戦勝パーティー(貴族と言えど子供は子供)

 パーティーも半ば、そこそこ盛り上がった頃合いに俺は壇上に上がっていた。

 ここからなら会場全部を見渡せるのでドレス姿のマルチナさんやブリッサさんを見つけることが出来た。

 いつもは鎧姿だがドレス姿だと女の子らしくかわいく見える。

 リーサさんは周りの人とは違う独特な民族衣装を着ているのだが、民族衣装って何故だがセクシーに見えない?

 周りの男たちもチラチラとそちらを見ているのがよく解る。


「主、準備が終わったけどキミは一体何を見ていたのカナ?」


 肩に置いた手にどんどんと力が込められていくのが分かる。


「わかった、解ったからストップ、ストップ!アダダダ…」


「全く、キミという主は目を離すとすぐにこれだ。それで、頼まれてたマイク?とやらの調整は出来たよ。風の魔法はボクの得意分野だからねソレほど難しくはなかったよ。」


 そう言ってヴィオラは俺にマイクもどきを渡してくれた。

 これは風魔法を使って声を遠くまで飛ばしてくれるように調整したものでヴィオラに頼んで作ってもらっていたのだ。

 野外では効果が薄くなるが今だけなら問題ないだろう。


「ああ~マイクのチェック中、メイちゃん聞こえる?あ、OKね、了解。

 それでは、皆様!これよりスペシャルビンゴ大会を始めたいと思います。本日会場に入場の際にマス目に数字が書かれている紙をお受け取りになった方はどうぞ壇上の近くにお集まりください。」


 俺がこのパーティーで用意したのはビンゴゲームだった。

 入場の際に討伐に参加した生徒や兵士の方々と一部のVIPにビンゴカードを配った。

 どうやらこちらの世界には無かったので一度俺達とロッソ商会の面々で試してみたら反応は上々、ロダンさんからもこれなら盛り上がるだろうと太鼓判を押してくれた。

 ルールはごくごく一般的な物5×5マスに数字が書かれており真ん中はフリーでタテ、ヨコ、ナナメが揃ったらビンゴ。

 なお、ビンゴの道具は神様工房の工房長ガンドラダに相談したらすぐに作ってくれた。

 数字もきれいに刻印されて数字のボールも問題なく出て来る上に魔力を込めたら自動で片付く魔法付き、無駄に高性能である。


「それでは、ルール説明も終わりましたので本日の景品をご紹介いたしましょう。まず一等賞の商品です。どうぞ!」


 俺がそういうとメイちゃんが布が被さった商品を置いてある台を持って来てくれた。

 メイちゃんが登場しただけ何故か歓声が上がるがメイちゃんはやらんぞ。

 そして、メイちゃんが勢いよく布をとると会場がどよめいた。


「一等賞の商品は『クリスタルゴーレムの躰』です。水晶で出来た眩いこの躰は今日一番の幸運な人にふさわしいでしょう。今回の景品にするためにロッソ商会がわざわざ競り落としてくれました。」


