騒ぎの一日

 明け方、今日もいつものように露店を開くために馬車に乗り込もうとしたときの事だった。


 グラグラグラ!!


 地震だ!と感じるも地震大国出身の身としては震度3ぐらいかなっとのほほんと感じていた。


「揺れたけどみんな大丈夫?」


「はい、メイは大丈夫です。」


 メイちゃんは明るく返事をしてくれて大丈夫そうだったがもう一人のほうはそれどころじゃなかった。

 どこから出したかわからないが弓を構え鋭い目で辺りを警戒していた。


「ヴィオラ…お前は何と戦う気なんだ?」


「主こそ何をのほほんとしてるんだい!?大地が揺れたんだよ!もしかしたら敵の魔術かもしれないじゃないか。」


「敵って…この程度の揺れで何かを倒すことなんて出来ないだろ。ただの地震だよ地震。ほら、準備、準備。」


 その後も涙目で渋るヴィオラに地震のメカニズムを説明しとっとと準備を進めた。

 ちなみに涙目のヴィオラはちょっと可愛かった。


 ・・・

 ・・

 ・


「いや~、助かりましたよ。これでライザ料理長に怒鳴られなくてすみそうです。」


「いえいえ、お気になさらず。また用があれば来てください。」


 カービン家の料理人が買っていったのは木製の大皿で今日これを買っていったのはすでに3人目だ。

 明け方の地震で大分皿を割ったのだろう、いたるところで使用人っぽい恰好した人が食器を手にうろうろしているのが見えた。


「主の読み通り木製食器がよく出るね。普段からこれぐらい売れたらいいのに。」


「まぁ陶器製の食器なんて貴族かお高い料理屋ぐらいでしか使わないからな今日だけの特需だろうな。」


 とはいえ流石に村々で仕入れてきた品物にもそこが見え始めたからそろそろ仕入れも兼ねてどこかに移動するいい機会かもしれないな…

 次々に食器類を買って行く使用人を捌きつつそのようなことを考えていた。


 ・・・

 ・・

 ・


「イサナ君こんにちわ。今日はお客さんを連れてきたよ。」


 お昼過ぎ、ダニエルさんが、赤茶色っぽい髪は腰のあたりまで長く何かの骨で出来たヘアバンドを付け170㎝は超えてそうな一人の女子生徒を連れてきた。


「彼女の名前はリーサ。僕の同級生で故郷を離れこちらに来ているんだけど最近伸び悩んでいるらしくてね少し聞いて貰いたいんだけどいいかな?」


 紹介された彼女リーサはぺこりと頭下げると俺の後方に目を移した。


「こんな所でリザード族とは珍しいじゃないか。」


 俺の後ろからやってきたヴィオラは珍しそうな声をあげてリーサを見ていた。


「ソウダ。アタシはリザード族の巫女リーサ。ここに武器があると聞いてヤッテキタ。」


 少し片言で挨拶してくれたリーサはヴィオラを見ていた目を俺に移しそう言った。

 ヴィオラが気づいたようにリーサもヴィオラの正体に気付いたのではないかと少しハラハラしつつも俺は店の端に置いてある武器エリアに案内する。


「彼女はこの国に魔法技術を学びに留学しててね。もともとは北部の荒地帯に住む種族だからこの国の言葉に慣れてないんだ。少し片言だけど許してあげてね。」


 ダニエルさんが店の中を移動しながらそう教えてくれた。

 因みに俺の露店エリアは結構デカい、幅5m奥行3m程あるのでちょっとした店舗並みである。

 商人ギルドに広くて安い所を紹介してもらったおかげである。


 …まぁ初めの頃は人気がなさ過ぎて閑古鳥が鳴いていたがな。 


 話が少しずれたが彼女、リーサを案内するとさっきまで睨むような視線だったが今はオモチャを前にした子供のようにキラキラしている。


「どうぞ好きなのを選んでください。試し切りは出来ませんが手に取って振っていただいてかまいませんよ。」


 彼女は一言そうか、とだけ言い並んでいる武器を見て少し悩んでいたが一番近くにあった両手剣を手に取るとそのまま店の外に出て行った。


 慌てて追いかけるとそこには元気に剣を振り回すリーサさんの姿があった、しかも片手である。


「マジかよ…」


 あの剣は俺が両手で持つのに苦労する重さで何とか店に置いたものである。

 ちなみにメイちゃんは片手で持てる重さらしい、鬼ってスゲー。


 試し振りを終えたリーサさんは剣を肩に置いて戻ってくると俺の肩に手を置いた。


 <素晴らしい剣だがまだ軽いな。もうすこし重たい武器はないだろうか?>


 <あるにはありますがここには置いてませんので少しお待ちいただけますか?>


 <ああ、それは構わない。ここにあるのは業物ばかりだからな見ているだけでもいい時間つぶしになる。>


 武器を振り回して興奮していたのか先ほどと打って変わってリーサさんの要望を聞いて馬車からもっと武器を持ってこようと振り向くと驚きの表情を浮かべたヴィオラとダニエルさんがいた。


「主…君、リザード族の言葉を話せたのかい!?」


「リーサ、君は気付かなかったのかい!?イサナ君が君の種族の言葉で話していたのを!」


 2人のセリフに首をかしげる俺とリーサさん。

 絶対話していたということで改めて話すことになった。


「商人、お前は我らの部族の言葉がハナセルノカ?」


「いえ。自分は先ほども普段通りに話していただけですよ。特別な言葉で話したつもりはないですよ。」


 <ワタシは興奮して気付かなかったが二人は我々二人が違う言葉で話していたと言っているぞ。>


 <しかし、知らない言葉で話すなんて… ナンジャコリャァァ!!!>


 よく聞くと俺の口からは聞いたことを無い音を出していたがなぜか意味が分かる。

 どどど、どういうことだ!

