嘆く祝福

 昔々、あるところに精霊が住んでいる樹がありました。

 その樹は周りの人たちからとても大切にされ続けてきました。

 ある時、村の青年が冒険者になると言い最後の挨拶をしにやってきました。

 それを聞いた精霊は青年が無事に帰ってくるように青年の持っていた剣に祝福を与えました。

 冒険者になった青年は祝福された剣を使い多くの人の為に沢山の魔物を倒していきました。

 どんなに傷ついても立ち上がって戦い、青年よりも何倍も大きな敵にも恐れず戦う姿を見て周囲の人は初めこそ英雄を見るような目で見ていましたがいつしか化け物を見るような目で見るようになりました。

 ついに人々は青年を捕え化け物として処刑することにしました…どれだけ青年に助けられてきたかも忘れて。

 青年は生きたまま焼かれることになりました。

 剣に宿る祝福は初めこそ青年を助けようと力を与え続けましたが消えぬ炎にひたすら焼かれ続ける青年を見て自らの行動が逆に青年を苦しめると悟り力を与えるのをやめました。

 炎に包まれて絶命した青年を見て周りの人々は化け物を倒したと喜んでいましたが剣の祝福はその人々こそ化け物だと思いました。

 そうして、人々に絶望した祝福は誰にも力を与えないと誓いました。

 しかし、寂しがり屋の祝福は心の底では待っているのです。

 


 ・・・

 ・・

 ・


 その時私は何が起きたか理解できなかった。

 輜重隊を護衛中街道の側面にある森がざわめいたと思い剣を抜いた途端に木が動きいきなり私たちを襲ってきたのだ。

 奇襲を受けて輜重隊はハチの巣をつついたような騒ぎになった。

 荷駄部隊のさまざまの悲鳴と護衛部隊の飛び交う怒号が聞こえる。

 しかし、私の体は全く動いてくれずかろうじて音は聞こえるが目の前は真っ暗で今にも気を失いそうだった。

 そして聞こえる悲鳴の中に先ほど声をかけてくれた彼女の声も聞こえる。

 助けないと、動かないとと思うものの私の体は全く言うことを来てくれない。


 ≪敵を倒したいのですか?≫


 何処からか声が聞こえる、小さい声なのにしっかりと耳に届いた。

 口が動いたか分からないけど私はと答えた。


 ≪…ここでじっとしていれば貴女の命は私が助けてあげます。しかし無理して今動けば貴女は命を落とすかもしれない。それでも貴方は動きたいのですか?≫


 ―――それでも、私は皆を助けたい―――


 ≪……何故そこまでして動こうとするのです。死んでしまえば全て失うのですよ。≫


 ―――そんなこと関係ない。私は騎士だ。弱きを助け強きを挫く、たとえ絵空事と思われるような騎士道でも私はそれを貫く。騎士学校に入った時に。敵の奇襲を受けて何も出来ずに死ぬなんて死んでも死にきれない。無理をして動いて死ぬならば無理をして動いて1体でも多く道連れにして死んでいくだけよ。それに……―――


 ≪それに?≫


 ―――それに、死ぬならせめて父と母に誇り高い娘であったと思われて死ぬわ。―――


 ≪………ハァ、コチラは自分の命を大切にしそうな子を選んだつもりだったのですがね。行きなさい我が主。貴女が死ぬべき時は今ではありません。貴女の信念、誇りを守るために今立ち上がるのです。その結果化け物と言われようと最期まで共にあります。≫


 ―――ありがとう―――


 ・・・

 ・・

 ・


 解らない誰かとの問答が終わった時、私の体に変化が起きた。

 まず、真っ暗だった視界に光が戻り周りを見渡せるようになってきた。

 そして、まだ痛みはあるものの全身に力が戻り立ち上がれるようになった。

 ならば、後は走るだけ。

 一歩踏み込めばいつも以上に体が動く、少し驚くけれど今は気にしてられない。

 更に走り彼女を襲おうとしていたウッドゴーレムを見つけ後ろから切りかかった。

 メキメキと木が倒れる時のような音とともにウッドゴーレムは二つに別れた。


「大丈夫だった?」


「え、ええ。私は大丈夫よ。…マルチナ、あんた見た目と違ってかなり力があったのね。」


「これは、私も驚いています…」


「?まぁいいわ、私は後方の輜重隊に行くわ。だいぶ隊が伸びきってたから後ろのほうはまだ大丈夫だと思うし。マルチナも行くでしょ。」


「…いいえ。私は前方に行きます。この街道の安全を確保しないと砦には行けませんから。」


「ちょっと!一人でなんて無茶よ!大人しく下がりましょ。」


「大丈夫ですよ。戦ってる音が聞こえてますので一人にはなりません。」


「音?私にはそんなの聞こえないわよ。」


「小さいですからね。きっと少数なのでしょう。後方は何も聞こえないから安全だと思いますよ。後方の護衛部隊に合流したら私の事を伝えてくださいね。」


 私はそれだけを伝えると前方に向かって走り出した。

 もうすでに痛みはなくそれどころか力があふれ出してくる。

 前方のほうに部隊は無くそこにあったのは荷駄隊が捨てて行った荷物で造られたバリケードだった。

 ウッドゴーレム達がそのバリケードを壊そうと群がっていた。

 私はそのバリケードを飛び越えウッドゴーレムの群れの中に飛び込み目につくものから斬りかかった。

 敵の攻撃を避け、捌き、防ぎながらこちらからは斬り、突き、払いとがむしゃらに戦い続けた。

 どれぐらい戦ってたか分からないがなかなか減らないウッドゴーレムにヤキモキしていたら爆音とともにバリケードが壊された、それも

 何事かと思い咄嗟にそっちを見ると2本の両手剣を片手剣かのごとく軽々持った魔法学校の制服を着たリザード族の女子生徒がいた。

 彼女のほうにウッドゴーレムが殺到するが振り回される2本の大剣であっと言う間に倒されていった。

 その時、彼女と目があったのだが互いに何も言わずただひたすら敵を倒していった。

 そうして、周りに敵がいなくなった頃に後方の部隊が近づいてきた。


 私と彼女は互いに顔を見て笑顔で部隊の到着を待った。

 私は魔剣を鞘に納め魔剣の柄を撫でると陽光を反射しきらりと光った。

 それは、誇りを貫いた私を褒めてくれたようだった。

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