おかえりなさい
ジェームズ・グランヒルズ宰相出会って数日後、俺は街から出て少しのところにいた。
周りにはヴィオラとメイちゃんは当然の事、ストンズ家とカービン家の使用人たちにロダン商会の従業員達と大量の天幕が設置されていた。
ロッソさんの所に宰相から連絡があり今日にでもここを遠征隊が通るということだったのでここで待ち伏せしているということだ。
「主、遠征隊の先頭が見えたぞ。もう間もなく主も見えるようになるだろう。」
身体強化の魔術で視力の底上げをしたヴィオラが俺に教えてくれた。
俺の目にはまだ何も見えないが彼女が言うならその通りなのだろう、俺は周りの人たちに遠征隊を受け入れる準備をするように指示をした。
それからしばらくして、俺の目にも見えるようになりどんどん近づいてくる遠征隊に声をかけた。
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。街を魔物の群れから守った勇者様がた!どうですか、街に凱旋する前にここで身綺麗にしていきませんか。鎧や剣を磨くための道具はもちろん。その身で街の脅威を受け止めた皆様方に医療品特別価格でご用意しております。今の歴戦の戦士の様な風貌も悪くはありませんが街にいる家族や恋人、その他不安に怯えた住人の為にここらで手入れをして勝利の花道を進みませんか?」
俺がそう宣伝すると隊列の前方から鎧姿の若い兵士がやってきて、
「キサマ!急に大声を出すな。馬が驚いたらどうする!!」
メッチャ怒られた、解せぬ。
「それでキサマは誰の許可を受けてこのようなことをやっている。」
まだまだ怒り心頭気味の兵士に対し俺は一枚の許可証を渡した。
兵士は怒り気味に許可証をひったくるとマジマジと確認し始めた。
最初はしかめっ面だったがだんだんと顔色が悪くなり何度か許可証と俺の顔を見比べるとここで待っていろと告げ急いで遠征隊に帰って行った。
しばらくすると遠征隊の中から数騎近寄ってきた。
その中に一人老人らしく髪や髭は白いが、その体は衰えという言葉が無いのではと疑うほど大きく、立派な鎧を纏った騎士がいた。
見た目からもそうだが何というか雰囲気が違う、魔剣と始めた会った時とは別種の圧力をヒシヒシと感じていた。
これが歴戦の騎士なのかと気圧されているとその騎士が口を開いた。
「許可証を確認させてもらった。君が店主のイサナかね?」
低く威厳のある声で尋ねられたので俺は頭を下げながら答えた。
「その通りです。騎士様。自分がオオイリ商店の店主イサナと申します。どうぞ、お見知りおきを。もし信じて頂けないのであればロッソ商会のロダン様と宰相閣下にお問い合わせください。」
「それは構わん。そもそも宰相家の印入りの許可証を偽装してやることがコレとは思えんしな。それで、コチラの全員を受け入れられるのか?」
「もちろんでございます。手入れ用の油や馬用のブラシ、包帯等医薬品など宰相閣下にお聞きしロッソ商会およびオオイリ商店が町を駆けずり回り集めましたので是非お使いくださいませ。」
「そうだな、折角用意して貰ったのだから使わせてもらおうか。それに、初陣からの凱旋式、親に良い所を見せたい連中も多いだろうしな。」
そういうと老騎士は近くにいた若い騎士に何かを伝えた、おそらくここで休憩と凱旋式の準備をすることを伝えたのだろう。
その後、俺の考えた通り遠征隊の面々がどんどんやってきた。
・・・
・・
・
「磨き布と汚れ落としはこちらでご用意しております。」
「淑女用の天幕は奥にご用意しております。案内係のメイドもおりますので分からなければお声掛けくださいませ。」
「包帯などの医薬品の販売はこちらで御座います。代金は街についてからでも構いません。」
あれからどんどんやってくる遠征隊に借りてきた使用人の面々は走らないギリギリの速度で移動しながら対応している。
ソレに対して俺達オオイリ商店の面々は、
「子供店長ありがとね、これで親にかっこいい姿で凱旋を見せれるよ。」
「ヴィオラ様、私ゴーレムを討伐しましたの。」
「うおぉぉ~、メイちゃんが出迎えてくれてる。生きて帰ってきてよかった~。」
魔法学院、騎士学校問わずいろいろな生徒に囲まれていた。
一度しか見たことない子もいれば何回も見た子もいる。
その子たちが戦場に言ってたと思うと苦しくなると同時に無事に帰って来てくれた喜びも感じていた。
またあえて本当に良かったとしみじみ感じているとダニエルさんがやってきていきなり俺を持ち上げてクルクル回り始めた。
「イサナ君、君はなんて素晴らしい商人なんだ。君のおかげで僕は、僕は!ありがとうイサナ君~~~。」
「ダニエルさん。ご無事で良かったです。ただ、目が回ってきたので降ろしてくれると嬉しいのですが。」
