穏やかな日々と…
ゴーレム騒動から一か月、学園都市はほぼ前と同じような状態に戻っていた。
今日も街の東西からいろいろな露天商が入ってきて街のメインストリートは客を呼ぶ声で賑わい、そんな彼らの護衛である冒険者たちは仕事の終わりの一杯と街で飲んだくれていた。
そんな露店の一店舗で俺は今日もいろいろ販売していた。
始めは外れを引いたかと思ったがずっと続けていると馴染の客はついてくれるわけだが
キャーヴィオラサマー!
メイチャーン、メイチャーン!
ホント、大丈夫だろうかうちの客…
「やぁ、イサナ殿。今日も盛況なようで何よりだ。」
「こんにちわ、ロッソさん。何かありましたか?」
「この近くの知り合いに顔を出した帰りでな。君にお礼を言いたくて寄らせて貰ったのだ。」
「お礼…ですか。特に思い当たらないのですが。」
「前回のパーティーで看板に素材の産地を表示していただろう。アレの影響か何処産の野菜が欲しいや、ワインが欲しいと言う要望が増えて取引先が増えたり、最後にしたビンゴという遊びがブームになりそうでな、今もドンドン注文が届いているのだ。それにほら、こう言うのも来ておるぞ。」
そう言ってロダンさんが渡してきたのは羊皮紙の束だったのでそれの一つを開いて中を読んでみる。
始めに定型文的な挨拶から始まり他家との結びつきが出来ましたといった感謝の言葉が綴られていた。
要するにこれは…
「婚姻への感謝状ですか。」
「その通りだ。あの看板に書かれていたもう一つの事もこうして実を結んだということだ。他の手紙もほとんど同じようなもので、面白いのはロッソ商会宛ではあるものの中身は君に宛てた物だと言う所だ。」
「こちらは協力のお礼として出してたつもりだったのですがこの様な感謝状を貰うと嬉しいものですね。」
「君の思惑はどうあれ間違いなく君はこの国に新しい風を吹き込んだのだ。これは間違いなく君の功績であり誇るべきことだ。何せワシだってこのような感謝状を貰ったのは初めてだからな。それと話が変わるのだが…君はもうすぐこの街を出るのかね?」
そう言ってロダンさんが見ていたのはここに来るまでに寄った開拓村で仕入れた商品の販売スペースだった。
物が減って歩きやすくなったといえば聞こえは良いが実際は在庫が無くなりつつあるだけだ。
神様工房の商品はまだまだいっぱいあるが仕入れ品はもう底が見えているので近々仕入れ兼異世界観光をしようかと思っている所だ。
「見て貰って気づいていただけたと思いますがそろそろ手ごろな商品が目減りしてきましてので仕入れの旅に行こうかと。」
「君の所の良品は正直破格だと思っているがそれでもなかなか買って貰える値段では無いからな。仕方ないとは言え寂しいものだ。ところで何処に行こうか決めているのかね。」
「まだ特に決まってはませんね。何かきっかけが有れば良いんですけどね。」
・・・
・・
・
その日の帰り道、俺は街を出る考えを二人に告げた。
「近々街を出ようと思うから二人ともその心づもりだけはしておいて欲しい。」
「そうだね。大分品物も無くって来たから仕入れに出ないとダメか。」
「主様、次はどちらに向かう予定ですか?」
「それはまだ考えていないんだよな。さて、どこに行こうかね…」
俺はまだ見ぬ世界を想像しながらいつものように帰り道をいくのであった。
※…………………………………………※※※…………………………………………※
赤土と岩山がそびえ立つ荒野を一人の女性が進んでいた。
ジリジリとこちらを焼かんとする太陽のから身を守るためか全身を黒いヴェールの様な独特な衣装で身を包み、ジャリジャリと何かを引き摺るような音を立てて進んでいた。
「早く、巫女様にお伝えせねば。このままでは…」
焦りか疲れかはわからないが悲壮な声を上げながら女性は荒野を進む。
「このままでは我が一族は全滅してしまう。」
女性は精一杯前へ前へと進んでいく。
目指すは二つの尖塔が特徴的な街。
神の使いの許に今荒野からの新たな風が吹こうとしていた。
~ 第1章 始まりと出会いの街 END ~
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