恩と提案

 ブリッサさんが乱入してきたことにより一度解散となり俺たちとブリッサさんは先ほどに客間に戻ってきた。


「まさかここでブリッサさんに会うとは思いませんでしたよ。どうしてここに?」


「どうしてって言われてもここは私の家だしね。外に出たらセキトが見えたからビックリしちゃったよ。」


 そういえば結構フレンドリーだったから忘れてたけどブリッサさんは貴族令嬢だったな、とはいえここで合うとは思いもしなかったけどね。


「そういえばお父様たちかなり悩んでいたけど何を売りにきたの?すっごい高価なやつなんでしょ、教えてよ。」


 そう言われたのでブリッサさんにこれまでの経緯を説明することにした、もしかしたら何か考えが有るかもしれないし。


「なるほどコショウか~ それは確かに高いわ。それに小金貨5枚ってなる家の年収よりも多いんじゃないかな。せめて半分ぐらいになれば買えると思うけどね。」


 半額にしてもいいけどそうなったらこの家との取引はちょっと舐められそうだしどうすっかな~


「マルチナがお金貸してくれたら解決しそうだけどあの子そういうの厳しいしな~」


「そういえばブリッサさんとマルチナさんはずいぶん親しいですけど昔からの知り合いですか?」


 うんうん唸りながら考えているブリッサさんになんとなく声をかけてみる前の様子を見てかなり仲が良かったからすこし気になっていたのだ。


「ん?わたし達は従妹同士だから子供のころからの付き合いだよ。マルチナの家とうちの家は元々同じ家に騎士として仕えててね色々あって両家共に領地持ちになったけどそのころからの付き合いなんだ。だから昔から持ちつ持たれつって感じだね。」


「ずいぶん長い付き合いになるんですね。ちなみに聞きたいのですがブリッサさんが紹介していただけたら向こうの御当主に会えますかね?」


「会えると思うけどどうして?あ、わかった。我が家じゃ難しいから向こうにコショウ売りに行く気でしょ、ズルいと言いたいけど仕方ないかなぁ流石に小金貨5枚も出せないし。でも、向こうも出せるか解らないよ?マルチナから聞いたけどたぶん家の状況もほとんど同じっぽいし。」


「いえいえ流石にここでカービン子爵を切るような不義理はしませんよ。ただ一つお聞きしたいのですがマルチナさんのお家もコショウが欲しいと思いますか?」


「それは欲しがると思うよ。なんだかんだ言ったって貴族なんて見栄と面子で生きてるようなものだし。それに特産品の都合上多くの家が興味を持ってくれたらこの先楽になるかもしれないしね。」


「特産品?失礼ですが何を扱っているのですか?」


「うちは木材で向こうは石材だよ。魔物の森産のすっごい木材なんだよ。でも扱ってるのを知らない家も多いと思うから今度のパーティーで一気にアピールしたいって言うのがお父様の考えだと思うよ。」


「なるほど、ありがとうございます。すこし考えが浮かびましたので御当主にもう一度会いに行ってきますね。」


 成程、ブリッサさんが話好きな人でよかった、おかげで1ついい提案を思いついた。

 ブリッサさんの情報通りならたぶん行けるはずだ、ここが正念場だ、踏ん張れ俺。


 ・・・

 ・・

 ・


 ブリッサさんも気になるということで一緒に執務室に向かうと中から話し合いをしていると思われる声が聞こえる。

 男性だけでなく女性の声も聞こえるけどこれは奥さんかな、とか考えていたらブリッサさんがノックをしたので一緒に入室する。


「待たせてすまない、イサナ殿。なにやら提案があるとのことだが?ああ、もし販売を取りやめるというならもう少し待っていただきたい。何とかして金の用意はするのでな。」


「いえ、安心してくださいカービン子爵、販売の取りやめではございませんので。まずはですね少しだけコショウのお値引きをしたいとおもいまして。実は私たちがここに来る途中にですね山賊に襲われまして私の命もここで終わりかと思った際に颯爽と2人の騎士様が立ちはだかる賊どもを蹴散らしてくれたのです。その際は自分はまだ見習いなので名を名乗る程でもないと去っていきましたのでこちらもどなたか全く分からなかったのですが……しかし!神様と言うのは我々を見ているものです。なんとその時の御一人がこの屋敷にいたのです。そう!カービン家の御息女、ブリッサ・カービン様その方です。」


 俺が頑張って熱く語ったせいかカービン子爵たちは嬉しそうかつ誇らしそうにブリッサさんを見ていたが反してブリッサさんは恥ずかしかったのだろう耳まで真っ赤にして下を見ていた。


「先ほど何故イサナ殿を知っていたか疑問だったがそういう事だったのか。ブリッサ、恥ずかしがるとはないお前の行動は騎士として正しいことだ。誇りを持って胸を張りなさい。」


「あ、ありがとうございます。父上。」


「命を助けてくれた恩人ですので細やかですかコショウの代金を小金貨4枚にしたいと思います。本当はもう少し下げたいのですがこちらとしても採算がありますので。」


「いや、家のような小さな家にとっては小金貨1枚分安くなるだけでもかなり助かる。しかし、お転婆娘だと思っていたがそのような事をしているとは親としてはコショウよりも価値がある。」


「ええ、お嬢様も立派になられて長年仕えてきたかいがあったというものです。それにイサナ殿も商人としては考えられないほど義理堅いお方で感謝しています。」


 カービン子爵もハロルドさんも提案がこれで終わりだと思ってるみたいだけどまだ俺のターンは終わってないぜ。


「感動している所申し訳ないのですが実はもう一つご提案がありまして。むしろこちらの方が皆さまに深く関係あるかと思いますので聞いていただきたいのですがよろしいでしょうか?」


「ああ、すまない。少し娘の行動に感動しすぎていた。そのもう一つも聞かせていただきたい。」


「ではもう一つの提案と言うのがですね。このコショウを2つの家で半分ずつ買うというお話なのです。先ほど話した助けてくれた騎士様のもう一人はマルチナさんでして、聞けばもともと深いつながりを持つお家だとか。ですのでカービン子爵と相手方の御家で小金貨2枚ずつ出し合って戴いてこのコショウを購入するというのはどうでしょうか?」


 カービン子爵は俺の提案にかなり驚いた表情を浮かべ俺に対する回答は意外な方から聞こえてきた。


「あなた、これは受け入れるべきですよ。向こうの家もコショウが手に入るならば喜んで手を組んでくれるでしょう。それにパーティーに使うだけなら話に聞いていた量の半分でも十分でしょう。」


「あ、ああ。そうだな。ハロルド、すぐに向こうの家に連絡を…いや、私が手紙を書くからその準備を頼む。」


 カービン子爵の命を聞き急ぎながらも綺麗な所作でハロルドさんが部屋から出たのを確認してからカービン子爵がこちらに声をかけてくれた。


「イサナ殿、素晴らしい提案だ。正直な所諦め掛けていたがこれで次のパーティーはほかの貴族に我が家の名を売ることが出来る。ああ、貴方に会えたことを神に感謝、いや娘に感謝せねばならないな。」


「いえいえ、こちらは命を助けていただいた恩がありますのでそれを返しただけです。そこまで感謝されると逆に照れてしまいます。」


「全く、ハロルドも言っていたが本当に商人らしくないな。他の商人ならもっと吹っかけて無理そうならすぐに出ていくというのに。イサナ殿はきっと大物になるな、これからもよろしく頼む。」


 そう言ってカービン子爵はこちらに手を伸ばしてきたので俺もがっちりと手を握って返答した。


 いろいろあったが何とかまとまって本当に良かった。

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