悩む持ち主

 マルチナさんの宣伝のおかげで最近は少しずつ露店販売でのお客さんが増えてきた。

 最初はマルチナさんのお友達の女子生徒が多かったが少しずつ男子生徒が増えてきて更にその家の使用人と思われる人もチラホラ買いに来てくれている。

 日用品や雑貨品などは手ごろな値段で買えるようにしているので割と人気だったりするが武具や魔具はほとんど売れてないのが現状だ。

これらはおそらくこの町の需要にあってないと思うので売れそうな町に行ったときに売りさばくつもりだ。


「ありがとうございました。またお待ちしております。」


 生徒たちの対応は基本的にメイちゃんとヴィオラに任せるようにしている。

 俺が何らかの理由で店から離れたときの為の訓練であるが二人ともすぐに対応できるようになってくれた。


 メイちゃんは男女ともに人気がありうちの看板娘と言うかマスコットキャラに近い感じでとても可愛がられている。

 ときたま使用人っぽい人からお菓子とかもらってるしな。

 ただ時たまとろけた視線で見つめる連中がいるので要注意だ。


 おら、そこのガキ!メイちゃんを変な目で見るんじゃねぇ。

 このロリコン共め、単眼の怖い御方呼ぶぞ!

 ロリコンシスベシ、ジヒハナイ


 ヴィオラに関しては女性客からの人気が半端ない。

 もとが中性的な見た目の上にあいつ自身が女だから女性への対応は完ぺきな所もあるからだが何と言ってもその対応の仕方のせいだろ。


「御嬢さんにはこちらの花の髪飾りのほうが人気があるよ。」


 髪留めを選んでいた女子生徒の後ろにさっと回り込み耳元でささやきながら花の髪飾りをつけて鏡で見せる。

 なんともキザッタらしい行動ではあるのだがアイツがするとやたらと似合う。

 髪飾りをつけてもらった女子生徒は顔を真っ赤にして目をウルウルさせながら小声で「これください」って言ってた、むしろ言わせたんじゃないかとも思うがまぁいいだろう。

 ちなみにその後買ったくれた女子生徒に微笑みながら「ありがとう」とか言ったせいで女子生徒は完全に俯いてしまった、アレは惚れたな。

 くそ、イケメンめ爆発しr、いや爆発されたら困るなうちの主力だし、このイケメンめ。


 ちなみに俺の扱いだがブリッサさんいわく『子供店長』だそうで、この店も『子供店長の店』の店って言われてるらしい。

 何が子供店長だ!俺はお前らより年上だよ!


 ・・・いや、今は復活した影響で子供だったわ。

 しかも、黒髪黒目のアジアンテイストのせいでさらに幼く見えるんだよな・・・

 間違いなく子供店長だったわ、店名は『オオイリ商店』なんだけど子供店長の店に変えようかな・・・


 そんなこんなでまったり商売を続けているとちょっと懐かしい人と出会った。


「イサナくん!イサナくんじゃないか!ずいぶん探したよ。何度も前にあった南町の公園に行ったけど会えなくてどうしようかと思ってたけど噂で騎士学校の近くで子供店長の露店があるって聞いたから見に来たけど来てよかったよ。」


 店にやってきたのは俺が初めて自我持ちアイテムを売った悩める少年ダニエル・ロッソだった。

 ただ、出会った時のような鬱陶しさは消え今はかなり元気はつらつとしていた。


「お久しぶりです。ダニエルさん。悩みは解消しましたか?」


「解消どころじゃないよ。君のおかげでテストは一発合格。それどころか今は成績もどんどん良くなってきてるからかなりいいところまで行けそうなんだよ。」


「そうですか。それならお渡ししたかいが合ったというものです。」


「うんうん。ホントにいい買い物をしたよ。・・・ところでさ、イサナくんはこの魔本の秘密を知ってたのかい?」


「秘密というと?」


 先ほどまで元気に話していたダニエルさんは周りをキョロキョロと見まわし俺の耳元で小声で言った。


「この本に妖精が憑いていることだよ。君はこのことを知ってたのかい?」


「ええ、もちろん知ってましたよ。得体の知れない物を売るわけにはいかないので。」


 俺の返答に驚きの表情を浮かべたダニエルさんは俺の両肩をがっしりつかみ目を見開きながら言った。


「君は自分が売った物の本当の価値を分かっているのかい!?妖精憑きの魔本なんて貴族の家宝とかおとぎ話の存在だよ!君は僕にで売ってくれたけどアレはでも安いと言われるような存在だよ!?」