 小さな山の様な水晶の塊は照明を浴びてキラキラと輝いている。

 その輝きに一部の人は完全に魅了されているようだが横にいる俺はたまったもんじゃない。

 眩しすぎて目を開けるのが辛い、グラサン欲しい…


「では、続きまして二等賞のご紹介です。どうぞ。」


 次はヴィオラが商品を持って来てくれたがやっぱり歓声が上がる。

 コイツはどっかのスターなのかな、てかクリスタルゴーレムのキラキラのせいでコイツまでキラキラして見える、これがイケメン補正か。


「二等賞はこちら、『騎士、魔術師一式セット』こちらは我がオオイリ商店の目玉商品の武具をセットでご提供いたします。これを気に是非とも勉学に励んで頂きたい。」


 おお~と言った声が上がる。

 何せ店頭に並んでいる時から熱い視線を浴びているいるのを知っているからな。

 あまり乗り気でなかった兵士の人たちがこれを見た途端やる気になったのが見えた。

 この街の兵士は真面目だなと常々感心させられる。


「それでは、次は三等賞です。どうぞ。」


 次に出て来たのは縦に長い商品で参加者の期待が高まっていくのを感じる。

 そして、布がとられた瞬間上がったのは驚きの声だった。


「三等賞は『木彫りのビッグベアー』野生の脅威そのものを見事に掘り表した名工の逸品です。提供はオオイリ商店になっております。」


 表れたのは本物と見間違うような迫力を持つ木彫りの熊。

 神様工房のエルフの職人が暇つぶしに作ったらしいのだが出来が凄かった。

 しかも、元の世界のように四足でサケを咥えている姿で無く二足歩行で威嚇しているポーズなのでやたらとデカかった。

 生徒や兵士向けには反応はいまいちだったがVIP席のほうからは欲しいと聞こえたので良しとしよう。


 その後も続々と景品を紹介していきビンゴゲームが始まった。


 ・・・

 ・・

 ・


「29番です!」


 俺がボールに刻まれた数字を読み上げていく度に会場からは一喜一憂の声が上がる。

 貴族と言えど子供は子供。

 やっぱりこういったゲーム類は受けがいいなと思いつつゲームを進めていくと


「当たりました!」


 とうとう、一人目の当選者が現れたので是非壇上にまで来ていただいた。

 壇上に現れたのは黒いロングヘアーに灰色の瞳を持ちメガネをかけた真面目そうな少女だった。


「一等賞おめでとうございます。良ければ、今夜一番の幸運を手に入れたあなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


「ええ、魔法学院、魔導生活科。セイミ・グランヒルズです。」


 グランヒルズ…?

 もしかして宰相の娘かこの子!

 あんまり詳しく聞くと怖いのでこの辺りで切っておこう、ソウシヨウ。


「一等賞、改めておめでとうございます。皆様本日のラッキーガール セイミ・グランヒルズ嬢にもう一度大きな拍手をお願いいたします。」


 そして、彼女は拍手の中ほかの参加者に一礼して壇上から降りて行った。

 更にゲームが続きあれから2回ぐらい数字を読み上げたときにまた声が上がった。


「キタ―――!!」


 会場に響き渡ったのは少年の声だった。

 拍手を受けて壇上に上がったのは金色のショートヘアーに青い瞳のちょっと軽そうな雰囲気の少年だった。


「二等賞おめでとうございます。お名前を伺ってもよろしいですか?」


「騎士学校、部隊指揮科のアーウィンです。なぁなぁ、ホントに武具一式貰えるの?」


「ええ、お渡ししますが家名はよろしかったので?」


「いいよ、いいよ。三男坊だからあんまり関係ないしね。それより早く選びたいなぁ。」


「解りました。では、裏のほうでご用意しておりますのでお好きな物をお選びください。」


 ヒャッホーっと声を上げながら舞台袖に消えていく少年。

 待っている間、ゲーム参加者にいろいろインタビューをして場をつないでいるとメイちゃんからOKサインが出た。


「どうやら、二等賞のアーウィンさんが選び終えたようです。では、どうぞ。」


 再び現れたアーウィンは紺色のマント付きのプレートアーマーを選んだようで手には盾と今はつけてない兜を持ち剣は腰に佩いておりまさにファンタジーのテンプレートの様な装備だった。


「おお~、まさに騎士そのものですね!」


「だろ、だろう!いやぁ~店長の所の商品いいの置いてるのは前から知ってたけど他の商品みたいに武具類は安くないから手が出なかったんだよね~。今日ここで貰えて本当に良かったわ。」


「お喜びいただいてこちらも嬉しいです。では、皆様未来の騎士、アーウィンに大きな拍手を!」


 拍手の中、元の位置に戻ると仲良さそうに周りの生徒に囲まれていた。

 いやぁ~いいの見たわ、ファンタジーと言えば鎧姿の騎士だよな。


 更にさらにゲームは続きとうとう木彫りの熊の番になった。


「ビンゴ!ビンゴ!!」


 次に壇上に上がって来たのは銀色っぽいの髪をツーサイドアップにした少女で俺より小さく(俺が大体160㎝ぐらい)メイちゃんと同じぐらいの背丈だった。


「三等賞おめでとうございます。では、お名前を伺ってもいいですか?」


「ハイ!騎士学校 歩兵科。チェルシー・バーデンです。お爺ちゃんがクマが好きなのでこれはお爺ちゃんにプレゼントします。」


 その言葉に会場がホッコリとした空気に包まれた様な気がした。

 しかし、バーデンって誰だ、さっきも名前を聞いた気がするが全く思い当たる人物がいない。

 ちらりとVIP席を見ると老騎士が照れくさそうに周りと会話してたのが見えた。


「では、お爺ちゃん思いの心優しいチェルシー・バーデン嬢に今一度大きな拍手をお願いします。」


 その後もどんどんビンゴは続き戦勝パーティーは驚くほどの大盛り上がりを見せ幕を閉じた。


 因みにこの大盛り上がりを見てロダンさんはビンゴゲームを販売することに決めたらしい。

 どこまでも商売上手な御仁である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る