戦いの裏で・中

「カービン子爵にお聞きしたいことがありまして、この国ではどのような凱旋式をするのでしょうか?」


 凱旋、本来の言葉の意味なら勝って帰ってくるという意味だが流石にそんな質素なものにしないはずだ。

 俺が尋ねたいのは戦勝パレードのほうだ。


「一口に凱旋といえどいろいろな規模があるな。他国との戦勝記念になると軍楽隊(軍の音楽隊のこと)が行進曲を奏で国民総出で見に来るような一種の祭りの様な物になるし、魔物の討伐隊程度なら行わないが今回は討伐隊の中でも大規模になるので隊列を組み中央通りを行進する程度は行うだろう。…イサナ殿は勝って帰ってくると考えているのか?」


「ええ、勿論です。そのために今大枚を払って準備しております。もし遠征隊が負けて帰ってきたらうちは破産ですな。」


 すこし、冗談気味に答えると子爵の隣に座っていたカービン夫人が恐る恐る尋ねて来た。


「…イサナさんは何故そこまで遠征隊が勝って帰ってくると信じれるのですか?母として無事帰ってくることを祈っていますがわたくしは不安が消えないのです。」


 彼女の膝の上に置かれている手は小刻みに震えていた。

 俺は顔を引き締めカービン夫人を真っ直ぐ見つめた。


「カービン夫人の考えは仕方ないことかと思います。自分の身内が戦いの場に出ていくと聞けば誰だって不安に押しつぶされると思います。ただ、自分は商人です。彼女たちが命を懸ける場所が戦場ならば商人が命を懸ける場所はその前後だと考えています。前哨戦として彼女たちに魔剣をお渡ししました。ならば後は彼女たちと魔剣を信じ次の戦いに挑むだけです。特に弱小のこちらはでは遅すぎますのでの心意気でないといけませんので。」


「…イサナさんはまだお若いのにご立派ですね。まだ出会ってしばらくしか経ってないイサナさんが娘を信じているならわたくしも信じる以外に方法はありませんね。ありがとうございますイサナさんわたくしはまだまだ貴族の親として甘かったようです。」


 しっかりとカービン夫人は答えた。

 手の震えも無くなっており少し落ち着けたようだ。


「イサナ殿には感謝しっぱなしだな。妻が悩んでいたのは分かっていたのだがどう答えるべきか悩んでいたのだ。さて、先ほどの話の続きをしようか。」


 その後、いろいろと話し合いをし時が来たら人員を貸してくれるという話になりその時はストンズ家に要請してくれるということになった。

 ただ、話の流れでしばらくカービン邸に泊まることになったことだけは未だに不思議だ。


「……では、その時はよろしくお願いします。自分はヴィオラ達を迎えに行ってきます。その際ロッソ氏にカービン家にお世話になることも伝えてきますので少し遅くなると思います。」


「イサナ殿、お尋ねしたいのだがロッソ氏というのはロダン・ロッソ氏の事かね?」


「ええ、その通りですが何か問題がありましたか?」


「いや、ちょっと気になっただけだ。特に問題などはないよ。」


「そうですか、では失礼します。」


 少し気にはなったが問題はないらしいので俺はヴィオラ達を迎えに行くために屋敷を出た。


「…この国で一番大きな商会の会長と知り合いとは本当に彼は何者なのだ。」


「解りませんが敵対だけはしないようにしましょうね…」


 ・・・

 ・・

 ・


 俺は商人からいろいろ買い漁ってるのヴィオラ達のもとに行くと凄いことになっていた。

 俺たちの馬車は割と大きめだと思っていたのだがその馬車はすでにパンパンになっており入らなかった荷物が馬車の横で山積みになっていた。


「おや、主じゃないかそちらの用事は終わったのかい?」


「ああ、終わったが凄い事になっているな…」


「フフ、ボクとメイが頑張ったからね。なぁ、メイ。」


「はい!このメイ、主様の為に頑張りました。これだけあれば満足でしょうか主様。」


「あ、ああ。想像以上だ。ただ本当にこれを捌ききらないと俺たちは破産かもしれないな。」


「フフ、その辺は抜かりないさ。」


 はいっと手渡された俺たちの全財産が入った財布の中はまだ4割ほど残っていた。


「おお~全財産使い切る気でいたが結構残っているな。頑張って値切ったんだな。」


「結構頑張ったからね。それに向こうも早く離れたいみたいだったから捨て値に近い値段で買えたよ。」


「それは言いことだ。とりあえずこれをカバンに入れるか。」


 と言ってもこれだけの量をいちいちカバンの蓋から入れるようなことはしない。

 俺の加護の中には手に触れているものをカバンに中に入れるという地味ながらも凄い力があるのだ、ちなみに出すこともできる。

 山ほどあった荷物もすぐに片付き俺たちはロダンさんに用意してもらった倉庫に荷物を置いた。

 平屋ぐらいの大きさの空き倉庫にどんどんと荷物を置いていき、全部置き終わった後は倉庫もパンパンになっていた。


「改めてみると凄い量だな。でも、これだけあればはったりにはなるかな。」


「メイたちが集めた品物を主様がどう使うかとっても楽しみです。」


「確かに気になるがあえて聞かないでおこう。後の楽しみにしておくよ。」


「そうか、ならお前たちが失望しないように頑張らないとな。」


 そうして俺たちは倉庫を離れカービン邸に戻った。

 途中ロダンさんの家に寄りカービン邸でお世話になってることを使用人に言づけた。

 そして、次の日さっそくロダンさんから連絡があった。

 頼んでいた人物と合わせてくれるとのことだった。

 俺達3人は早速ロダンさんのもとに向かった。

 そこにはロダンさん以外にもう一人男性がいた。


「イサナ殿早速来てくれたか。この方がワシが知る一番偉い人物。

 宰相、ジェームズ・グランヒルズ殿だ。」

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