初めての販売

 村長の用意してくれた場所で塩の販売をするために準備を進める。

 俺のような子供(見た目だけだが)がひとりで準備をしているが珍しいのかとこちらを見ているのを感じる。

 そして、何を売ってるか分かりやすくするために借りた皿に塩を盛ってテーブルには綺麗な布をひいて見栄えもよくする。

 準備も終わり売り出そうかなとしたときに後ろから声がかかった。


「お、坊主。もう準備できたのか?」


 声を掛けてくれたのは初めてこの村に来た時に声を掛けてくれた門番のおっちゃんだった。


「ええ、もう何時でも行けますよ。良かったら買って行ってくださいよ。」


「へぇ~、どんな大きさかなっと、ってなんじゃこりゃ!?こんな砂みたいな奴が塩なのか?」


「ええ、そうですよ、海水で作った塩なんです。この辺りは岩塩が主流らしいので見慣れないと思いますが間違いなく塩ですよ。」


 そう、この【塩】の加護実は産出箇所を選べるのである。

 村長も言ってた通りにこの辺りは岩塩が主流らしくどの家も料理の際に自らゴリゴリ削らないといけないらしいと聞いたのであえて細かく使いやすい海塩を用意したのだ。

 調味料なんて使いやすさが一番だと思うし、何より珍しかったら買ってくれるだろうという考えもある。


「まさか海の塩を持って来るとは。坊主見た目のわりにすごいのを持ってたな。」


「こう見えても商人ですからね。気になるなら少し舐めてみます?とはいってもしょっぱいだけですけど。村長さんに紹介してもらいましたしそれぐらいならタダでいいですよ。」


「タダならちょっと味見させてもらうぜ。……しょっぱい、ホントに塩なんだな。いつもはちょっと癖があったりするんだがこいつはそういうのはないな、まさに塩って感じだ。ちなみにいくらぐらいなんだ?やっぱり海から持ってきたから高いのか?」


 門番のおっちゃんがなかなかいい反応をしてくれる。こうして、味見をしてもらうことで商品に対して問題はないですよってアピールするついでに周囲で聞き耳を立てている人たちへの宣伝もかねている。


「値段については村長さんと相談しまして相場ぐらいにさせて貰ってますよ。この升一杯分で銅貨2枚です。量でいえばそこの皿に乗ってるぐらいですね。」


「ホントか!?ちょっと嫁を連れてくるからちょっと待っててくれよ。」


 そういうと、門番のおっちゃんは走って行った。


 それと入れ替わりに周りで聞いてただろうと女性がやってきた。


「あんた、さっきの話を聞いてたけどホントに銅貨2枚でいいのかい?」


「いいですよ、味が気になるなら少し舐めてみます?」


 そう言って匙に塩乗せて女性に渡すと指で塩を掬い取り直ぐに舐めた。


「いい味じゃないか。確かに今までのと違い雑味がないね。買わせて欲しいがどれぐらいあるんだい?」


「量はいっぱいありますので大丈夫ですよ。このカバンがパンパンになるぐらいありますから。」


「な!カバン一つ分しかないのかい!?すぐ貰うよ、とりあえず3杯分頂戴!」


 女性は慌てたように容器を取り出して来たのでそこに塩を入れてお代をもらう。


「兄ちゃんこっちにも塩をくれ。」

「坊や、こっちもお願い。」

「坊主、俺の分まだあるか!?」


 女性に渡したのをきっかけに入れ替わり立ち代わり塩を求める人でごった返した。


 どうやら、カバンにいっぱい入ってるので安心してくださいと思って見せたのがカバン分しかないと受け取られたようで皆殺到している。


 俺はそれを急いで対応していく、中にはお金の持ち合わせが無いので育てた野菜や獲れた獣などで支払いたいという人もいてそういう人たちにはちゃんと価値を見て相応の塩を渡した。


 今の俺には【】という加護がある。


 これはその名の通りその物の価値のを教えてくれる便利能力だ。

 そんなこんなで希望者すべてに対応を終えた頃にはもう日も傾いて働いている人達が家に帰ろうとしている時間であった。

 販売ブースを片付けて借りていた備品などを村長に返しに行くと本日は泊まっていって欲しいと言われたので甘えることにした。


「商人殿、今回は塩を販売していただきありがとうございます。ここのような開拓村ですとどうしても塩は行商頼りでして向こうが遅れたらどうしようもありませんので本当に助かりました。」


「いえいえ、気にしないでください。たまたま持っていただけですので。求めるものを売ることが商人の役目ですので。」


「海から持ってきた貴重な塩をこちらの我がままに合わせて値段を落としていただいて本当に感謝しています。ですので、本日は村で用意した食べ物を心行くまでお楽しみください。もちろん料理には購入させていただいた海塩を使っておりますよ。」


 そういうと奥から料理が運ばれてくるので言葉通り堪能させてもらうことにした。


「そういえば商人殿は次は何所を目指しておいでですか?やはり西の学園都市ですかな?」


「恥ずかしながら道に迷ってこの村に着いたもので目的が無かったのですが…その学園都市の話詳しく聞かせてもらってもいいですか?」


「ええ、構いませんよ。ここから西の街道を沿いに進めば学園都市と呼ばれる大きな町に着きます。そこは魔法学院と騎士学校が設立されており多くの貴族が行き来しますのでそれを狙って商人や傭兵たちが数多く存在しています。少し距離がありますが途中でここと同じような開拓村や宿場町がありますので情報を集めながら行けると思いますよ。」


「なるほど。情報ありがとうございました。早速明日目指してみようと思います。」


「そうですか。なら本日はしっかり休んでいってください。」


 そうして俺は明日の出発のために村長宅で一泊するのであった。


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