魔剣

 ヴィオラとメイちゃんと共に馬車に戻ってきた俺は2人に魔剣を取り出す事を説明した。


「魔剣か…とうとう伝説級のアイテムが出てくるのか。使命の為とはいえ無理をしたらダメだよ、主。」


「主様、メイは何もできないかも知れませんが精一杯応援させて貰います。」


「2人ともありがとう。わざわざグランフィリア様が伝えてきたってことは何かしら問題が出てくる可能性があるから何かあったら対応してくれ。 さて、あ~王剣きこえる?」


 俺は腕輪に向かって声を掛けると返事をするかのように蒼い光が点滅した。


 ≪聞こえているぞ商人。何か問題でもあったか?≫


「いや、問題っていう事では無いんだ、むしろこれからが問題というか。簡単に言うと魔剣にかかってる封印について教えて欲しいんだ。」


 ≪アレの事か、良かろう教えてやろう。まず前提としてこの宝物庫に収められている我々自我持ちの武具は実体を持っておらぬ。魂だけの状態と思って貰っても構わない。そちらの世界に渡る時に何かしらの触媒に力の一部を憑依させることでこれまで顕現してきたのだ。そうする制限を付けさせているのが今我々に付いている封印なのだ。こうして力を制限させることで世界のパワーバランスをとってきたわけだな。だが貴公が今から行うのはその封印を無理矢理押さえつけ完全な形のでの顕現であるからな。正直どうなるか我々も解らぬ。≫


「話を聞けば聞くほど不安になって来るんだけど。そんな事して俺大丈夫かな?」


 ≪どうなるかは解らんが封印に関する注意点を教えておこう。我々に掛けられている封印はグランフィリアが行える最高の封印だ。防衛機構として触れたものを虚無の彼方に飲み込む性質があり封印をしたグランフィリア本人ですら解除できない代物だ。しかし、異世界の神々の加護を持つ貴公ならその封印に触れても簡単には飲み込まれないだろう。貴公はいつもと同じくそのカバンに手を入れ我々を掴み、力の限り引き抜けばいい。簡単なことだろう?≫


「いやいやいや、何だよ虚無の彼方って怖すぎるわ!!マジで俺そんな事しないとダメなのか?」


 ≪残念ながら他に方法は無い。貴公も男なら覚悟を決めることだ。≫


 ホント虚無の彼方ってマジでなんだよ…

 失敗したらソレに飲み込まれるんだろ…

 足まで震えてきたわ…


「主、話は聞いていたが今回は諦めるべきだ。グランフィリア様がかけた封印はどうあがいても人が対処できる物じゃない。今回は仕方ない。魔剣でなくとも業物は多くあるだろう。それで手を打って貰おう。」


「そうです。主様。もし主様が虚無の彼方って所に飲み込まれてしまうと考えるだけでメイは震えが止まりません。これは手を出しては行けない禁忌そのものです。」


 2人が不安そうな表情で諦めるように言ってくれる。

 そうだよな、その通りだと思う。

 いくら何でも商品の為に命を懸けるのはバカらしいよな。

 俺もそう思う、全く異論はない。


 ただ、


 だけど、


「それじゃダメなんだ。」


 俺は商人で、


 この世界は平和に見えてるけど、


「これから彼女たちは命を懸けてこの街を守りに行くんだ、」


 だから俺は、


「ここで、命を懸けないと彼女たちの前に立つ顔がないんだ!」


 俺は勢いよくカバンの蓋を開けると一気に手を突っ込んだ。

 ヴィオラとメイちゃんから声になっていない悲鳴が聞こえるが俺は止めることなくカバンを漁ると手に何かが当たるのを感じそれを掴んで取り出そうとしたのだが、逆にカバンの中に引きずり込まれそうになった。

 この引きずり込もうとする力が封印か!

 俺は咄嗟に馬車のヘリを掴んで何とか耐えると魔剣を取り出すため必死に力を込めた。

 額から大量の汗を流しながらなんとかこちら側に取り出そうとするものの先ほどから全く動かず拮抗状態になってしまった。


 先ほどから腕輪が世話しなく点滅を繰り返しいろいろな声援が聞こえてくるが少しずつ馬車を掴んでいる手の感覚が無くなってきているのを感じていた。

 何とかしないといけないと思った矢先に一瞬封印側の力が強くなった。


 一瞬ではあるものの今の均衡を崩すには十分な力だった、俺はその一瞬に対処できず馬車を掴んでいた手を離してしまった。



 飲まれる!



 そう思ったのだが俺は引きずり込まれる事無くまだカバンに片腕を入れたままだった。

 何があったのか咄嗟に確認するとヴィオラとメイちゃんが抱き着く様な形で俺を支えてくれていた。


「主ばかりに無茶はさせないよ。」

「主様はこのメイが守るのです!」


 全く… うちの従業員は頼りになりすぎて困るな。


「このままじゃ埒が明かないから一気にいこう。」


 俺は開いていた片腕もカバンの中に入れ両手で魔剣を握った。

 そして、ヴィオラとメイちゃんの顔を交互にみると二人とも目を合わせて頷いてくれた。



「「「せーのっ!」」」



 合図とともに渾身の力を籠めるとそのままの勢いでカバンから何かが飛び出してきた。

 俺たち3人は引っ張った勢いのまま尻もちをついてしまったがカバンから出てきた光輝く剣に目を奪われていた。


 ≪ウォォ~~~~!!! 感謝するぞ商人とその従者よ。良くぞ命を懸けて封印から解放してくれた。それがしは『忠義の憤怒』と呼ばれしもの、こちらは『嘆く祝福』。必ずや新たな持ち主の為に力を振るおうぞ。≫


 そう熱く名乗りを上げたのは紅く輝くサーベル(曲刀タイプの騎兵向け)だった。


 ≪呼ばれてしまった以上は精一杯頑張りますよ ハァ…≫


 対して陰鬱な感じなのは翠に輝くレイピア(刺突専用ではなく細身で両刃の物)である。


 対照的な二振りであるがその刀身からは凄まじい物を感じる。

 魔法というか魔力と言うものを良く知らない俺ですら感じる圧倒的な力に驚きを隠せないのだが魔法をよく知るヴィオラやメイちゃんはそれどころでなかった。


「これが神界に封印されていた魔剣… 現存する魔剣なんて比較にならない。」


 ヴィオラは心ここに在らずといった表情でジッと二振りを見つめていた。

 ちなみに、メイちゃんは出てきた瞬間の魔力に当てれたらしく「キュ~」と可愛い声を出して気を失っていた。


 そして俺はこの二振りを見てどうやって売ればいいか逆に悩んでいたのであった。



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