損して得とれ
道具の呼び声を聞いてすぐに取りに行きとってきたソレをロダンさんの前においた。
ソレは元の世界の19世紀ごろに流行ったレンズの小さな鼻にかけるメガネだった。
【霊具・賢者の眼鏡】
・過去に実在した賢者と呼ばれた魔導師が老いてから作った物
・レンズには魔術を施しやすいように透明度の高い水晶が使われておりどれだけ視力が悪くともピッタリと矯正してくれる上に滑り止めや速読の魔術などが込められている
・ちなみにこの眼鏡が有名になりすぎて魔導師=眼鏡の考えが広まった
・価格は小金貨1枚程
何でもあるな神界の道具…
とりあえず【目利き】によるとこれは1金らしいが今までいろいろ見てきたがおそらくこの価格に付加価値はついてないのだろう。
材料費や加工賃や人件費ぐらいの合わせた値段か作った本人がこのぐらいの価値だと思う値段を教えてくれているのだろう。
そうでもないと前の魔本は安すぎた見たいだしこれも有名人が使ってた上に歴史的価値が高そうだからもっとするはずだ。
ただ、問題があるとすれば俺がこの世界に詳しくないので付加価値を設定できないことだ。
まぁ、嘆くのは後にしてとりあえずロダンさんに手に取ってもらうように促した。
「どうぞ、ロダンさんこちらのメガネは―」
「ああ、説明は結構。〈鑑定〉のスキルがあるからこちらで見させてもらおう。」
「<鑑定>のスキルですか…」
「ああ、商人ならだれもが欲しがるアレだ。ここまで商会を大きくできたのもこのスキルによる力が大きい。道具に秘められた力しかわからないがそれだけ分かればどのようなマジックアイテムも安全に取り扱うことが出来るからな。しかし、魔導師のメガネとは基本中の基本を持ってきたな。デザインは古いが悪くない、むしろアンティークな趣で逆にいいかもしれんな。」
〈鑑定〉のスキルとやらで【賢者の眼鏡】を見ていくロダンさん。
魔導師のメガネと言っていたので俺の〈目利き〉とは少し違うのだろうが先ほどの口ぶりからして商人からすれば垂涎のスキルの様だ。
あとでヴィオラ辺りにその辺を聞いてみよう、あいつなら答えてくれるだろう。
≪商人殿、このお方はなかなか働き甲斐がありそうな御仁ですね。是非とも私を売り込んでいただきたい。≫
ちなみに【賢者の眼鏡】側はかなり乗り気だ、こちらも頑張らねば。
「
「あ~、ロダンさん、そのお取込み中申し訳ないですか商談に移ってもよろしいでしょうか?」
だんだんと顔色が悪くなり小声でブツブツ言ってるロダンさんの状態がこれ以上悪くならないうちに俺は無理やり商談に持ち込んだ。
ロダンさんは何故か喉を鳴らして鋭い眼光をこちらに向けた。
一体なんだ、俺はもしかしてかなり粗悪品を渡してしまったのか?いや、大丈夫だ俺は商人として商品を信じるしかできないんだ、弱気になるな、俺!
「その、ロダンさん。〈鑑定〉スキルをお持ちと言うことで説明は省かせていただきだましたがロダンさんのご要望にかなう一品だと自負しています。是非、ロダンさんに使っていただきたくこちらは小金貨1枚でお譲りしたいのですが…」
「小金貨1枚だと!?君はこの逸品の価値が小金貨1枚だと思っているのかね!?」
「い、いえ。こちらの商品は実用的にも歴史的にももっと価値があると思っております。こちらも損して得とれの考えのもと是非、ロダンさんに使っていただきたく思っておりますのでこちらの限界ギリギリのお値段でご紹介しております。」
ヒィ…この爺さん怖いよ、目が怖すぎ強気に行くとかマジ無理だって、今だってずっと睨んでるんだもん。
≪ファイトですぞ、商人殿。この御仁はあと少しで落ちますぞ。あと一歩売り込むのです。≫
【賢者の眼鏡】が応援してくれるがとてもじゃないが落ちそうに見えないんだけど後一歩って何を踏み込めばいいんだ!
「なるほど…君はそういう考えで商売をしているのか…一つ尋ねるが何故初めから値引きした価格を紹介したのかね?君も商人なら儲けたいだろう?」
「え、ええ、そうですね。こちらも儲けたい気持ちはありますがあまりに高い買い物をするとそれまでのお付き合いだと思っております。しかし、こちらがある程度利益を落とす代わりに長いお付き合いをしたいのです。」
とか言いましたが、すいません半分ハッタリです。
長いお付き合いをしたいのは本当ですが歴史的価値がわからな過ぎて付加価値を付けれなかっただけです。
「ふむ。なるほど。小金貨1枚だったなすぐに用意しよう。今日はいい買い物ができたよ。」
お、おお!何かよく分からないがロダンさんが納得してくれたぞ。
良かった良かった、今回も何とかアイテムを捌けたぜ。
その後俺たちは代金を受け取りロッソ邸を後にした、帰りはいつも通り御者台に3人並んで美味しかった晩御飯の話で盛り上がったのだった。
※…………………………………………※※※…………………………………………※
「お爺様、イサナさん達は帰られましたよ。おや、そのメガネどうしたのですか?よくお似合いじゃないですか。」
「ああ、思いのほかよく似合っているだろ?あのイサナ君から買ったのだ。」
「イサナ君からですか。やっぱり彼は良い物持ってますね。眉間に皺がよることもなく見えてるみたいですね。」
「ああ、こんなに世界がはっきり見えるのは商会を引退する前ぶりだ。今は庭の美しさに感動していたところだ。」
「全く大げさな。メガネ嫌いなお爺様が納得するほどの逸品なんですから高かったのではないですか?」
「そうだ、このメガネをいくらで買ったか当ててみるがいい。ちなみに
「いやいや、ありえないでしょその量!なんですかその数!王族のメガネでも3つだって噂ですよ。普通1つで10銀で2つで50銀でしたっけ。5個以上って…小金貨5枚ぐらいですか?」
「小金貨1枚だ」
「は?」
「小金貨1枚だよこのメガネは。値下げの理由は我々と長く付き合っていきたいからだそうだ。」
「なんですか、その理由?」
「三方良し、損して得とれだそうだ。凄まじい考え方だったよ。あんなのは行商人が実践しようと思う考えじゃない。我々の様な大商会になってからやっと行えるものだ。だが、もし全ての商人が実践するために己の欲を抑えることが出来れば商売の神も現れるかもしれないな。……ダニエルよ、商会に復帰することを決めたぞ。」
「ええ!今からですか!?」
「ああ、そうだ。イサナ君は代価に我々と長く付き合いたいと言ったのだから長く付き合うようにもっと商会を安定させなければならん。ただ、復帰すると言っても運営側に戻るわけではない。これから育つ若手の育成に取り組もうと思う。ロッソ商会から商人は強欲ばかりでないと証明していくのだ。」
「全く、お爺様も高い代価を払わされましたね。…ホントに彼は行商なんですかね?」
「今は行商なのだろう。ただ彼は大きくなろうと思えばいくらでも大きくなりそうだがな。その時相手するのはダニエル、お前だぞ。」
「イサナ君の相手をするのは今から気が滅入りそうですが頑張りますよ。」
「ああ、頑張るのだぞ。こちらも教えれる限りは指導してやるからな。」
月に照らされた邸宅の庭で年老いた大商人と新米商人は決意する、これから自分たちで商人を変えようと。
きっと険しい道のりだがその先もずっとやさしい光が導いてくれるだろう。
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