幕間・とある跡継ぎの誕生パーティー
ガタゴトとよく揺れる馬車に我慢すること数日やっと学園都市が見えてきた。
2年前までは騎士学校に所属していたのになぁと懐かしさを感じる。
貴族用の南門に回ると今日も数人の兵士が見張りに立っていた。
御者が手続きを終えると窓から見える位置に兵士がやってきて敬礼する。
「ジャック・カービン様 ようこそ学園都市へ。」
カービン家長男、ジャック・カービンは誕生パーティーの為に学園都市に訪れていた。
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「ジャック、長旅疲れただろう。誕生パーティーは明後日だから今日と明日はゆっくりしていくと良い。」
「ありがとうございます、父上。お言葉に甘えまして今日と明日は仕事も忘れてゆっくりさせていただきます。」
「あらあら、ジャックも言う様になったわね。なかなか跡継ぎらしくなったんじゃないかしら。」
久しぶりに見る父と母は変わらず元気そうで良かった妹はこの時間は学校だろう。
卒業訓練も終えて自習気味の暇な時期だろうが学友と日々過ごすのは楽しいからな俺もよく無駄につるんでいたもんだ。
久々に学園都市にやって来たんだ面白いものは無いかとぶらつくことにする。
学生だった時に馴染だった店を覗きメインストリートを通って騎士学校の近くまで出向いてみた。
相も変わらずこの街は露店が多いなメインストリートは道の端は露店でいっぱいだし騎士学校で子供が店番してる店もあったな黒髪黒目だから妙に記憶に残った。
良い時間になったので家に戻ることにする、この辺りは全部同じような見た目だから迷いそうになるので門に掲げられている家紋入りの旗を確認しながら進む。
学生の間は爵位に関係なく皆平等であるって考えをもとにこのような街並みになったのはいいけれどもう少し違いを付けて欲しかったな、初めて来るときは迷って大変だったぞ。
「ただいま。今戻った。」
「兄様おかえりなさい。何かおみやげはないの?」
「街を散歩してたからお土産なんてあるわけないだろ。久しぶりだなブリッサ。」
家に帰るとブリッサが帰っていた、まぁ時間的にいてもおかしくないからな。
とはいえ帰って来た兄に向かっていきなりお土産をたかるのは貴族子女としてどうなんだ、嫁ぎ先がなくなるぞ。
「また、変なことを考えているでしょ。私の事をどうこう言う前に自分はどうなの?」
「うぐ…まぁ、大丈夫だ。明後日の誕生パーティーで嫁さん見つけるから、大丈夫だ。」
「それ、毎年言ってるでしょ。まぁでも今年は大丈夫かな。ワタシ頑張ったしね。」
「なんでお前が頑張ったから大丈夫なんだよ?頑張るのは俺だろ?」
「フッフッフ、その答えは今日の夕食で分かるよ。」
不思議なことを言う妹の頭をかしげながら言われるがままに今日の夕食を待った。
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「な、なんだこれは!!」
俺は今日の夕食の内容を見て驚きの声を上げた。
新鮮な野菜のサラダにコショウの入ったスープとステーキ、いくら俺がやってくるからと言って贅沢をし過ぎじゃないだろか。
「父上、このメニューはいったい?」
「明後日のパーティーのと同じメニューだ流石にステーキはもっと細かく切るだろうがな。」
父がそう言ってるがそこじゃない俺が聞きたいのわ!
「そこじゃありません。このサラダとコショウはなんですか!?パーティーに出すと言うなら相当したのではないですか!?」
「それか、まぁ気になると思うが詳しくは食事の後だ。折角ライザがお前の為に作ってくれたのだ冷める前に頂くとしよう。」
気になるが父の言う通りでもあるので今は大人しく食べることにした。
久しぶりに味わう料理長の料理はやっぱり美味しかった。
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「それで父上詳しく教えてもらいますよ。いったいどうやってあれだけの物を手に入れたんですか?」
「ああ、あれはなブリッサと仲良くなった商人から買った物だ。あれ以外にライザ絶賛の塩も買えたぞ。」
「アレ以外にもあるだなんて…それでいくらぐらいしたんですか?我が家の財政わかってます?」
「その辺りは大丈夫だ、3金いかなかった程度か。」
「3金って…パーティーで使える分ぐらいの野菜ですもんね、それぐらいしますよね……それにコショウの代金が上乗せされると考えると………」
「何を言っている。全部で3金だぞ、コショウ含めてだ。それ以上家が出せるわけないだろう。」
「は?いやいや、あれだけの量の野菜とコショウで3金未満ってありえないでしょう。野菜だけで3金は行きますよ。」
「残念ながら本当だ息子よ。私も初めて伝票を貰った時は間違ってるのかと思ったが間違い無いと言われたよ。」
「何その商人。天使なの?神なの?」
「まぁ、我々にとっての救いの神であることは間違いないかもしれん。だから、ジャックよ。何が何でも今回のパーティーで良い人を見つけろ。」
「あ、はい。」
俺は父の気迫にそれだけしか答えることが出来なかった…
