あの後と露天販売

 ストンズ家に商品を売って3日後、俺たち3人は様子を見に訪れていた。

 ピオスが用意してくれたので大丈夫だとは思うがやはり自分が売った物なのでちゃんと副作用が残っていないか気になっていたのだ。


「ようこそイサナ様。よく来てくれましたね。」


 俺たちを出迎えてくれたのはストンズ子爵の奥様のメリンダ様でもうすっかり元気になられておりお肌もしている。

 案内された部屋にはストンズ子爵がすでにいたがなんというかげっそりした雰囲気を醸し出していた。


「ようこそイサナさん。あなたが来るのを今か今かとお待ちしておりました。ささ、どうぞお座りください。お茶とお菓子もすぐに用意いたしましょう。」


 部屋に入るとげっそりとした雰囲気を払いストンズ子爵は俺の手を取ってぶんぶんと振りながらそれはそれは嬉しそうな声で挨拶してくれたのだが目の下の隈が激しく何とも不釣り合いだ。

 その後、いろいろと雑談をし話題はあののど飴をどこで手に入れたのかという話になった。


「アレは自分がここよりも東にいたときに行き倒れていた薬師くすしに貰ったのですよ。その人は薬神ピオスの信者と言っていたのできっとピオス様が我々を合わせてくれたのでしょう。」


「ほお~、。しかし、その神の導きで我が妻は救われたのですから我々も敬わなければいけませんね。」


 その発言に俺はちょっと気になったので深く聞いてみた。


「薬師が薬神を信仰するのはおかしいですのか?何も変ではないと思いますが?」


「大昔は薬師の神と言えばピオス様でしたが今は基本的に医者や薬師などの医療に携わる者は教会に属しますから他の神を信じる事はあまりないはずですよ。まぁその辺りは地域によって違いますから一概には言えませんけどね。もしかしたイサナさんが出会った薬師はそういった昔ながらの人なのかもしれませんね。」


 なるほど、分かりやすい理由だ。

 これは別段変な話でもない、何せ元の世界でも教会というか宗教と医学は密接にかかっていたりするからな。

 それにこの世界には魔法があるから医療に使える魔法を宗教側がかこっている可能性もあるしこれは今後詳しく調べておいたほうがいいかもしれないな。

 その後も朗らかと雑談が続きメリンダ様がそれとなくセイレーンののど飴を欲しがる素振りを見せたが残りは全部ユーリ様に売ったと伝えるとがっかりした様子だったが夫のストンズ子爵はホッとした雰囲気を出していたのがすごく印象的だった。


 ・・・

 ・・

 ・



 ストンズ家を訪問した次の日俺たちは再び露店販売を行っていた。


「主、客が来ないどころか誰も通ってないね。」


「そうだな。ノンビリできて良いじゃないか。」


「でも、主様。このままだとご飯が食べられないですよ。」


「お金については大丈夫だよ。この前ののど飴のお金もあるしカービン家のパーティーが終わればコショウの代金が入ってくるし。それに、ヘソクリだってあるしね。」


「しかし、主。まったく売れないのは問題じゃないかい?」


「まぁそうだけど、こればっかりは需要の問題だからね。こちらでは対応しづらいさ。」


「ここが冒険者の町ならこの辺においてる武具類も売れるのだろうけどね・・・ ところで主はさっきから何を作っているんだい?」


 俺は町で木の板と塗料などを買ってきて暇にかこつけてちょっとした工作をしていた。


「これは看板だよ。うちは他の商人と違っていろいろ扱ってるだろ。だから案内が必要だと思ってね。ほんとはコンビニにおいてるPOPとかを作れたらいいんだけどさすがにそれはもう少し後かな。」


