忠義の憤怒
昔々、あるところに小さな王国がありました。
小さいながらも忠義に篤い騎士や優れた魔導師のおかげでとても平和に過ごしていました。
ある日の事、魔術師が騎士に言いました。
「国の外れに魔物が出て王様が困っている」と
それを聞いて騎士はすぐに答えました。
「王様が困っているならすぐに討伐に行きましょう。」
その答え通りに騎士はすぐに兵を集め魔物を退治しに行きました。
魔物はとても強く倒した時には騎士以外に残っているものはいませんでした。
騎士は自らの無力感を感じながら国に帰りました。
国に近づくにつれ騎士は違和感を感じました、何故なら夜の筈なのに国に近づくに明るくなっていくのです。
その理由はすぐにわかりました、国が燃えていたのです。
慌てて城下町に入ると多くのゴーレムやキメラが町を破壊していました。
騎士は目につく魔物を全て倒しながら王様のもとに向かいました。
王様の部屋に入るとそこにいたのは魔術師だけでした。
一体何があったのか騎士は魔術師に尋ねました。
すると魔術師はこう答えました。
「私の用意した魔物はとても強かっただろう。」
その言葉を聞いて騎士は全てを理解したのです。
兵士が多く死んだこと、国が燃えていること、そして王様もすでに亡くなっていること。
騎士は、怒りのままに魔術師に斬りかかり、魔導師も負けじと魔法を放ちました。
しかし、騎士の怒りは凄まじく魔導師の素晴らしい魔法ごと魔導師を切伏せました。
何も守れなかった己と国を滅ぼした者たちへの憤りと怒りで狂った騎士は国に残っているあらゆるものを斬っていきました。
そして、夜が明けたころにはすでに火も消え残った物は国のなれの果てと騎士だけでした。
最後に騎士は王国があった場所を見回すと自らの命を絶ちました。
騎士が最期まで手にしていた剣には騎士の憤怒が宿ったままで。
全て、全て斬らねばならぬ!我が忠義を邪魔した魔は全て斬る!!
・・・
・・
・
「カービンさんちょっと馬の様子を見てきてくれるかな。興奮しているようなら落ち着けてきて欲しいんだ。」
「分かりました。すぐに行ってきます。」
先生に言われて私は馬たちのもとに向かって行った。
先生は馬を落ち着かせてきてと言ったけどアレは私に向けて言った言葉だ。
敵がゴーレムと聞いた時からだろうか、それとも出陣した時からだろうか、私は何故か落ち着けないでいた。
周りは初陣だから緊張しているのだろうと言っているが緊張ではないような気がする。
先ほどから魔術師たちがゴーレムに向かって魔法攻撃を行っているがその数はあまり減っていないように見える。
そして、ゴーレムを見るとますます落ち着かなくなっていくのを実感する。
体が熱くなり無意識のうちに抜刀しそうにさえなっていた。
このままではいけないと思いなるべくゴーレムを見ないようにしていたら先生から馬の世話をしに行くように言われたのだ。
本当にどうしてしまったんだろう…
・・・
・・
・
いまだに落ち着けずにウロウロしていると突然大地が揺れた。
すると部隊のすぐ近くに大きな穴が開きそこから一際大きなクリスタルゴーレムが出てきた。
慌てふためく魔術師たちや殿下を守れなど怒号を上げる先輩騎士たち後目に私は今胸に渦巻く気持ちが分かった。
これは、怒りだ、それも言葉にならない程の憤怒。斬らなくちゃ、ワタシの前に立つ魔は全て斬り伏せないと!
≪往くぞ、主!再び我らの前に立つ愚かなゴーレムを討ち果たすのだ!!≫
剣から声が聞こえたような気がするが今は気にする時ではない今はただ敵を斬るだけだ。
たまたま近くに寄って来ていた馬の手綱を取って騎乗し相手を睨みつける。
なんて大きな相手だろうかこんなものを相手するなんて正気の沙汰ではないかもしれないけれど私はコイツを斬らないといけない。
何故ならこいつはワタシが守ろうとするものを壊すから!
ワタシは胸に渦巻く憤怒のままに抜刀しクリスタルゴーレムに突撃した。
後ろで先生が止まるように言った気がするが今のワタシはもう止まらない。
近づいてくるワタシを潰そうとゴーレムは大きな腕を振り下ろしてきたがワタシは馬腹を蹴り上げさらに速度を上げた。
振り下ろされる腕ギリギリを通り抜けそのまますれ違いざまに相手の腕に剣を走らせた。
ワタシの剣はクリスタルで出来ているはずのゴーレムの腕を簡単に切り落とし、片腕を落とされてバランスを崩し倒れたゴーレムの背後からもう一度突撃をし残った腕も切り落とした。
≪頭を斬れ!コイツの核をそこにあるぞ!!≫
両腕を切り落とされて転倒しているゴーレムに近づいてそのまま頸をはねると、何故か周りのゴーレムが崩れだしていった。
≪こいつはゴーレムコマンダーだったからな、コイツを倒したから他のゴーレムが崩れたのだ!!要するに我らの勝利だぞ、主!!!≫
いたるところから勝鬨の声が響いている。
…そうか、私たちは勝ったのか。
咄嗟の事に理解できていなかったが部隊の人が皆無事なのを確認するとだんだんと実感してきた。
今度は、皆を守れた。
胸の中の憤怒はもう消えていた。
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