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学園外交、まぁ外交とは言うが他の国との事でなく貴族同士で繋がるという意味で使われている。
と言うのもこの国の貴族の大半が騎士学校もしくは魔法学院に在籍するのでその間に結婚相手を決めてしまおうと言うものだ。
その為結婚相手の決まっていない家は一時的にこの街に住み家族一丸となって相手を探すのだが皆が皆見つかるわけではない、俺もその一人だしな。
ならば、そこでお終いなのかと思いきやこれにはちょっとした裏技がある。
身内が在学中であるならばそれにかこつけて延長ができるのだ。
とは言っても卒業してしまえば仕事やらなんやらで忙しいので常に学園都市にいることが出来るわけでないので何かしらの名目がいるわけで、今回は俺の誕生日というわけだ。
「本日は我が息子、ジャック・カービンの誕生パーティーに参加して頂き誠に感謝しております。本来ならば楽団でも呼んで盛大に祝いたいところですが残念がら我が家の様な田舎貴族では逆立ちしたって不可能です。ですが参加して頂いた皆様に少しでも喜んで頂けるため我が家の料理人一同が腕を振るいましたのでどうぞそちらをお楽しみください。では、息子のこれまでの人生とこれからの人生の為に乾杯!」
父がジョーク交じりに挨拶を行い一度裏に引っ込むとあちこちで食事を楽しむ声が聞こえる。
上級貴族のパーティーならともかくうちの様な下級貴族の面々はしっかりと料理を楽しんでいく。
だからこそ今回の新鮮な野菜のサラダやコショウが輝くわけで。
「おい、あっちのステーキ食べたか?コショウがかかってたぞ。」
「こっちのスープにも入っていたぞ。それにこのサラダだ。なんて瑞々しいんだ。」
「あら、こちらのお皿に盛られているのは海辺の塩じゃありませんか?」
「ええ、その通りですわ。カービン家は東部の家。海のある西部とは真逆ですのに…」
参加している貴族から驚きの声が挙がっているのを見て父はもちろん使用人一同確かな手ごたえを感じていた。
かくいう俺もかなり実感しているこれは行けるかもしれんぞ。
「これはこれは、遅れて申し訳ない。道が混んでいましてな。」
ストンズ子爵が奥さんと共に遅れてやってきた。
おかしいな、あの人は父と親友だから遅れるなんて絶対ありえないのにそれに奥さんと来ているなんて、あの方は声が出なくなってから王家主催のパーティー以外でなかったはずなのに。
そうしていると周りの面々がストンズ子爵に声をかけていく、あの人は人が良いからたくさんの人に好かれているからな。
「お久しぶりですストンズ子爵お元気なようで何よりです。奥方もお久しぶりです。あまりお会いすることがありませんが顔色も良く安心いたしました。」
「いえいえ、こちらこそお久ぶりです。最近よいものが手に入りまして妻も元気になったのです。久しぶりで緊張しているかもしれないが皆様に挨拶してはどうだ?」
「皆様、お久しぶりで御座います。妻のメリンダ・ストンズです。その節は大変ご心配をおかげしましたが無事治癒いたしましてこうして皆様の御顔を拝見できるまでになりました。」
その一言で会場は驚きに包まれた、ストンズ夫人の声が出ないのは割と有名だったからなそれが急に話し始めたら誰だって驚く、もちろん俺もな。
「カービン子爵が凄い行商人を紹介してくれてね、その商人の持っていた薬を使ったらあっという間に完治したんですよ。本当に彼には頭が上がりませんよ。ああ、今回のパーティーで使われている食材もその行商人が持ち込んだと聞いてますよ。コショウやら新鮮な野菜をこれだけどっさり持ち込んだのですからそれはそれは凄腕なんでしょうな。」
もはや、ストンズ子爵劇場だ。
あの人はたまたま遅れたんじゃないわざと遅れてこの一連の流れを作り出したんだ。
そんな事を思っていたら家令のハロルドが合図をする、登場するなら今しかない。
俺は父と共に会場に出ると他家の皆様と挨拶をしていくのだが今回はいつもと違い露骨に娘を紹介してくる。
田舎貴族にここまで挨拶に来るとはコショウって凄い、素直にそう思った。
・・・
・・
・
誕生パーティーから数日後、家を出る日になった。
「ジャック、しっかりな。焦ることは無いんだぞ。」
「その通りよ。いい顔を見せようとせず、いつもの貴方を見せなさい。」
「しっかり捕まえるんだよ最後のチャンスになるかもしれないんだから。」
家族から激励(?)の言葉を貰い俺は家令のハロルドと共に馬車に乗り込んだ。
ゆっくりと馬車が進みだす、西に向かって。
なんと、あのパーティーの後、是非娘に会って欲しいという家が来たのだ。
その猛烈な勢いと相手方の家に悪いうわさが無いことを聞き実家に帰る前にそちらに行くことになった。
もしかしたら、念願の嫁をとうとう手に入れることが出来るかもしれない。
ありがとう、顔も知らぬ商人。
君はまさに俺にとっての天使、いや神だ。
旅立ちの今日の天気は俺の心のように雲一つなく澄み渡っていた。
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