第二話「異世界スマホ」
「あ、なんていうかごめん……破れるかと思ってさ」
「ふふ、あれでいいのよ、職業が審議されるまでは少しだけ時間がかかるはずだわ、それまであなたの記憶が戻るまでサポートはさせてもらうけど構わないかしら?」
「それはありがたいな、何か色々ありがとうな」
「礼ならいいわ、あなたがどこの国の人族かは知らないけど、見た処お金もそんな無さそうだし、そのBWSHじゃ放って置けないからね」
「お金はまあ無いけどな、こういう物ならあるけど」
俺はポケットからある物を取り出す、それはアップル製のアイフォンである。
まさかとは思ったがこんな物までが異世界ここへ一緒に転移されたのは幸運の限りだ。あくまでも自分の予想だが、この世界じゃアイフォンは存在しないはずだ、ジョブ○がこの世界に転移してるとはとても思えない。
「何それ?」
「気になるか?」
「いや別に……」
好奇心が足らない異世界人な事だ、普通なら喜んで、何それ!の一言でも言ってくるだろうに。電源はつけたが当然圏外だ、この世界じゃインターネットは使えないだろう。
そしてこれも俺の予想だが彼女が銃では無く剣を未だに振り回している辺りを考察するに、テクノロジーレベルは遥かに遅れている可能性は高い。
銃は剣よりも強しである、人族はカーストの中でも最下層、ならば戦闘において力任せでは無く、知的部分で補えばいいもののそれができていないのだ。
だがしかし、空爆、水爆なんかを放てばそれはそれで人を簡単に殺めてしまう事になる。
戦いは認めるのに殺しは認めない、全くもっておかしな世界だ。大それた事ではないが彼女一人でも好奇心を持ってもらえれば最下層から抜け出す事も不可能ではない。
一番望みが絶たれると言えるのは好奇心が備わってないという事である。
俺の世界でも好奇心が備わっている発明家達がいたからこそ、進化ができたのだ。
アイフォンの中から彼女が驚くようなアプリを探し出す。
しかし入っているのは複雑なゲームばかり、もう少し単純なゲームがあれば良いのだが……。
「なあ、もしかだとは思うんだけど、鏡って知ってるか?」
「鏡? 何それ?」
ま……まじか……。
まさかと思って聞いてはみたが、ここは夢の国なのか、べたべたな異世界な事だ。しかしそっちの方が却って好都合、電波が飛んでいない以上使える
パシャッ
「何!?」
スマホの画面内には美少女の顔が一枚。アイフォンを向けられると驚いた顔をしていたので何とも言えない表情であった。彼女の目は優しいものから一層険しいものにへと変わっていた。解かれた敵意も再び向けられ始める、変なアイテムを使って自分を罠に陥れようとしているのではないかという警戒心からだろう。
「まあ、待て、これを見ろ」
「!? 何この可愛い美少女は」
仮にも写真という存在を知らないとは言えまさか自分で自分を可愛いなどというとは…。
まあ実際その通りであるから何も言えずにいるのだが。
「これはあんたの顔だ」
「これが私の顔……?」
「そうだ、流石に水とかで反射した自分を見た事はあるだろ? これはレアアイテムでな、空間を即座に模写してこのアイテムの中にそっくりそのまま保存するっていう優れた物でな……って聞いてるのか?」
しかし彼女は頭の上にはてなマークを浮かべるように困惑した顔をしていた。
「どうした? このアイフォンというものの性能の高さに驚きすぎて何も言葉が出ないか」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、ママに似てるな~って……」
「え?」
「小さい頃にはね。それも四歳とかそこら辺に。私のママもパパも小さい頃に亡くなっちゃったから」
「ああ……気の毒様に……っていうかもしかして自分の顔を見るのすら初めてなの?」
「そうだけど、私金持ちじゃないからその珍しいアイテム持ってないもん」
太陽が出てるから光の反射で自分の顔が見えないって事は無いだろうに、それともこの世界の光は俺達の国のと違って特別な何かでできてるのだろうか。
しかし途端に空気が重くなり始める。俺の世界のテクノロジーを自慢したいがために見せた写真だったが、明るくするどころか暗くしてしまうとは、何をやっているんだか俺は。
落ち込んだと思われた彼女だったが、何やらポーチの中をがさがさといじっていた。すると、丸まった白紙を一枚取り出す。
「笑わないって言って……」
「は?」
「笑わないって言って!」
「は、はい、笑わないです……」
「これどう思う?」
そう言うと紙を少しずつ広げ、恥ずかしそうに俺に見せつける。
一体なんなんだ、この…なんていうかブ……容姿がよろしくない女の子は……。
彼女も彼女で涙ながらに紙を広げていた。彼女は目線を逸らし、何故か太陽の方にへと向けている。
「これ私……」
「え?」
「違うの!? それだけ言ってぇ!」
「ち、違うけど」
「はぁ……良かった」
何のこっちゃ……。彼女は未だに涙を拭えないままポロポロと涙を落していた。
「これ友達に私の顔描いてもらったの……皆もそっくりだって」
「はっ!? いや、俺の目が正常なら間違いなく違うぞこれ、友達以外には見せたのか? 例えば近所のおばさんとか」
「見せられる訳ないもん!」
彼女は涙を拭きながら速度を速め先を進んで行く。
最初に会った大人ぶった彼女とは一変して、子供みたいに泣きじゃくっていた。
自分の顔を見て嬉しかったのか、悲しかったのか、よくは分からないが、彼女の町の住人がこんな変人ばかりじゃない事を願うばかりである。
彼女にこのスマホの興味を持ってもらえれば、それ以上の収穫は無いのだが。
何にせよ特に話しかける言葉も無かったので、彼女の進む先に付いていく事にした。
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