだ。あと急だが明々後日は休みにするからな。この街に来てまともに休みを取ってなかったからな。」
俺の言葉に2人は嬉しそうに肯いた。
「それにしてもアレだね……いたいけな学生を口説くだけでこんなにもお金を貰えるなんてね。」
………口説いてる自覚があるなら大人しく止めておけ、いつか刺されるぞ。とは思ったもののそのおかげで順調に売り上げが伸びているのだから口に出せない子供店長であった。
・・・
・・
・
やってきました休業日!!
俺たちは今、南町のメインストリートの露店を冷やかしながらブラブラと歩いていた。
「やっぱりこっち側は露店が多いなから活気があるな。」
「こっちは冒険者みたいな流れ者からこの街に住む一般市民などが多いからね。買い物客狙いならこっちの方が主流だろうね。貴族は基本的に家に呼び出しだからね。」
なるほどな~と思いながら更にぶらつく。
露店の内容としてはやはり野菜や肉といった食材系が一番多い。
手っ取り早い消耗品で必需品だからどうしても多くなるわな、ただ野菜にしろ肉にしろ保存食っぽいものがメインで生野菜もあるにはあるが若干元気がないように見えるのに値段は割高だ。
「主も気付いたと思うけれどこの街に新鮮な野菜が来ることはほとんどないよ。なにせ近くに農村が無いからね。だから前に野菜を売った手腕は見事だと感心したよ。ホントに主は才能があるね、詐欺師の。」
「詐欺師じゃねぇよ!商人だよ、商人!それに向こうも納得してたから問題ないだろう。」
他愛無い会話をしながら歩いているとメイちゃんがジッと一点を見つめていた。
視線の先にあったのは食べ物屋の露店で何か丸い物を揚げているようだった。
とりあえず解らないことはヴィオラ先生に聞いてみるに限る。
「あれは丸くしたパンの様な物を揚げてそれに果実や蜜を煮詰めて作ったソースをかけて食べるおやつだよ。」
ほう、おやつとな、何を隠そうこのオオイリイサナ前世の時から大の甘党です、甘いと聞くと我慢できんとです。
「よし、買おう。メイちゃんも食べる?」
「は、はい。メイも食べたいです。」
元気いっぱいに答えるメイちゃん、まぁアレだけ見つめていたら欲しいのは分かるけどな。
「よしよし、買ってる来るから待ってな。ヴィオラあったら食うだろ。俺のスーパーテクニックで一番いいのを買って来てやるぜ。」
俺はお金を掴んで露店に向かっていった。
ちょうど作り置きが無くなったころでおじさんがいまから上げ始めようとしていたところだった。
「おじさん、おじさん。おいしいおやつ3つちょうだい。」
「おお、坊や。ちょっと待ってなすぐに揚げてやるからな。今日は家族で遊びに来たのかい?」
「うん。きょうはおねえちゃんといもうとときたんだ。ねぇ、おじさん。ぼくのぶんはちいさくていいからいもうとのぶんはおおきくしてあげて。」
お目目ウルウル上目づかい、さらに子供特有の甘えた子でおねだりをする。
これぞ、必殺「ショタっ子オネダリ!!」これで落ちない奴はいねぇ。
ちなみにこれを使うたびに俺の中の何か大切な部分がゴリゴリ削られていく、このお目目ウルウルはその削れた何かがにじみ出ただけだ。
「妹の為に自分が我慢するなんて…やめてくれ、その無邪気な目を俺みたいな汚れた大人に向けないでくれ。」
おじさんにこうかは ばつぐんだ。
フハハ…大人は子供には勝てんのだよ。
アレ、何だろう、悲しくもないのに目から水があふれて来るぞ…ハハ…
・・・
・・
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「美味しいです、主様!メイの為にありがとうございます。」
「ハッハッハ、俺も食べたかったからな気にすることは無いよ。」
俺たちは戦利品であるかなり大きいお菓子を食べていた。
それにしてもこれ美味いな、揚げパンみたいな食感なのかと思いきやどちらかというとドーナッツに近い気がする。
ただ、それだけでは甘みも何もないのであとからこの甘いソースをかけるんだがこれが甘すぎずかなり食べやすい、異世界食文化最高だな。
「これが美味しいのは認めるけど…やっぱり主は詐欺師の才能があるんじゃないかな。」
「あれは、交渉。商談です。こんないたいけな少年を捕まえて詐欺師とは失敬なやつだな。」
そう、アレは交渉だ、交渉、ネゴシエイトだ、何もやましいことは無い。
さぁて次はどんな異世界料理を食べようカナー(棒読み)
・・・
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あの後も露店で買い食いをしつつブラブラしていた。
元の世界にもありそうな店やこっちならではの店などかなり多くの店を見て回ることが出来た。
ホント、目の前で角付きウサギの解体ショーが始まった時は本気でビビった、異世界露店インパクトあり過ぎだわ…
「主様今日は楽しかったですね!!」
「ああ、いい刺激になった。所どころマネできそうなものもあったしな。」
「そうだね、いろいろ考えられているお店もいっぱいあったからね。こんどウチでも解体ショーをしてみるかい?ボクなら何匹でも生け捕りにできるよ。」
「それは止めてくれ。いろいろとトラウマになりそうだ。」
夕暮れ時の街を3人並んで歩いていく。
いつもと同じような光景だけどそれがきっと大事なんだ。
まだこちらに来て半年もたっていないけれど改めてこの世界で生きているのを実感できた日になったのだった。
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