商人とは

学園都市の南町の外れのほうにソレははあった。

綺麗に整えられた庭にキラキラと水しぶきを上げる噴水、奥の方には落ち着いた色合いの大きな屋敷が見える。

ぶっちゃけ北町の貴族のお屋敷よりでかい。

俺達三人はダニエルさんに晩御飯(こういうのも晩餐なのかな)に御呼ばれされてここにやってきた。


「待ってたよイサナくん、ようこそ我が家へ。」


周りとは文字通り格の違うお屋敷に呆気にとられてた俺たち3人をダニエルさんが快く出迎えてくれたのでそそくさと入ることにする。


≪よくきたな、しょうにん。あたしがかんげいしてやるぞ。≫


声が聞こえたほうを見ると緑色に光る物体が浮いていた。

大きさと形から光るテニスボールに見えなくもないがテニスボールはしゃべらないしそもそもこの声には聞き覚えがあった。


「あ、こら!また勝手に出てきてそれにイサナくんはお客さんなんだからそんな言い方はダメじゃないか。」


≪ダニエルはいつもきにしすぎだぞ。しょうにんがこれぐらいでおこることなんてないから、だいじょうぶだぞ。≫


「妖精の言う通りですよダニエルさん。この程度のこと気にはしませんから。」


そうだそうだ、という妖精に小言を言うダニエルさんだがこの二人にとってはいつもの事なのだろう二人ともとても楽しそうだった。

その後、食堂に案内されると一人の老人が席に座っていた。


「イサナさんこちらが祖父のロダン・ロッソです。」


「ようこそ我が家へ。一応は男爵位を持っておるが商人からの成り上がりでな。形だけの貴族なので気にしないでいただきたい。それよりも孫の悩みを解決していただき感謝しております。」


「いえいえ、こちらは商人として品物を売っただけですのでお気になさらず。挨拶が遅れましたが行商をしているイサナと申します。そして後ろにいるのがヴィオラとメイです。本日はお招きいただきありがとうございます。」


ロダンと名乗る老人は眼光鋭くいろいろと経験してきたのを物語るように眉間にはたくさんのしわが刻まれていた。

そして簡単なあいさつを終えた俺たちはテーブルの席に着き食事を楽しむことになった。

出てきた食事は新鮮な野菜のサラダに牛乳を使ったシチューの様な物やレアに焼かれた分厚いステーキなどかなり豪華な品ぞろえでいかにこのロッソ家に金があるのかがすぐわかる流れだった。

食事中もいろいろ会話がありどういったところを回ってきたのかという話題ではいろいろと脚色をつけてお答えした、何せこの学園都市以外だとのどかな開拓村ばかりだからな。


そして今ロダンさんがゆっくりと話がしたいというのでロダンさんの書斎に訪れてている。

書斎には様々な本があり紙で作られている高価な本も大量にあった。


「どうぞ好きな所に座ってくれたまえ。何か飲むかね?」


「いいえ、お構いなく先ほど堪能させていただきましたので。」


「それはよかった。さて、イサナ君と言ったか単刀直入に聞くが何故あの魔本を孫に売ったのかね?それも破格の値段で。君はあの本の価値を知っていたのだろう?」


「そうですね、ダニエルさんにも言いましたがあの魔本を売った理由は魔本自体がダニエルさんを選んだからです。だからこちらはあの魔本をダニエルさんにお渡しした。私にとってあの魔本の100銀と言う値段は魔本の代金ではなく仲介料や手数料の様な物です。」


「もともとあの魔本で儲ける気はなかったと?」


「ええ、そうですよ。私にとって商品というのは持つべき人に渡る物だと考えていますから。ただその途中でいろいろと経費が掛かるため多少のお代はいただきますけどね。」


何せそれが俺がここにいる理由だからな、他の人には理解されないとは思うけど・・・


「なるほど、そう言った考えなのか。一つ聞きたいのだが君が大本にしている商売の考え方はなんだね?」


「商売の考え方ですか…難しい質問ですね…答えるとするなら『売りよし、買いよし、世間よし』の考えですかね。故郷の古くからある商人の考え方みたいなものでして売る側と買う側が納得するだけでなくその周りの第三者も納得する商売をするようにっていう考え方ですね。」


俺の答えに黙って考えるロダンさん、何か拙いこと言ったかな。


「……なるほど。至極当然だとは思うがそれができる商人が今の世にどれだけいるだろうな。イサナ君、この世界に神々は数多くいれど商人の神はいまだいない。その理由をしっているかね?」


「え? ええっと、その理由は知らないです。勉強不足ですみません。」


この世界に商売の神っていないんだ、初めて知ったわ。


「いや、それは構わん。そもそも明確な理由でなくあくまでも神学者たちの言い分いいぶんだからな。それによると『商売と言うのは他人から財を巻き上げる欲深き職』なのだから神がいないと言っているのだ。実際に己の利益のみを考える商人というは少なくない、それも大きくなればなるほど顕著だ…君の考えを聞いて今答えを得た気がするよ。第三者の利益、そこまで考えて商売ができればきっと世界は変わるだろうな…」


最後のほうは自分に言い聞かすかのようにしみじみと呟いていたロダンさんだが何やら気合を入れた表情でこちらを見なおした。


「妻が亡くなってから商会を我が子に譲りここで隠居生活をしていたが、君の考えてを聞いてもう一度商売の道に立ってみたくなってきたよ。そこでイサナ君に聞きたいのだが道具や薬はないだろうか?年のせいか最近いろいろとぼやけてきておるのだ。」


目に良いアイテムか、そんな都合よくあるか≪商人殿、ここは私がまいりましょう≫どうやらあるらしい。

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