眠れない夜
宿の窓からは月からの優しい光が差し込み部屋を照らし二人の少女を優しく包み込む。
以前の世界とは違い月と星だけが町中を照らしているのがとても神秘的である。
とか、分けの分らんポエムを思い浮かぶほど寝付けないでいるのがこの俺、スーパー露天商こと オオイリ イサナだ。
いったい何があったのかと言うと目が覚めてしまったのである、しかも深夜に…
こういった変な時間に目が覚めるとなかなか寝付けないんだよな、布団に入って寝よう寝ようと思えば思うほど目が覚めてしまい結果謎ポエムを生み出す羽目になってしまった。
さてどうしようかと悩んでいるといつもつけてる腕輪が淡い光を上げているのに気づき手に取って確認してみた。
「こんばんは、イサナさんそれともおはようございます、ですかね?」
「うわ、びっくりした!! ええ、こんばんはフィリア様。今日はどうかしましたか?」
「たまたま覗いたらイサナさんが寝られなくて困っていたようですから声をかけさせてもらいました。よければこちらに来ませんかイサナさんに会いたいという子がいまして。」
「どうせ眠れないですしお邪魔させてもらいます。また教会に向かえばいいですか?」
「今回はというよりこれからは目を閉じ腕輪に向かってこちらの世界に来たいと思って戴ければいいですよ。ただ、こちらに来るのは精神体だけなので安全な所でお願いしますね。」
俺は言われた通りに目を閉じ腕輪に向かって神様のもとに行きたいと念じてみるとエレベーターに乗った時のような浮遊感を感じた。
「ようこそ、いらっしゃいましたイサナさん。どうぞ座ってください。」
フィリア様の声で目を開けるといつか来た工房と言われる場所の一室にいた。
てかここ神様の世界なんだよな、こんなにポンポン来て問題ないのだろうか・・・
「どうぞ、イサナさん。お茶とお菓子です。どうぞ遠慮なく召し上がってください。」
「そんなお気になさらず。むしろこちらに来るのに何も持ってなくて申し訳ございません。」
「いえ、気になさらないでください。むしろイサナさんは異世界の神々に無理を言って来て戴いたお客様なのですからもてなすのは当たり前の事なのですよ。それにこうして誰かを持て成すというのが楽しいです。私の立場上こう言ったことをできるのはイサナさんだけなのですから遠慮しないでください。」
そういったフィリア様は本当に楽しそうに笑った。
俺の元の世界のイメージのせいか主神と言うのは尊大で絶対的な存在と思っていたがこれは逆を返すと他に並び立つ者がいない孤独な存在という事なのかも知れない。
「そうですか…フィリア様にそこまで言われたら断る方が逆に失礼ですね。では、遠慮なくいただきます。」
「はい、召し上がってください。それにもっと態度を崩していただいて構いませんよ。客様なのですから。」
「流石にそれは…許してください。」
お茶とお菓子は遠慮なくいただくことにしたが流石にこの世界で一番偉い神様相手にため口を聞くような度胸までは俺にはなかった。
・・・
・・
・
ある程度お茶会を楽しんでいるとドアをノックする音が聞こえた。
「あら、つい楽しくって忘れていたわ。招待するときに行っていた通りにイサナさんに会いたいって言っていた子がいるので紹介しますね。」
そういったフィリア様が手を上げるとドアがひとりでに開き一人の男が入ってきた。
白衣とメガネを身に着けた長身の男で長く白い髪の中から長い耳が生えているのが見えたので種族的にはエルフになるのだろうか、鋭い目つきのままこちらに近寄ってきた。
「貴様が異世界から訪れた商人か?」
「ええ、その通りです。商人のオオイリ イサナと言います。どうかお見知りおきを。」
男は一度確かめるように俺を下から上まで確認するとおもむろに手を差し出した。
「俺の名前はピオス。薬草の神でこの工房の製薬部門の担当をしている。この度は不甲斐無い我々の為に手を貸していただき感謝している。」
俺は差し出した手が握手だと察すると慌てて手を握り返して挨拶を返した。
「そのような事は気にしないでください。こちらに来たのも自分自身の意志ですからこちらこそ宜しくお願いします。」
「ふふふ、ピオスは目つきが鋭くて少し言動が粗っぽいけど私の自慢の弟ですから仲良くしてあげてくださいね。」
「むしろこちらの方からお願いしたいところです。それでピオス様はどのような要件があるのですか?」
「本題に入る前に俺の事はピオスと呼んでくれて構わない。お前は別段私の信徒でもあるまいし部下でもないのだからそこまで気を使わないで欲しい。俺自身お前に対して気を付かわないでのそちらもそうしてくれ。」
(ピオスは末の弟で周りに同じような神々がいないので是非砕けた口調で話してあげてくださいね。)
