討伐隊遠征

 時は少し遡るが今回の討伐隊遠征の経緯を説明しよう。

 学園都市から南西方向にいくと旧国境警備用の砦があり普段は街道警備を主な任務に置くこの砦から今回の騒動は始まった。

 すぐ近くには森があり魔物が街道に向かわないように使われているこの砦から信じ難い報告が学園都市の兵士詰所に送られたのだ。


「森に大量のゴーレムを発見。至急援軍を願う。」


 ゴーレム、主に岩や土で出来た体を持ち変り種になると金属や宝石、木材等の体を持つモノもいる。

 また、ゴーレムは自然発生だけでなく人工的に作られることもあり割と身近な魔物とも言える。

 そのため学園都市の兵士詰所にいた者たちはどこぞの魔法学院生徒が失敗作のゴーレムを森に不法投棄したものと思いつつ斥候を走らせるのだがそれは間違いだったとすぐに思い改めることとなる。

 砦に着いた斥候は砦の兵士から話を聞き森に偵察に行こうとするが森に入る前に異常事態に気付いた。

 森の中を蠢く岩の巨体がいたるところから見えたのだ。

 やってきた偵察はすぐさま学園都市に引き換えして行った、ゴーレムの異常発生を伝えるために。


 そして現在、討伐隊は学園都市から3日近くかけて砦周辺に近づいていた。

 討伐隊の人員は約1000名、数で言えば立派なものだが問題はその構成比率であった。

 兵数の約4分の1が実践経験もない生徒たちなのだ。

 数合わせの為に連れてこられたと言っても過言でもないが敵の総戦力が分からない以上連れて来るしかなかったのが実情である。

 残りは街に駐屯している兵士と貴族が差し出した私兵たちであった。

 兵士は常日頃から暴漢や魔物と相対しているため問題ないが私兵たちの練度はまちまちで使える者からそうでない者まで非常に落差が激しいのが現状であった。

 そのため指揮官となったガランド・バーデン辺境伯はどうやって『討伐と犠牲を抑える』という題目をこなそうか必死で考える羽目になったのである。


 砦に到着すると討伐隊は粛々と砦内に入っていく。

 元が国境警備用だっただけになかなか広く今回のような大規模な討伐隊も問題なく入ることが出来た。

 因みに今回砦に着いたのは850名程で残りの人員は輜重隊として翌日到着予定である。

 各員が各々の小隊ごとに動いているなかバーデン辺境伯に街道守備隊隊長がやってきた。


「貴殿が街道守備隊の隊長でよろしいかな?」


「その通りです、バーデン辺境伯。これより街道守備隊は討伐隊の指揮下に入ります。無礼を承知でありますがこのような形で指揮権の譲渡となるのをお許しいただきたい。」


「非常時故構わん。詳しい話を聞きたいのだがよろしいか?」


「かしこまりました。ではこちらへ。」


 そうしてバーデン辺境伯が案内されたのは砦の作戦室だった。

 中央に大きなテーブルがありそこには周辺の地図が置かれておりその地図には森と砦の間の平原に3本の線が書き足されていた。


「では司令官こちらをご覧ください。この対面にある森がゴーレムが発生している森です。奴らに大きな動きはなくほとんど森の中から出てきません。出てきたとしても平原と森の境目ぐらいまでです。独断ではありますがその状況を生かし現在平原に3つの空堀を掘らせています。」


「なるほど、ゴーレムは巨体ゆえ空堀は良い策だ、馬防柵だと役不足だからな。問題は如何にして奴らを倒すかだな。」


「正直こちらとしましては籠城が一番かと思うのですが司令官はどうお考えでしょうか?」


「……そうだな。確かに籠城は考えたがそれは相手の総戦力が分かっていてかつこちらの後方支援が万全だという前提が必須だ。今回は敵の総戦力も分からん上に何よりもこちらの後方が整っていない。今の状態で戦闘が長期化すればこちらが先に干上がる。討って出るしかないのだ。」


「そうでしたか。こちらの考え不足を痛感いたします。」


「ずっと前線にいれば後方が分からないのは当然だ、気にすることは無い。さてどうするか……」


 その後も会議は進み1つの作戦が完成しその内容はこうだ。


 まず部隊を3つに分け一つは騎馬隊を中心にした囮部隊。

 そして魔術師を中心にした攻撃部隊を2つである。

 作戦の第一段階として囮部隊が森に潜むゴーレム達を攻撃し森から空堀近くまで釣り出す。

 その後、3つの空堀を防波堤にし、左右に分けた魔術師部隊の遠距離攻撃を持って敵を撃滅する。


 実戦経験がない者が非常に多いためこのような作戦になった。

 この作戦はすぐさま全部隊に伝えられ皆が準備に取り掛かった。

 作戦実行は明日、命を懸ける時はすぐそこである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る