魔剣の代価
俺たちは凄まじい圧力(魔力?)を放つ魔剣を鞘に入れさらに神秘的な模様が刻まれている箱に納め両子爵が待つ部屋に向かっていた。
「なぁヴィオラ、お前だったらこの魔剣いくらで買う?」
「そうだね…自分の持ち得る全財産を投げ払ってでも買うと言うべきなのだろうが正直に言うと要らないかな。」
「え!?要らないって答えに何の!?こんな凄そうな剣なのに!?」
「そこだよ主。その剣は凄そうではなく凄い。むしろ凄すぎるんだ。そんな物持っていたらどれだけ命が狙われるか分からないし下手をすれば戦争ものだ。ソレほどの代物は王家の宝物庫にもあるかすら怪しいモノさ。」
「マジで?ホントにいくらを提示しようか…」
「ちなみにご自慢の【目利き】ではどういった情報をくれたんだい?」
「金銭的価値付不可、って出たよ。マジでどうしよう…」
≪どうやら某達の扱いに困っているようだが安心するといい。先ほどは自己紹介代わりに全力で魔力を放出させてもらったが次からはごくごく一般的な魔剣ぐらいまで抑えておくからな。安心して引き渡すがいい。≫
俺の付けてる腕輪を介して忠義の憤怒がそう言ってくれた。
くれたのだがそうじゃないんだよ、どちらの家も魔剣を買えそうな金がないんだよ。
さらに悩む俺の肩にヴィオラは手を置いてこう言った、
「よかったね主。魔剣もこう言ってるし気軽に売れるね。」
なんて、笑顔で、というかニヤニヤしながら言いやがった!
この野郎、いや、女だからアマか。
このアマ、紛いなりにも主を励ますどころか煽りやがった。
「見てろよヴィオラ!ぜってぇーこの二振りを売って見せるからな。お前に主の凄さを見せてやる!」
俺は豪快に啖呵を切ると大股でドンドンと先に進んだのだった。
「フフ…それでこそボクの主だよ。」
・・・
・・
・
俺たちが部屋に入るとそこにはすでに子爵家一同が揃っておりいつもピリピリした雰囲気になっていた。
まぁ、分からんでもないこれから娘の初陣の為の武器を見るのだから緊張もするししっかり見極めなければという使命感もあるのだろう。
ハロルドさんが椅子を引いてくれて座った席はブリッサさんとマルチナさんの正面だった。
「遅くなってしまい申し訳ございません。自分が扱う中でもとびきりの逸品な物で少し取り出すのに手間取ってしまいました。」
少しでもこの重苦しい空気を和ませようと少し明るく言ったつもりなのだがますます顔を強張らせる一同、ストンズ子爵なんて緊張のし過ぎか顔が真っ青になっているぞ。
「さて、現物を見てもらう前にお二人に聞きたいのですがお二人は剣は得意ですか?持って来てから聞くのも変な話ではありますがお二人の為に持ってきたのがサーベルとレイピアな物でもし苦手ならすぐに持ち帰りますので。」
「大丈夫だよイサナさん。ワタシもマルチナも剣が一番得意だからね。その組み合わせならワタシがサーベルでマルチナがレイピアだね。」
「そうですね、ブリッサの言うとおりの分け方でお願いします。彼女なんて騎士学校の模擬戦で騎馬突撃するぐらいですからよく切れるサーベルなら大喜びしますよ。」
得意げに話す2人のおかげで幾分か空気が和らいだ気がするのでここで真打の登場と行こうか。
「おお、そうでしたか。それは良かったです。お持ちしましょう。」
そして俺は後ろで控えていた二人に合図を出し魔剣の入った箱を俺の前に置かせた。
気づけば部屋は静まり返っており誰かがゴクリと唾を飲む音だけがやけに響いた。
俺は2人に見せる前にどうしても伝えておきたいことがあったのでそっと箱に手を置き口を開いた。
「この中に入っているのは御二人が命を預ける相棒です。私は御二人が必ず帰って来れる品物が欲しいと言われたのでご希望通りの品をお持ちしました。この箱の中にはその願いを叶える力を持つ逸品が入っております。しかし、力を持つという事はそれ相応の覚悟を御持ち頂きたいのです。この中に入っている物は此処にいる皆様方が見たことも無い想像も絶する物です。ですので見てから考えるのではなく見る前に考えて頂きたい。想像を超える力と一生を共にする覚悟を。」
俺は言いたいことを言いきると二つの箱を二人の前に差し出した。
憤怒の忠義はブリッサさんの前に。
嘆きの祝福はマルチナさんの前に。
2人はジッと箱を見つめ続けた。
きっと俺の言葉を考えてくれているのだろう全く動かずただ一点だけを見つめていた。
俺の言葉から何分立っただろうか、5分か10分かもしくはもっと長いかもしれないしもっともっと短いかもしれない。
音すらなくなった様なこの空間でやっと二人は動き出した。
まるで鏡合わせのよう二人は同時ににそっと箱に手を伸ばし、そして力強く自らのもとに引き寄せた。
二人は驚いた表情で互いの方に振り向くと何か納得したのか先ほどとは打って変わって決意に満ちた顔で俺の方に顔を向けた。
「御二人の覚悟を確かに感じました。どうぞ箱を開けてください。覚悟を決めたその時からそれはもうすでに貴女の物ですから。」
二人が箱を開けると二振りの魔剣は新たな主を喜ぶかのように力強く輝いた。
「まさか、魔剣!?」
驚く大人達を尻目にブリッサさんとマルチナさんはとても自然に受け入れていた。
まるで箱に中身が何かを知っていたかのように。
「イサナ殿。確かに我々は娘たちが無事に帰ってくる為の品物を頼んだが流石に魔剣は想定外だ。恥ずかしい話だが正直に言おう。とてもじゃないが我々の家ではこの魔剣を買う代金を一生かけても用意することは出来ない。」
代金のことは俺も確かにずっと悩んでいた。
この魔剣を金に換算すればコショウなんて比べ物にならないぐらいなのはこの世界に疎い俺ですらすぐにわかる。
ただ、俺の中でもう代金なんてどうでも良くなっていた。
「代金ですが別に結構ですよ。その魔剣に値をつけるなんて不可能ですので。ただ、まぁどうしてもいうならこれからも末永いお付き合いをお願いします。それだけで結構ですので。」
俺の返答に驚く大人達。
まぁ、そりゃそうだろう何せこの魔剣を売れば一生どころか三生ぐらい遊んで暮らせそうな金は稼げるだろう。
しかし、俺が彼女たちの為に選んだのでなく、
「ブリッサさん、マルチナさん。実は私は今回一つだけ嘘をついてしまいました。私は貴女方の為に剣を選んだと言いましたが本当はその剣が貴女方を選んだのです。ですので私にはその剣の代金を受け取る資格は無いのですよ。それに、先ほども言ったでしょう?『覚悟を決めたその時からそれは貴女の物ですから』とね。では、長くなってしまいましたが我々はこれで御暇させていただきます。では、次は戦勝祝いでお会いしましょう。」
あの魔剣が、彼女たちを選んだのだから。
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