魅惑の歌声

【セイレーンののど飴】

 ・海辺に暮らすハーピー属の一種であるセイレーンが好んで食べるのど飴。

 ・船乗りたちを日々誘惑するために彼女たちは歌い続けるのだが潮風が吹きすさぶ大海原で自らの声を届けるのは並大抵のことではなくのどのケアや強化を欠かすことできない為それを支えるために考え出された一品。

 ・アルラウネの蜜をメインに使い数々の果実や花の蜜を煮詰めて作られるが甘すぎずスッキリとした爽快感を感じる

 ・セイレーン達がその魔性の歌声を維持及び強化するために作ったため他の種族が飲用した場合もその魅惑的な声を手にすることはできるがそれほど長続きはしない。

 ・金銭的価値は一粒で銀貨1枚相当


 送られてきた品物に【目利き】を使ってみるがいまいち理解できない。

 これ本当に大丈夫なんだろうか・・・


「ピオス、これホントに大丈夫なのか?目利きしてもいまいちよく分からないんだけど・・・」


「ふむ、何を持って大丈夫かというのは個人の価値観によって大きく変わるから何とも言えないのであの人間がこれを飲んだ場合どうなるかの説明をしよう。まずは、傷ついた声帯を修復するため多少の痛みは発声するだろう。何せあれほど痛んでいるからなもしかしたら血を吐くことになるかもしれないな。痛みが引いたらもう喋れるだろうが恐らく3日ほどはその声がセイレーンと同じ性質を持っているだろうがな。」


「そこ、そこだよ。最後のってやつがよくわからないんだ。」


「ん。ああ、そう言えばそちらにはセイレーンがいないのだったな。セイレーンという種族は歌う時に魔力を込めて他者を誘惑し自らの巣に呼び込み己のつがいとするのだ。セイレーンたちは魔力の調整ができるので普通に話すときは魔力を込めずに出来るのだが急にそのような能力を得た人間にその調整は不可能だ。よって声を発するだけで他者を誘惑し燃え盛るような愛のい「あ”~、あ”~分かった。分かったからもういい」そうか、ならよかった。」


 ピオスのおかげで良く解ったがこれを売っていいのだろうかかなり不安なのだが・・・


 ・・・

 ・・

 ・


 セイレーンののど飴が5つ入った小さな鉄の缶を手に俺は部屋に戻るとストンズ子爵がすぐにこちらによってきた。


「商人殿、もしや、その中に入っているのが件の薬ですか?」


「その通りです、ストンズ子爵。こちらはセイレーンののど飴と呼ばれる物です。」


 俺は缶のふたを開けるとストンズ子爵は食い入るように商品を見ていた。


「セイレーンののど飴、ですか。こちらも妻の為にいろいろ手を尽くしてきましたがこれは初めて見ました。商人殿是非とも売って貰いたいのだが如何か?」


「もちろんお売りいたしますがその前にこちらの商品の説明をさせてください。何せもともと人向けに作られていませんので副作用が存在します。」


「副作用ですか。いったいどのような?」


 そこで俺はピオスから受けた説明を行った。

 恥ずかしいのでセイレーンと同じ声の性質になるとさらっと伝えたのだが…


「セイレーンと同じ性質とはどういうことでしょうか?」


 マルチナさんに聞かれてしまったので腹をくくり説明することにする。


「その、セイレーンと同じ性質と言うのはですね、皆様もご存知かもしれませんがセイレーンは歌声で異性を魅了することが出来ます。この商品を使えば3日ほどその魅了の力を得るのですが人間にはその力を制御出来ずにですね、聞いてしまった方は強すぎる魅了の力に本能が抑えられないといいますか、獣欲が解放されるといいますか、その「分かった!分かったから商人殿そこまでで言い。その言い辛いことを言わせて悪かった」いえ、ご配慮ありがとうございます。」


 だんだん声が小さくなったなっていく俺を慌ててストンズ子爵が止めてくれた。

 ただ、説明を聞いていたマルチナさんとブリッサさんは顔を真っ赤にし、ご婦人二人は顔を逸らしヴィオラはニヤニヤしながらこっちを見ていた。


 しょうがないだろ!こちとら女性とどころか前の人生でも彼女いない歴=年齢なんだから女性の前でこういうことを言うのは恥ずかしいんだよ!


 ちなみにメイちゃんは意味が分からずキョトンとしてた。


・・・

・・


「ゴホン、まぁその、あれだ。副作用についてはよく分かった。商人殿是非とも買わせてもらおう。いくらになるかね?」


「分かりました。一つにつき銀貨1枚でお売りいたしますが代金に関しましては実際に効果があってからで構いません。是非とも一つお試しを。」


 ストンズ子爵は驚いた顔をしたがすぐにもどり一度メリンダ様のほうに振り返った。

 メリンダ様もストンズ子爵のほうを見ており目が合うと小さくうなずきそれを合図にストンズ子爵はのど飴を一つ手に取りメリンダ様の口に入れた。

 のど飴を舐め始めてすぐにメリンダ様が咳き込むようになり口に当てたハンカチに赤いシミがつき始めた。

 元が白かったハンカチが赤黒く染め終わったころには咳き込むのも落ち着き何度か深呼吸をするとメリンダ様はストンズ子爵のほうに顔を向けた。


「ア・・・・・・ナ・・・タ」


「メリンダ、お前・・・声が・・・」


「まだ・・・すこし、出し辛いですが・・・大丈夫です。痛みも、大分なくなりました・・・」


 途切れ途切れではあるがメリンダ様から綺麗な声が聞こえる。

 その声を聴きマルチナさんとユーリ様がとびかかるような勢いで抱き着いて行った。

 泣いて喜ぶ二人を慰め感謝の言葉を伝えるメリンダ様、この3人の姿はとても美しく素晴らしいのだがこの状態を受け入れられない状態の人物が二人いた、俺とストンズ子爵だ。

 いや、別段この光景が素晴らしいと思っていないと言うわけではなくそれどころではない言うのが正しい言い方かもしれん。

 俺はメリンダ様の声を聴くたびに頭にハリセンでたたかれるような衝撃を受け続けており、ストンズ子爵は目を血走らせ拳を固く握り何かに耐えるようにプルプルしている。

 十中八九、魅了の力に耐え続けているのだろう、俺のは原因はわからないが。


「すまないがマルチナ。みなさんを連れて部屋から出て行ってくれないだろうか。」


「そんな!お父様何故ですか!?」


 マルチナさんが抗議の声を上げ父親のほうを振り返るとそこには下を向きプルプルと耐え続けているストンズ子爵がいた。

 それを見て先ほどの副作用の話を思い出したのだろう、みるみると顔が赤くなっていく。

 ちなみに顔を真っ赤にしているのはマルチナさんだけでなくヴィオラとメイちゃんを除く女性陣3人が赤くしていた。


「マルチナ、本当にすまないとは思っている。しかし、父としての醜態をお前には見せたくないのだ。」


 苦しそうにそう話すストンズ子爵を察して俺たちはそそくさと部屋をでることにした。

 部屋を出てすぐにストンズ子爵の叫び声とメリンダ様の嬉しそうなキャーという声が聞こえた。

 

 なお、その後はアフターサービスとしてヴィオラが防音の魔術を使いいろんな音が漏れないように処置した。

 お代は3日後かなと思っていたらユーリ様が代わりに払ってくれた、残りのセイレーンののど飴とともに。


 ああ、その、あれだ、頑張ってくださいねカービン子爵。

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