「つい、興奮しちゃてね。」とダニエルさんは降ろしてくれたがその途端に俺の頭はガシッと掴まれた。
「商人、助かったゾ。やはり、お前の所の武器は本物ダ。」
俺の頭をガシガシと撫でてきたのはリザード族のリーサさんだった。
「リリリ、リーサさん。こここ、こちらが用意した武器が役に立てて良かったです~~~。あと、そろそろ撫でるのを止めていただけないでしょうか、これ以上されると縮んでしまいそうなのですががが。」
「おお、スマナイ。」と手が離れた瞬間、横から何かがタックルしてきた。
「イサナくん、ありがと~~~。君のおかげで私もマルチナも帰ってこれたよ~。」
「グェ、ブリッサさんも無事で良かったです。こちらが用意したものは役に立ちましたか?」
「役に立った何てものじゃないですよ。アレが無かったら少なくとも私は死んでいましたよ。あと、ブリッサ。そろそろイサナさんを離してあげなさい。イサナさんが潰れるわよ。」
ブリッサさんに襲われて倒れている俺に向かって答えてくれたのは何故かぎくしゃくと動くマルチナさんだった。
「いや~ゴメンゴメンこの喜びを全身で表したくて。」と告げるとブリッサさんは離してくれた。
その後、四人は改めてお礼を言うと隊列に戻ると戻っていった。
「ハハ、主。なかなかモテるじゃないか。」
とヴィオラが俺の左肩に手を置き、
「ソウデスネ、流石は主様です。」
とメイちゃんが俺の右肩を掴む。
「いやはや俺ほどの男になると周りがほっとかないんだな。いや~モテる男は辛いね~。」
「ソウ。」
「ヘェー。」
それだけ言うと二人は一気にその手に力を込めた。
「ッ!!!!!!」
俺が声にならない叫びを上げて二人の顔を見るが二人はただニコニコとして俺に目線を合わせようとしなかった。
その後も遠征隊全員隊列に戻る時まで俺は耐え続けた。
・・・
・・
・
急いで片づけを行い何とか遠征隊が帰ってくる前に街に戻ってきた俺たち一同は凱旋を一目見ようと集まった人たちの列に紛れ込むことが出来た。
そして、太陽が中点に差し掛かること学園都市に遠征隊が帰って来た。
この街で最も大きな南門が開き老騎士を先頭に威風堂々と彼らは入ってきた。
街からは歓声が上がり皆が彼らを讃えた。
その後に歴戦の風貌を見せる兵士が一糸乱れぬ行進で入ってくるとあちこちで兵士の名前が呼ばれていた、この街の防衛隊の面々だったのだろう。
その後少し間を置き若い面々が入って来た。
まず最初に入って来たのは徒歩の者が多い魔法学院の生徒だった。
ダニエルさんが一番先頭で校旗を持って行進しその後ろにリーサさんがいた。
その光景を見たロッソ商会の面々が一斉に歓声を上げた。
「うわ、何事!?」
「あの商人の子の並び順さ。この国で行進時の旗手は基本的に副隊長やそれに近い役職が持ってその後ろに武勲第一位が並ぶのさ。ただ、今回の場合生徒たちは初陣が多いはずだから誰も隊長格に着くことは無い。要するにあの商人の子は魔法学院の武勲第一位と言うわけさ。」
「なるほど、それならこうなるのも納得だな。」
至る所から「ダニエル坊ちゃん」や「ロダン商会、万歳」とかが聞こえてくる。
ダニエルさんは恥ずかしいのだろう、顔を真っ赤にしていたが一切顔を下に向けることなく堂々と行進していった。
魔法学院の行進がある程度進んだ頃、騎兵隊でもある騎士学校の面々が入って来た。
旗手はブリッサさんが務めておりその後ろにマルチナさんが並んでいた。
それを見た両子爵家の面々が一斉に沸き立ち中には涙を流しているメイドさんもいた。
俺たちの近くを通りかかった時こちらに気付いたブリッサさんがさらに旗を高く掲げたので俺は力の限り拍手をしてそれに答えた。
・・・
・・
・
凱旋行進が終わり人もまばらになったのでカービン子爵家に帰ろうとした時ブリッサさんとマルチナさんがこちらにやってきた。
「褒章式は明日のお昼に行うようで今日はすぐに帰って休むように言われたのです。そこにうちの使用人がブリッサの家で我が家と合同で帰還祝いをすると連絡をしに来てくれたのです。」
「それにイサナくんが今、我が家に泊まってるって聞いたから急いで戻って来たよ。だから、一緒に帰ろうよ。」
断る理由もなかったので俺は直ぐに返事をした。
「ええ、是非一緒に行きましょう。ああ、そうだ一つ言い忘れていたことがありました。」
俺の言葉に不思議そうな顔をする2人。
俺は心から気持ちを込めて言った。
「おかえりなさい、二人とも。」
「「ただいま!!」」
俺たちは並んでゆっくりと家に向かって行った。
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