学園都市での商売・前
慌ただしかった自己紹介から一夜明け俺たちは今商人ギルドから定められた販売スペースに向かっていた。
日が昇ってまもない街の空気は肌寒いが俺たち以外の人たちも露店の準備で慌ただしく動いていた。
さて、俺たちに与えられたスペースに向かう間にこの街の形を振り返っておこう。
この街は少々特徴的な形で鍵穴と言えばいいだろうか北側が広く南にかけて狭まるが最後のほうにまた広がっていく形で前方後円墳をイメージしていただければ一番わかりやすいかもしれない。(ちなみに北側の方の部分を北町、南の円の部分を南町というらしい。)
なぜそんな奇妙な形になったかというともともとは城塞都市だったがそれが改造されて北側に魔法学院が建てられてその後に対面に騎士学校が設立されることになりその周辺に教職員の家や学生及び使用人の寮、両教育機関に関係する道具を販売する商店が次々設立され北町になりいったん町としては落ち着いたのだが商品を仕入れる商人たちの護衛や俺みたいな一山当てようとする行商人などがどんどん訪れるようになり旅人向けの宿屋や酒場、旅に疲れた男たちの安らぎとなる歓楽街などで作られた南町ができたという流れで作られていったそうだ。
そして、俺たちみたいな露天商は街のメインストリートのみに出店することができるのだがメインストリートの形は逆さになった十字架のような形になっているのである。
これは南町の東西の一般門と南側の貴族門があるからで、かつ北の奥側にある二つの学園の近くのほうまで伸びているのでこのような形となり、騎士学校の生徒が行進することもあって道幅も非常に広く作られている。
そして俺たちの露店スペースは北側の騎士学校の近くになっていた。
「これは、外れを引いたかもしれないな…」
露店の準備をしながら周りの様子をうかがうのだが南町で準備をしていた人たちに比べて圧倒的に元気がない。(ちなみに、露店に使う道具はヴィオラ達のいた馬車に入っていたのでそのまま使っている。)
ちょっと気にはなったが初めての露店の準備でそれどころでなくあれよあれよと準備が整い販売を開始したのだがその時になって周りがどうして元気がないのかが分かった。
人がいないのである…
考えてみれば当然の話で何せここは学校の近くなのだ、休日ならばいざ知らず平日の昼前の時間に学生は通ることはそうそうないだろう。
「主~、これはマズイんじゃないかい?何人か使用人っぽい人が通るけどとてもじゃないが買っていきそうな感じじゃないよ。」
現在、俺の店には騎士学校の近くということで武器をメインに置いているのだがビックリするぐらい人気がない。
「そうだな、すこし商品を変えるか。塩と工芸品並べて様子を見よう。」
そういうヴィオラとメイちゃんは一部の武器を片付け始めたので俺はここに来るまでに仕入れた工芸品と神様印の塩を用意して露店に並べた、ちなみに朝に周りにいたほかの露店商は俺たち以外は全員引き上げていった。
そんなこんなで昼過ぎ、やはり塩は偉大だった、何せこの辺りでは珍しい白い粗塩で道行く使用人の目をくぎ付けにできるのだ。
「フハハハ…やはり、神様印は偉大だな。これからは伝家の宝刀と呼ばせてもらおう。」
「神様印っていうけどここに並んでいる武器も全部神様印じゃないか。それに道行く人がこっちを振り返るようには成ったけどまだ買ってくれた人はいないじゃないか。」
「ぐぬぅ、いや大丈夫だ。何せこっちには最後の切り札がある。」
「主様、切り札というのは馬車に乗っているアレですか?でも、アレもお客様がいないとどうしようもなくありませんか?」
「ぐぬぬ…」
ハートフルボッコにされたので隅の方でイジケルことにする、シクシク。
「いらっしゃいませ~」
メイちゃんの嬉しそうな声を聞いて振り返ると白い服を着た男が真剣な表情で塩を見ていた。
「やはり、この辺りでは白い塩は珍しいですか?」
「ん?ああ、そうだな。この辺りは岩塩が主流だからな。メイドが白い塩を見たと聞いて疑い半分で来てみたんだがホントに海塩が並んでいるとはな。」
こちらの問いかけに答えてくれた男はおそらくどこかの料理人なんだろうな、今なお真剣な目で塩を見ているがこのチャンスを逃すわけにはいかないので一気に勝負を仕掛けてみる。
「お客様、よければ味見をしていきませんか?買うか買わないかは別にして無料で構いませんよ」
「な!いいのか?貴重な海塩だぞ。」
「ええ、構いませんよ。お客様は料理人のようですし味が分らなければ使いづらいでしょう?」
「そうか、そこまでいうのなら少し試させてもらっていいか。」
どうぞ、どうぞと俺は小さな匙を男に渡した、ちなみにここまで男が驚いたのはわけがある。
どうやらこの世界にはまだ試食という考えがないらしい、というのもまだまだ運搬技術のつたないこの世界では物一つ運ぶのも命がけなのだからすこしでも金にしたいとう言うのは仕方ないことだろう。
しかし、俺は神様のプレゼントによって塩は無限に出せるのだから試食ぐらいどうと言うことは無い。
「これは、いい塩だな。岩塩に比べて雑味がないのでいろいろ使えるだろう。店主、店にある塩を全部くれ!」
「え!?全部ですか!?そうなりますと相当な量になりますが。」
俺はそういうと馬車のほうに視線を向ける、こうすることで馬車のなかに相当な量が入っていますよという勘違いさせるためのアピールをするとともにある程度向こうの方から量を決めて欲しいので相手の口からそれを引き出そうとしたのだ。
何せこちらの塩の貯蔵は無制限、全部欲しいといわれると逆に困ってしまうのだ。
「なるほど、馬車の中にもまだあるのか。ならばとりあえずここにあるだけ全部貰おう。他にも面白いものはないだろうか?」
「そうですね… あるにはありますが買うのなら明日の朝に買う方がおススメの商品がありますよ。」
「ほう、面白いことを言う商人だな。とりあえずそれを見るだけは出来るだろうか?」
「構いませんよ、少しお待ちください。」
俺はそういうとヴィオラと一緒に馬車の中に入っていった。
「主、馬車に戻ってきてどうするんだい?もう、切り札を使うのかい?」
「いや、それはまだ出さない。今回出すのは此奴だ。これをヴィオラの魔法で少し冷やして持って行って欲しい。」
そういって俺はカバンからオススメ商品を出してヴィオラに渡す、これはこのカバンとヴィオラがいないとできない裏技のようなものなのだが相手が喜ぶだろうから問題ないはずだ。
ククク…これを見て欲しがらない料理人などおるまい、俺は馬車の中でほくそ笑むのだった。
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