見た目と役割
カービン子爵との話がまとまった俺たちは宿の方に戻ってきていた。
「疲れた。疲れたよ~ もうお偉いさんに会いたくないよ~」
宿に帰ってすぐに俺はベッドにダイブした。
安物のベッドなどでクッション性は全くないがただ布団にくるまってゴロゴロしたかったのだ。
「全く、先ほどまで貴族相手に立派な立ち振る舞いをしていた人とは思えないね。」
「そう言われても俺はごくごく普通の一般人だぜ?礼儀作法を特別に習ったわけじゃないからお偉いさんに会うのはなんというか心が疲れる。俺はもっと気楽な商売がしたいよ。こう『奥さん、今日も良い物入ってるから見て行ってよ』てきなさ~」
「どこの言い回しだいそれは?まぁ兎にも角にもボク達3人で商談が出来るのは君だけなのだから頑張っておくれよ。」
「ヴィオラさんの言う通りですよ。メイなんてまだ何も出来ませんし・・・」
「メイちゃん、それは違うよ。俺たちは皆それぞれの役割があるのさ。」
俺はベッドでうつ伏せになっていたのを止めてメイちゃんの方に座りなおした。
「そうだな・・・なぁ、ヴィオラ。ヴィオラから見て俺ってどういう風に見える?見た目だけを見て答えて欲しい。」
「見た目だけ?それなら男の子って感じかな。少なくとも大人には見えないね。」
「じゃぁさ、メイちゃんから見てヴィオラをどう思う?見た目だけでお願い。」
「そうですね。綺麗なお姉さんで褐色の肌のせいかとても活発に見えます。」
「そうだろうね、俺も大体同じような感想だ。そして、ここからが本題なんだけど、例えば俺がメイちゃんと初めて会った時に『安くするからコショウを買いませんか?』って言われても俺は買わないだろうね、それどころか話すら聞かないかもしれない。」
「え!?どうしてですか?何かメイが悪いことをしましたか?」
「いや。メイちゃんは何も悪いことはしてないよ。でも問題はあるのさ。」
「問題ですか?いったい何が拙いのでしょうか?」
「それはね。見た目なのさ。」
「見た目・・・ですか?何処が行けないのでしょうか?教えていただければすぐに直します!」
「言い方が悪かったね。別にメイちゃんが悪いんじゃないよ。ただね、状況が悪いのさ。例えば俺と二人が初めて出会ったときブリッサさんと一緒にいたはずだけどその時の俺とブリッサさんはどういう風に見えた?」
「そうですね。主様は確かに商人っぽく見えましたしブリッサさんは騎士様に見えました。」
「そうだね俺もその時は動きやすい服に大きなカバン背負ってたしブリッサさんも立派な鎧を着てたから騎士に見えただろうね。それでさっきの話だけどもし初めてメイちゃんと会った時に物を買わないかと言うと簡単に言うとメイちゃんが商人に見えないからだよ。綺麗な異国の服を纏って揃えられた髪型に俺よりも幼く見える容姿はまかり間違っても商人には見られないどころか人によってはどこかのお嬢様だと思うだろうね。こういう初めて人を見た時の印象を第一印象って言ってね商売をする上にはとっても大事なんだよ。」
「第一印象ですか。初めて聞きました。」
「それはきっと皆が自らの職業に合った見た目を人知れずしてるからだろうね。騎士なら鎧を着て武器を持ったり職人ならそれぞれの仕事に合った服装をしてる。でもこれはとっても大事なことでねもし俺がボロボロの服を着てたら昨日の塩すら売れないよ。だってパッと見て信じられないからね。」
「確かにその通りです。主様は商人って分るような恰好をしていますから安心して物を買えます。ならメイも商人みたいな恰好をした方がいいのでしょうか?」
「残念ながらそれはちょっと違うのさ。もし必要ならすぐに服を用意してるよ。メイちゃんのもヴィオラのもね。」
「む、ボクの恰好も関係あるのかい?」
「ほら野菜を売った時俺が何て言ったか覚えてる?『彼女は魔法の名手です』ってあれはヴィオラが冒険者っぽい見た目をしてたから言えたんだよ。例えばあの時ヴィオラも商人っぽい服だったら相手は信じてくれてないよ。」
「なるほど、それならヴィオラさんはずっと冒険者の恰好の方がいいですね。では、主様メイはどうしてこの格好の方がいいのですか?」
「ん~、言い方はあれだけど見栄と張ったりとでもいえばいいのかな。正直な所今の俺の見た目はかなりの若造だから舐められる可能性が高い。よくない考えを持つ相手ならそのことに難癖つけてくる可能性があるんだよね。ただ、こちらのことをよく知らない相手から見たらメイちゃんのことは部下か従業員と思うはずだ。その相手に異国のしかも質のいい服を着せてたらどうなると思う?少なくとも相手は異国に対する伝手があるかその服を手に入れて尚且つ部下に着せれるほど余裕があると無駄に勘ぐるはずなんだよね。教養がある人ほど勘ぐりやすいからね、無駄に警戒してこちらを無下にはしなくなるはずだからいろいろと有利になるのさ。」
「おお~、主様にはそのような考えが有ったのですね。そういう事とはつゆ知らずメイは恥ずかしいです。」
「いいよ、いいよ。俺も言ってなかったし分ってたら俺の立場もないしね。それに恰好だけじゃなくてメイちゃんの力も頼りにしてるんだよ。重い荷物も軽々運ぶからかなり助かってるよ。」
「了解しました主様。どんな荷物だってこのメイにお任せくださいいっぱい運んで見せますよ。」
「それは頼もしい頼りにしてるよ。それにヴィオラだって頼りにしてるからね。俺はこっちのことをよく知らないし神様からの頼みごとの都合上いろんな所に行かないといけない。だからと言って移動の度に護衛やガイドを雇うわけにもいかないから冒険者としての経験は俺たちにとって非常にありがたいんだから。」
「ふふ、主にそこまで言われたら頑張るしかないじゃないか。これからもっと頼ってくれたまえ。」
「皆得意なことが違うんだからそれをうまく使ってこれからも頑張っていこう。」
「はい」
「ああ」
「じゃ、そういう事で俺は今出来ることする。」
「今からなにをするんだい?」
「それは……寝ることだ、オヤスミ。」
その後、ヴィオラとメイちゃんが何か言ってたような気もしたが俺はすぐに夢の世界に旅立ったのだった。
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