頭に直接フィリア様の声が聞こえたのでそっとそちらに目線を動かすとフィリア様はかわいらしくウインクで返事をしてくれた。
「わかりました、じゃないな。わかった。そこまで言うならそうさせてもらう。それで本題とは?」
「ああ、それでいい、その態度で頼む。それで本題なのだが簡単に言うと工房で作った医薬品も取り扱ってほしいというものだ。ただ、お前も知っての通り薬と言うのは用途と容量を適切に使用しないと意味がないのでいろいろと説明をしたかったのだ。」
「なるほど、それはこちらとしても助かる。しかし、薬は意志を持たないのか?てっきり神界産なので意志を持つのかと持ったが。」
「ああ、その疑問はもっともだな。お前も聞いたかもしれないが道具が意志を宿すときは長い年月と膨大な魔力を浴びて魂のようなものを宿し意志をもつのだが、霊薬の場合外からの魔力を長時間当てるとその薬効に変質をもたらす場合があるから保存の際に魔力を遮断する処置をするから意志を持つことはまずありえないのだ。なので正しい用法、用量をその目で確かめる必要があるのだがお前には、というよりはこの世界の医者でもまだ難しい。なのでこういったものを用意した。」
そういってピオスが懐から取り出したの警備員が使っていそうな少し長めの懐中電灯のようなものだった。
「それは、ああそうだ。確かお前は異世界の神から【目利き】という加護をもらっていると聞いた。それを使って確認してみてくれ。どのように発動するかこの目で見てみたい。」
「そういうことなら使うけど別に面白いモノでもないと思うけどな。」
懐中電灯(仮)を手に取り言われるがままに【目利き】を発動させた。
【薬神の診察灯】
・薬神ピオスが作り出した神具
・光に照らされたところがピオスの工房に届けられ神々が体中の診察を行う
・どれだけ厚い鎧を着ていても透視し体の内部を映し出す
・なお基本的には光をあびてもただ明るいだけだが調整することで患部を赤く照らしたり透過させ体の内部を映し出すことが可能
・金銭的価値設定不能
おおう、流石神様のお手製凄まじい能力だな。
ようするに持ち運び式のレントゲンか、この世界の人というか元の世界の人が見てもビックリ仰天するな。
「目利き終わったけど何か分かった?」
「ああ、何もわからないことが分かった。」
「ダメじゃん!?なにもわからないってダメじゃん!?」
「ん?ああ、すまない説明不足だった。この世界にも【鑑定】といった似通ったスキルはあるのだがこれを発動させる際には魔力を使うので鋭い相手ならばすぐに気付くのだ。ただ、お前の場合は一切何も感じなかった。我々神が見てもな。興味深いことだが今回は関係ないから置いておくとしよう。」
「そういう事ならいいか。それで、これはどういう時につかえばいいんだ?」
「簡単に言うなら飲み薬を使う場合だな。塗り薬の場合は適当に売って貰って構わない。切創だろうと打撲だろうと関係なく使用できるからな。ただ、体内に入れる以上物によっては副作用がでるのでな正直どうなるかわからないのだ。なのでそれを使って患者を照らしてほしい診察はこちらで行うので適した薬とその説明を行いお前はそれを売ってくれ。」
「なるほど。医者が見て適した薬を出すなら俺も気兼ねなく販売できるからそれはありがたい。」
「そういうことだ。それともう一つ頼みたいことがあってな。お前はこれからもいろんな地域にむかうのだろう?ならばその時々で俺が欲しいと思う素材が出てくると思うからそれを集めて欲しいのだ。」
「ああ、それぐらいならいいよ。出来る限り協力する。」
「そういってもらえて助かる。これでこちらの用事は以上だ。時間を取らせて悪かったな。」
「いや、こちらのほうこそ助かるよ。商材が増えるのはかなり嬉しいから。」
「フフ、お二人はもうすっかり仲良しですね。残念ですがこれ以上長く引き止めるとイサナさんの調子がおかしくなるかもしれませんが今回はここでお開きにしますね。それではイサナさん今日も良い日になるようにお祈りしておきますね。それでは~」
・
・・
・・・
「主、朝だよ。ほら、起きて。」
「ふぇ?朝?フィリア様は?」
「何を寝ぼけているんだい。今日は朝から子爵の屋敷にむかうのだろう?」
ぬ~昨日の一連の流れは夢だったのだろうか、夢にしてはやけにリアルだったような。
「そういえば主、何を握っているんだい?寝るときは持っていなかっただろ?」
そういわれ違和感のある方の手を見るとその中には【薬神の診察灯】が入っていた。
なるほど、どうやら今日はいい日になりそうだ。
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