 こういう時はヴィオラ先生の時間だ、教えてヴィオラ先生。


 <主、君は今リーサと何を話したんだい?>


 <話すも何もさっきの確認… ってまたよく分からん音を発してるぞ俺~~!!>


 どどど、どどど、どういうことだ!!

 今度はヴィオラと話した時にさっきと違う音を出してるぅ~でも、意味が分かるぅ~ 頭がおかしくなりそうだ…


「なるほど…主に何があったのか分かったよ。主のソレは『ギフト』だろう。恐らく無意識のうちに相手の話した言語と同じ言語で話すことが出来るのだろうね。まぁ、詳しくは宿で戻ってから説明してあげるから今はそちらのお客様の相手を頼むよ。」


 ヴィオラの説明に納得するダニエルさんとリーサさんだが俺はいまいちよく分かってなかった。

 しかし、ヴィオラの言うとおり今はリーサさんの要望を叶えることが優先なのでそちらを片付けよう。

 なので、メイちゃんを呼んで武器を運ぶ手伝いをしてもらった。

 …何故かって?

 だって俺だと持てないからね。


 ・・・

 ・・

 ・


 その後いろいろ試したもののシックリくるものがなかったらしい。


「スマナイ、商人。いろいろ出してもらったのに選びキレズ。ただ、武器は己の命を懸けるものなので妥協したく無いノダ。」


「気にすることは無いですよ。こればっかりは縁が無かったということですし。」


 とはいえ、かなり無念である。

 折角ダニエルさんがこちらを頼ってくれたのに力になれずにいるとは商人として情けない。

 その時ふと、腕につけてる神様からの腕輪が目に入った。

 いつもは向こうから声をかけてくるが一か八かこちらから声をかけてみた。


 ≪!!!!!!!!≫


 もはや何を言っているかわからないほどの声と眩いばかりの光が腕輪から溢れてきたので慌てて腕輪を押さえる。

 これは失敗だったかと思うと急に静かになり指の間からはいつものように穏やかな光が差し込んできた。


 ≪失礼をした。我々もまさかそちらからの声をかけられるとは思ってもおらず少し驚いてしまったのだ。一同を代表して謝らせてほしい。≫


「それは構わない。俺もまさかこうなるとは思ってなかったので今度からは声をかけないようにするよ。」


 ≪いや、次は大丈夫だ。何せ一度声がかかって来たということが分かればこちらも対応できるのでな。ああ、遅くなったが我はこの宝物庫の代表だ。名を明かすことはできないが周りからはと呼ばれているのでそう呼称してもらって構わない。≫


 王剣と名乗る宝物庫の代表はかなり渋い男の声をしていた。

 とりあえず俺は現状を王剣に伝えるとすぐにも返事きた。


 ≪実は彼女に目を付けてるモノがおるのだがそのもの曰く今彼女の手に渡ると勉学をそっちのけで暴れまわるのが目に見えているので一族の代表の巫女として納めるべき勉強が終わればぜひ共に行きたいとのことだ。≫


「分かった。ありがとう王剣。そのことを彼女に伝えるよ。」


〔シルフの落書き帳〕のかなり押せ押せのイメージのせいがあったので相手の状況を鑑みるというのは意外だった。

 まぁ何はともあれこの結果を彼女に伝えよう。


「リーサさん!今回はこちらの準備不足によりアナタの希望に合う武器を用意できませんでした。ですので、リーサさんがこの街を出る前までに必ず納得いく武器をご用意しますのでその時は是非お越しください。必ずやピッタリな武器をお渡ししましょう。ですのでその時まではお勉強を頑張ってください。」


「ソウカ。世話をかける、商人。ワタシが卒業する時を楽しみにシテイル。」


「よかったね、リーサ。イサナ君ならきっとすごい物を持ってきてくれるよ。」


「ウム。その時が楽しみダ。ソレに今いい武器を手に入れると勉強よりも暴れてシマイソウダ。」


「代わりと言っては何ですがピッタリの武器が見つかるまでここに置いてある武器の貸出を致しますよ。購入するよりもお安くさせて頂きますがどうでしょうか?」


「それはありがたいがそちらは構わないのカ?」


「ええ、構いませんよ。ただし、貸出ですので返却不能な程破損されましたら購入時と同じ代金を頂きます。それに、勉強が疎かになったと聞けばすぐに返却していただきますからね。」


「ウ、ウム。肝に銘じてオク。」


 そう言って彼女は両手持ちの大剣を2担いだ、つくづく異世界と言うのは規格外だ。 

 しかし今彼女にピッタリの武器を渡していたら王剣が言ってた通り結末になりそうだったのか。

 やっぱりは自分の持ち主候補をよくみてるんだな。

 そんなことを思いながら店を出ていくダニエルさんとリーサさんを見送った。


 今日は地震やらリーサさんやら王剣やらなんだかんだと忙しかったから早く帰って寝よ。


「主、今日の夜はギフトについてじっくり話すから楽しみにしててくれ。」


 どうやら今日はまだまだ終わらないようだ。

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