 興奮し両肩を掴んでいる手にどんどん力が入っているのを感じるので動かせなくなる前にやんわりと振りほどき逆にこちらからダニエルさんの肩に手を置いた。


「それがどうかしましたか?こちらはお渡しする前に言ったはずです『』と。んですから安く買えてラッキーぐらいに思っていてくださいよ。あ、ちなみに返品なんて認めないですからね、受け取ったらこちらが吹き飛ばされそうですから。」


「そうか、君は全て分かったうえであの子を僕にくれたんだね・・・正直にうと僕は怖かったのさ、僕程度の実力でホントにあんなに凄い彼女の持ち主で良いのかってね。だから、君に返そうとしたのかもしれないね。ああ、もちろん大金貨って言うのは出鱈目じゃないよ僕だって商家の生まれだ子供の頃からいろいろ見てきたからね物の価値は分かるつもりだよ。それ故にあの魔本が恐ろしかったのかな・・・」


 おそらく今まではちゃんと魔法が使えない劣等感というものがダニエルさんに重く圧し掛かっていたのだろうがそれが一瞬で吹き飛ばされたので魔法を使える喜びとかすごい力を手に入れた優越感を感じる前に畏れたのだろう。

 だが今は俺に胸の内を語ってくれたのでかなりスッキリしたような感じだった、今後凄い商品を売ったらアフターケアもしないといけないということを覚えておくことにしよう。


「ところでダニエルさん。あの本で何かお困りのことはないですか?折角あったのですからアフターサービスも行いますよ。そういえば彼女はどこに?」


「ああ、彼女なら日向ぼっこがしたいって言ってたから僕の部屋の日当たりがいいところに置いてきたよ。困ってることって言われてもなぁ~彼女が自由気ままなのは仕方ないし何かあるかな・・・あぁ、そうだ。あの魔本に書かれている中身なんだけどアレはいったいどんなことが書かれているんだい?僕も頑張って解読しようとしたんだけど全く分からなくてさ。シルフが書いたんだからやっぱり凄い魔法なのかな?」


「あぁ、あの中身ですか。何の意味もないですよ。言ったじゃないですかあれは〔風精霊シルフのらくがき帳〕中身は文字通りただの落書きです。すごい魔法が封じ込められてることもなく、あれは妖精が宿っているだけのただの魔導書ですよ。」


 俺の言葉を聞いて膝から崩れ落ち地面に手をつくダニエルさん。

 リアルでorzとかする人初めて見たわ。 


「そんな、寝る間も惜しんで解読してたのに・・・あの中身を卒論にしようと必至だった僕っていったい・・・」


 完全に打ちひしがれてるダニエルさんが何やらブツブツ言っていたので放置することにした、だって長くなりそうなんだもん。

 しばらくすると文字通り立ち直ったダニエルさんがやってきて声をかけてくれた。


「いや~イサナくんごめんね情けないところを見せて、いや、むしろ情けないところしか見せてないか。ところで今日の夜は空いてるかな?とりあえずいろいろとお詫びを兼ねてうちに晩御飯でも食べに来ないかい。うちの祖父もイサナくんに会いたがってるしね。」


「今夜なら特に用事もないので構いませんが急によろしいのですか?」


「大丈夫、大丈夫。商機は逃がすなっていうのがうちの家訓だから急な対応でも対処できるよ。じゃ、夕方に迎えに来るからよろしくね。」


 そういうとダニエルさんは手を振りながら帰って行った。


 することもなくなったので俺は二人に今晩のことを知らせに行くのだった。

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