 そうしてできた看板を二人に見せる。


【オオイリ 雑貨店 春夏冬あきない

 日用品や工芸品、武具にお塩までいろいろ取り揃えてます

 定休日 雨の日 店主が呼び出された日】


「確かに店先を覗くだけでは分かりませんものね。」


「しかし、何もこんな変な言い回ししなくてもいいだろうに。」


「いいのいいの宣伝なんだから。しばらくここで露店を出し続けてうちをアピールしないといけないんだから多少インパクトないとね。」


 この世界なら信楽焼きのタヌキでも置いたらいい宣伝になりそうなんだけど流石にそれを作る方法なんてわからないから看板で少しでもアピールしないとな。

 その後、ここを通る使用人のような人たちが看板を見ては通り過ぎ、見ては通り過ぎを繰り返し時間は夕方ぐらいになっていった。


「ほんとにお客が来ないね。ホントに効果があるのかい?あの看板は。」


「まぁ、これからさ。果報は寝て待て、待てば海路の日和あり、店舗持ちじゃないんだから長期戦だよ。」


「看板を見てもしやと思ったのですがやはりイサナさんのお店だったんですね。」


 暇そうなヴィオラと心配そうなメイちゃんを見ていると聞きなれた声が聞こえた。


「こんにちわ、マルチナさん。今日の授業は終わりですか?」


「はい、というかもう卒業訓練が終わったのでほとんど自習なんですけどね。それはそうとイサナさん母の件は改めてありがとうございました。」


「お礼を言われるようなことはしてないですよ。商人として品物を売っただけですから。」


「そうだとしてもですよ。イサナさんのおかげで母だけでなく我が家全体が救われました。本当に感謝しているのですよ。」


「そこまで言われたら受け取らざるを得ないですね。そうだ、マルチナさん時間があるなら商品を覗いて行ってくださいよ。お安くしますよ。」


「ふふ、そうですね。商人のイサナさんに対するお礼はここで何かを買う事でしょうからね。」


 今並べている商品のほとんどが神界工房の職人が練習で作った品物(練習作とは言うが俺の目には熟練の職人が手間暇かけて作った物に見える程の逸品だ)だが中には俺が途中で寄った村で仕入れた工芸品なんかも置いてる。

 そんないろいろな商品をマルチナさんは手に取り表情をコロコロ変えてみて回っている。

 たとえば武具を手に取ればおお~と感動したような反応をし綺麗な化粧箱をみれば女の子らしくキラキラした目で見ていき木彫りの熊っぽい置物(しかも魚を捕っている荒々しいような熊ではなく寝転がって眠っているノンビリした熊だ)を見ては不思議な表情を浮かべていた。

 商品を一通り見回ったマルチナさんは小さな化粧箱を数個と件の熊っぽい置物を持ってきた。


「イサナさんはホントに露天商なんですか?ここにあるのはどれも一級品でしかも破格の値段じゃないですか。その、ホントにこの値段でよろしいのですか?」


「ええ、構いませんよ。きっとマルチナさんがすごい思った商品はとある工房の職人の練習作でして自分でもこの値段は安すぎると思うのですが職人があまり高い値段をつけると練習作なのに高すぎると納得しないんですよ。それになかには立ち寄った村で仕入れた工芸品とかもありますからね。たとえば今回のこの熊っぽい置物とかですね。」


「確かに数点毛色が変わった物がありましたがそういう事でしたか。買った私が言うのも変ですが場違いの様な物でしたが何とかなくこれを見ていると父を思い出してしまいましてお土産にと。」


「仕入れたこちらが言うのも変ですが売れるとは思わなかったのですがそういう理由なら納得ですね。よければ今度はご友人と一緒に来てくださいね。変な言い回しの看板を立てている露天商がいるとね。」


「ふふ、イサナさんはホントに商売上手ですね。宣伝は任せてください。この通りを埋めるぐらい連れてきますよ。」


 その後少し言葉を交わしマルチナさんはにこやかにほほ笑みながら商品を持って帰って行った。


「どうよ。ちゃんと看板効果があっただろ。」


「全く、主には驚かされてばっかりだよ。」


「すごいです、主様。これならもっとお客様が来られますね。」


「まぁ、どれだけ来るかわからないが今までよりはマシじゃないかな。ただ今日はもう日が暮れ始めたからここまでだ。宿に帰ってノンビリしよう。」


 2人の元気な返事を聞き撤収の準備を始める。


 出していたものを全て馬車に積み込む頃にはすっかり日が暮れていたので3人そろって御者台に乗り、辺りの家のほのかな灯り差す通りをゆっくりと帰っていくのであった。

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