争いの足音
逃げるようにお屋敷を後にした俺たちは街の通用門につながるメインストリートを進んでいた。
「主様、本当に魔剣の代金を貰わなくてよろしかったのですか?」
「ああ、中途半端に金を貰ってあの魔剣がまがい物とか思われたくなかったからあれでいいのさ。どうせなら払えないようなものだと認識してもらっておいたほうが後々都合がいいからね。」
「都合がいいですか?なぜそうなるのですか?」
「俺はあの魔剣を渡すことで2つのイメージを売り込んだのさ。1つは魔剣を手に入れることが出来るようなルートを持ってるって事。もう1つは魔剣の代金を受け取らなくとも何とかなるような力を持ってるっていう事さ。後ろ盾はないが凄い力を持っているかもしれない行商人と思ってくれればきっとあの家族は何としても俺と関わりあっていたいと思うはずさ。」
「なるほど、だから魔剣の代金を受け取らなくともよかったのですね。凄いです主様。」
「そう言うことだ。これで子爵家の後ろ盾をゲットしたようなものだ。」
「いやはや、流石はボクの主だ。考えることが違うね。それで、実際に主の思惑通りに進む確率はどれぐらいかな?」
折角俺がいい話で終わらせようとしたのにヴィオラは良い笑顔で突っ込んできた。
それはもう痛いところに……
「……高く見積もって2割ぐらいだと思う。実際の所、今の俺は魔剣の代金を受け取らない怪しすぎる商人って見られてるはずだ。下手したらこの騒動を率いてるかもとか思われてるかもしれない、というか思われてるだろうな。」
「ええ!!主様それは大問題ではありませんか!?」
「大問題だよメイちゃん。だから巻き返しの一手を打たなければわけだ。そこで2人に重大な任務を与える。」
俺の言葉にゴクリと息を飲むメイちゃん。
ヴィオラも真面目な顔で俺を見ていた。
「騒ぎを感じて街を離れようとする商人から食料品や生活必需品を買いあさって来て欲しい。たぶん街から逃げようとする商人達は積み荷を軽くしたいと思ってるはずだ。可能な限り多く欲しいから頑張って割引して貰ってね。」
「そんなことで良いのかい?」
「うん。うちがいっぱい買い漁ってるって噂になればいいけど、ならなくとも問題は無いかな。とりあえずいっぱい用意して。」
「理由は分かりませんが了解しました。メイが全身全霊をかけて集めてきます。」
「ボクもとりあえず了解したよ。期待して待っててよ。」
「よし、2人とも頼んだぞ俺は俺で動くからとりあえず今日は日暮れまで頼む。しばらくこればっかりだけど頼んだぞ。」
俺の言葉を皮切りに2人は門に向かって走って行った。
討伐隊が勝たないといけない前提なのでちょっとした博打ではあるけど上手くいくはず。
頼むぞ魔剣たち、お前たちの力で俺の進退が決まるかもしれないんだからな。
※…………………………………………※※※…………………………………………※
イサナ達が通用門で買い漁りを始めた翌日、騎士学校には町の衛兵をはじめとした兵士や貴族の家に登用された騎士にここの生徒たちである騎士見習いといった面々が集まっていた。
その中にはもちろんブリッサやマルチナもおり腰には鞘に納められた魔剣がぶら下がっていた。
集まった面々は一様に一点を向いておりその視線の先には一人の老人が立っていた。
「諸君、よくぞ集まってくれた。ワシはガランド・バーデンこの戦いの総司令官を務める者だ。」
壇上から挨拶をする老人はガランド・バーデン辺境伯と言いこの国最大の領地を持つ貴族であり多くの戦果を挙げてきたこの国きっての大貴族である。
彼の髪はすでに白く年相応ではあるが、その体は鍛えられており重厚な鎧を身にまとい全く衰えを感じさせない。
すでに領地の経営を後継者に託し隠居の身であったのだが、孫娘が騎士学校に入学するため保護者としてこの街に留まっていた。
その為に今回の戦いの総司令官に任じられてしまったである。
こういった緊急時には街にいる最高位の貴族が指揮権をとるため彼が選ばれても何も問題は無さそうだが現在の学園都市には彼よりも高位の者がいた。
というのも今の両学園にはそこそこ留学生がおりその筆頭が騎士学校に在籍する隣国の王子であった。
そして、魔法学園にはこの国の宰相家の子供が在籍しており当初はこの家の者が指揮を執るはずであったがそれを隣国の王家の一派が拒否。
実際の戦いの前に机を挟み喧々諤々の激しい口での争いの末に、かの大貴族が指揮を執ることになったのだ。
因みに指揮を執る羽目になった大貴族はため息をついたそうだがこれ以上は彼の名誉のために黙っておくとしよう。
そして、部隊割りが次々に発表されていきブリッサとマルチナの所属する部隊も明らかになった。
ブリッサは遠距離攻撃を行う魔導師たちの護衛部隊に、マルチナは物資輸送を行う
「………以上を持って部隊編成を終了する。出立は明日、夜明けの鐘とともに行う。以上解散。」
争いの足音はすぐ其処にまで近寄っている。
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