この世界のルール
暗がりの奥から声が聞こえる、薄っすらとだが女性のような人影が見えた。
「イサナさん少し下がってて。」
ブリッサさんが腰に差してる剣に手を置き警戒しながら言ってくれたのでお言葉に甘えて下がることにしよう、別に奴隷とか犯罪者とか聞いてビビッてないヨ、ホントダヨ。
「おやおや、そんなに怯えなくていいじゃないか。こちらも急に襲われて怖かったんだよ。」
暗がりの中から女性がこちらに姿を見せた、水色のショートヘアで片方の目は髪に隠れて見えないが見える方の目からきれいな水色が見える、肌は日に焼けたような褐色で年は17か18ぐらいかブリッサさんやマルチナさんよりは少し上に見える。
「ああ、借金奴隷ですね。この馬車が山賊に襲撃されましてその時にこの馬車の商人は命を落としたようです。ところで近くに契約書はありますか?」
「ああ、契約書ならここにあるよ何せこちらの命綱だからね、肌身離さず持っているよ。もちろんこっちの子もね。」
そう言い体を少し傾けると10歳ぐらいの少女がいた。
黒い髪におかっぱの髪型でそこだけ見ると元の世界の人っぽかったが真っ赤な瞳がこちらの世界の人という事を教えてくれた。
「二人もいたんですね。ほかに人はいますか?」
「いや、ここにいるのは2人だけさ。あとは商人が仕入れた良く解らない商品ばっかりさ。何なら契約書を見ればいい」
そう言って鉄格子の隙間から二人分の契約書をブリッサさんに渡し、ブリッサさんは慣れた手つきで契約書を縛っていた紐を解いて中身を確認していく。
「【ヴィオラ】さんですか、内容は…家賃滞納により奴隷に。額は500銀ですか。家賃ぐらいちゃんと払いましょうよ。で、小さいお嬢さんの名前は【メイ】ちゃんですか内容は貴族への奉公先案内。ああ、メイド行きですね、で、額は10金!!!ちょっとこれほんとですか!?」
「こちらに聞かれても解らないよ。何せ、内容を知る商人は死んでしまったしね。」
契約書を見てアワアワしているブリッサさんを横目に倒れていた賊を縛り上げたマルチナさんがやってきたので今まで気になっていたことを聞いてみた。
「すいません、マルチナさん借金奴隷ってなんですか?前住んでいたところにはそんな制度が無いものでして。」
「え!?そうですね。それにはまず奴隷制度の説明をしますね。奴隷には2種類ありまして【犯罪奴隷】と【借金奴隷】です。犯罪奴隷は刑期分を奴隷になり労働する奴隷の事です。こうなると自身の自由はなく、ひたすら労働に従事しなければなりません。対して借金奴隷は借金を返済するまで奴隷になるのです。ただし、犯罪奴隷と違い自由はありますので買い手から理不尽なことがあれば反対することもできますし買い手は買った奴隷の生命を守る義務も発生します。そして、借金奴隷の場合は大体が奴隷商が仲介人に入ります。今回のヴィオラさんの場合がそうですね。まず商人が借金を肩代わりしそのあと国営の奴隷市場で売りに出されます。そして買い手がついてそこで借金分働くわけですね。もちろん仲介する商人は国から許可証出てる人だけですから皆が皆できるわけではないですよ。」
「なるほど、ではメイちゃんの場合はどうなるんですか?」
「あれは、正直グレーですが国としては黙認してる状態です。我が国は人身売買を禁止していますが田舎などでは口減らしのために子供を奴隷商に渡すことがあります。今回の場合は初めに貴族から予算を貰って商人がよさそうな子を探し親から買うという感じですね。良くは無いのですが子供が減るよりはいいかと黙認状態です。しかし、今回の10金はあまりにも法外です。何かあると考えるのは当然でしょう。」
10金というのは元の世界での1000万ぐらいだと思う。そう考えればいかに貴族といえど子供一人にその金額はあまりにも出し過ぎと考えるのは無理もないだろう、しかし真実を知ってる商人はすでに死んでるのでとりあえず俺たちはこの件は流すことにした。
「ところでこの人たちはこれからどうなるんですか?」
そう言って奴隷二人の行く末をなんとなく聞いてみた。
「え?奴隷どころか商品含め全部イサナさんの物ですよ。命を落とした人の物を見つけたときは基本的に発見者のものですからね。」
「え、でも俺奴隷の販売権みたいなの持ってないですよ?」
「もし君が我々をいらないと言うのであれば奴隷市場に渡せばいい。そうすれば後は向こうで何とかしてくれるさ。そうか我々はまた売られるのだな。なぁメイ我々は何と不幸なのだろうな、何度も何度もたらい回しにされ挙句の果てには見ず知らずのご主人様に買われ借金を盾にあんなことやをさせられるのだぞ、ああなんて不幸なんだ。」
「ちょ、ヴィオラさんそんな人聞き悪いこと止めてくださいよ。それに俺のもとになったとしても俺は行商ですよ。あっちにいったりこっちにいったりの根無し草。まともな生活を出来るか分からないですよ。」
「別に構わないぞ、何せ魔法の研究に打ち込みすぎて家賃を払い忘れた身だ。家のあるなしなんて些細な問題さ。メイも大丈夫だろう?」
「うん…お姉ちゃんがいればどこでもいいよ。」
「ほら、こんな小さな子が問題と言っているのだ男らしく受け入れたらどうだい?それともやっぱり見ず知らずの男の慰み「分かりました。分かりましたから俺が受け入れますよ…ハァどうしてこうなった。」
「フフフ、これからもよろしく頼むよ、ご主人様」
「ご主人様…よろしくお願いします。」
まさか、この世界で奴隷を買うとは思わなかった。
慈悲深い神様がた哀れな一般青年を助けてください、ホントマジで。
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