戦いの後始末

 ゴーレムとの戦いがあった砦では周囲の安全を確認すると森の確保のための残敵掃討のための部隊が再編され間もなく出陣といった状態であった。

 今から出陣の合図を出すために部隊の前に立とうとするバーデンのもとに一人兵士が慌ててやってきた。


「報告。輜重隊より伝令が到着。内容は敵の奇襲部隊が輜重隊を攻撃。撃退に成功したものの荷駄の一部を喪失。さらに重傷者も多数との事です。」


「なんだと!!報告御苦労。伝令にはよく休むように伝えておいてくれ。」


 報告を受けたバーデンは少し思案するものすぐに考えをまとめ、並んでいる部隊の前に立った。


「諸君。これより作戦行動を伝える。先ほど輜重隊から連絡があり彼らが奇襲を受けたとの報が入った。現在は撃退したとのことだがまた敵が現れる可能性があるため1番隊と2番隊は輜重隊の増援に出てもらう。それ以外は先ほど伝えたとおり森内部の索敵及び安全の確保だ。激しい戦闘のあとで申し訳ないがこれも街に住む者たちの為と奮起してもらいたい。では、各部隊行動開始!」


 バーデンの指示を受け各部隊があわただしく行動を始めた。


 ・・・

 ・・

 ・


 その日の夜。

 輜重隊も無事に到着し森に入った部隊も問題もなく砦に帰還し今は各々が身を休めたり友人と語り合ったりしてた。

 そんな中バーデンとこの砦の守備隊長は作戦室で今回の戦いについて話していた。


「では、バーデン辺境伯は今回の騒動が何者かの手によるものだと?」


「ああ、そうみている。今回のゴーレムの動きはおかしなことばかりだ。こちらから攻撃しないと動かない集団や地中からの強襲に輜重隊への奇襲。どうみてもゴーレム達を操ったとしか思えん。実際君たちも人為的な物は感じていただろう?」


「ええ、正直に言うとその通りです。まず前提としてこの南部でゴーレムというのがおかしいです。ウッドだけならわかりますがロックやクリスタルなど運び込まれなければ存在しません。それに報告しはしませんでしたが討伐隊の皆様がくるまでに何度か奴らを倒しに行ってます。その時は攻撃したゴーレムはこちらに倒しに来ましたがそれ以外はこちらに寄ってくることすらしませんでしたから…」


「なるほど。問題は何処が何のためにこれを引き起こしたかの証拠が無いということか。」


「ちなみにバーデン辺境伯は何が目的か想像はついていますか?」


「…あくまでも予想だが主に3つ浮かんではいる。1つ目はこの砦を活動停止にすること2つ目は有力貴族の殺害3つ目は隣国との国交破棄、ぐらいだな。」


「もしや、犯人は隣国の手によるものと?」


「今回の事件で国内の者では旨みが無さ過ぎる。だが今の隣国の状況はどうだ?教会との決別を口にした隣国の強き王は年の為か床に伏し先は長くないと聞くし跡継ぎ問題はもう一度教会を向い入れようとする第一王子派と今のままを貫こうとする第二王子派で分かれているらしいではないか。そしてどちらにもつこうとしない第三王子は今は我が国に留学中。今は。」


「なら、今回の件は王子の暗殺未遂事件ですか!?」


「ここまでどうどうとやって暗殺という言葉で良いかどうかは別としてワシはそう思う。戦いで死んでいたら先ほど言った理由の予想と一致するしな。ただし、あくまでも予想だ、全く関係が無い可能性もあるしな。まぁ、この戦いで奇跡的に死者はおらん。どのような思惑があったがは知らんが無事に防いだのだそこまで考え込む必要はない。」


 そう告げるもののバーデン本人の顔も陰ってはいた。


 ・・・

 ・・

 ・


 月明かりが差し込む森の中に一人の男が立っていた。

 神職者の様なローブを着ているがあちこち引っ掛けたのかボロボロになっておりいたるところに葉っぱなどがついていた。

 男の前には大きな魔法陣が描かれておりそこには岩で出来た人形や木で出来た人形が置かれていた。


「クソ、神を信じぬ愚か者共め。あれで終わりだと思うなよ。神の奇跡に限りはない。貴様らは天罰によって地獄に落ちるのだ。」


「残念ながら次はないよ。」


 男は後ろから聞こえた声の主を確かめようにしたが気付いた時には胸から剣が生えておりそれが男の見た最後の光景だった。


「神の奇跡とか言ってるけどソレただの魔術じゃん。それにアンタが行ったら別に天罰でもなんでも無いし…ってもう聞こえないかごめんごめん。まぁアンタが好きな神様のもとに送ってやったんだから感謝してよね。」


 男とも女とも分からない子供の様な声の主は森の闇を被ったように全身が黒く唯一分かる赤い瞳が爛々と輝いていた。


「全く人様の森に入り込んだ挙句どたばた暴れてくれちゃって。殺すだけで済んだだけありがたいと思ってよね。…でも、暴れてくれたおかげで凄いの見れちゃった。あの真っ赤な魔剣カッコ良かったな~。もっと間近で見たいけど今回は我慢するか。いつか魔剣手に入れたいなぁ、いや槍のほうがいいかな。いやいや、斧も捨てがたいな……」


 そうして赤い瞳はいつか手に入れたいものを口にしながら森の中にと消えて行った。


 一部の者の胸の中に大きな不安を残しつつもこの一連はこうして幕を閉じるのであった。

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