第4話「最凶最悪、ドラゴンゾンビの誕生」
ドラゴンの気を逸らす囮役14人と、
ドラゴンの背後から噛みついて感染させる2人に分かれた俺達は、
早速ドラゴンが住みつくと言われる洞窟の中に入っていく。
この洞窟は周りが薄暗く、前もあまり見えない中ゾンビ達は歩いていく。
本来ならこの噛みつく係は俺一人で十分だったのだが、
仕事をする素振りを何の役でもいいからしたいというおっさんの怠慢によって、
結局二人で行動を共にする事にする。
俺達より早く真っすぐ進んだ14人の勇敢なゾンビ達は、
ローガン・ラギアに見つけたと同時に、全員で俺がいる方向とは逆側に回りこみ、
ドラゴンの視界を何をしてでもとにかく奪わせろ、と予め命令はしている。
恐らく何人かはローガン・ラギアによって犠牲になるだろうがこっちはゾンビだ、
頭部さえ破壊されなければ不死身のはずである。
映画やドラマなどではそうだったが現実は異なるという可能性も忘れてはならない、
だがこれ以外に最強最悪と呼ばれるドラゴンを倒す方法を思い出す術は無かった。
俺の今の姿はゾンビである、
元々低い知能のこの頭から完璧な策略が思い浮かぶ事は当然無く、
それだけには至らずにこの姿になってからはどうにも知能がガタ落ちした気がしてならない。
とにかく繁殖がしたい、今考えられる欲望と言えるものはそれのみだ。
歩く事10分程度だろうか、先方に歩いていたゾンビの中の一人がこっちにまで忍び足で戻ってくる。
「マスター落ち着いて聞いてください……」
「どうしたんだ、もしかして貴様も怖気づいてこちらのグループに入りたいとか言い出すつもりじゃないのだろうな」
「シー……静かに……」
一体何なのか、小声で話しかけてくるゾンビを不可思議に思ったが、
よくよく考えると言いたい事はただ一つしかない筈だ、もうローガン・ラギアを見つけたという事か。
俺はリーダーに全く向いていないのかもしれない、
ローガン・ラギアを見つけた際に報告しろとはゾンビ達に一言も言っていないのだから、
それなのにも関わらず、このゾンビは命令無しに頭を使って報告した訳だ。
まだ生きていた頃はゾンビなんて能無しの機械だとバカにしていたが、
自分で考えて動くという点では人間の意志を持っていた事に感謝すべきであろう。
「うむ……ご苦労……貴様の言葉を読み取れず無知なリーダーですまなかった……」
「め、滅相もございません……それでですね……寝ていますよローガン・ラギア」
「は!?」
思わず大きい声をあげてしまい、咄嗟に両手で口を塞ぐ。
ゾンビの言葉は理解したが、中々それを呑み込む事はできない。
「す、すまない……思わず大声をあげてしまった……」
「いえ……それでどうしましょうか……?」
「とりあえず吾輩に先頭は任せろ、貴様らはローガン・ラギアが見える位置から待機していろ……それで吾輩らからローガン・ラギアが向いている方向は正面か? 側面か? 背後か?……」
「側面です……」
「分かった、そこで他のゾンビ達全員と待っていろ」
一番噛むのに都合が良いのは背後からだったが、正面よりは遥かにマシである。
とにかくローガン・ラギアに気付かれなければ確実にゾンビ化はできる。
それに何よりゾンビFの報告によれば、ローガン・ラギアの弱点は尾の根本、
そこから一番気付かれにくいのは側面から見えるドラゴンに徐々迫っていく事である。
一歩、二歩……。
徐々にローガン・ラギアにへと近づく、このままじゃ恐らく辿りつくには30分かかるだろうが仕方のない事だ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「ひいいいいいい!?」」」」」」」」」」」」」」」
「ごおおお……ごおおお……」
馬鹿でかい爆音が耳の中で反響する、何かと思えばドラゴンのいびきだ。
流石は最強と呼ばれているローガン・ラギアな事だけはある、
薄暗い洞窟の中でも目は慣れ、その姿は徐々に露わとなった。
でかさだけで測れば、とてもじゃないがこの世でこの生物に敵う者などいないだろう、
例えるなら自宅から見えるそこらの山と同じくらいの大きさだろうか、
生憎だが運動は苦手なので山に登った事はないが、これがハリボテじゃない事を願いたいものだ。
そして皮膚の色は紅蓮に染まっていて、この薄暗い中でもその炎を思わせるような紅蓮色は一か所だけ目立っている。
あまりにも遅すぎるのでペースをあげる事にする、
これだけ肝が据わったようなドラゴンだ、多少の足音に敏感に起きる程繊細とはとても思えない。
ローガン・ラギアの大きい寝息に合わせるように、小走りで尾の根本まで近づく。
1歩、2歩、3歩、4歩、5歩、6歩、7歩、8歩、9歩、10歩、11歩!
いつの間にか視界の正面に映っているのはローガン・ラギアの根本の部分であり、
噛んで下さいと言わんばかりにそれは小さく揺れている。
迷っている暇はない、歯を立てローガン・ラギアの尾の根本をガブっと噛みつき、
歯はローガンラギアの肉の奥深くまで食い込む。
他の部分は硬い鱗で覆われていると聞いていたが、ここだけ異様に柔らかいそうだ、
予め敵の情報を持つ下部を持っていて良かった、これで最強のローガン・ラギアを仲間にする事ができたのだから……。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
またしてもローガン・ラギアのいびき、否、今度のは当然ながらいびきではない。
間違いなく俺が噛んだ事に大してのローガン・ラギアの意志で出した咆哮だ、
いびきの方が遥かにマシなくらいの咆哮が耳で反響する、
耳を抑えるのが精一杯で足を一歩たりとも動かせない。
「静かにしろ!!! 吾輩を困らせたいか!?」
それは忠誠心を持った筈のローガン・ラギアに対しての呼びかけだったが、
ローガン・ラギアは決して口を開く事が無く尻尾を宙にへと振り上げる。
それはローガン・ラギアからすれば極当たり前の事なのだろう、
しかし俺達にとってその宙に上げられた尻尾の姿は非現実的、
マッハの如く振り下ろされたその尻尾の行く先は、
俺の下部達が群がっているゾンビの場所である。
ローガン・ラギアの振り下ろされた尻尾はあっけなく岩をも木端微塵に粉砕し、
その場にいたゾンビ達を一瞬にして蹴散らしてしまう。
砂煙が散ったのと同時に、薄暗い風景のせいで状況を視認する事はできず、
ゾンビ達は悲鳴をあげるでもなく吹き飛ばされたため、安否を確認する事はできない。
「大丈夫か!? 生きている者、声をあげよ!」
「ミラージュ大丈夫です……ゲホッゲホッ」
「ゾンビBも大丈夫です!」
「ゾンビAも無事です!」
「マスター!!! ゾンビF、尻尾の下敷きにされました!」
「何だと!?」
多少のダメージを与えられても平気な筈のゾンビだが、
頭部を損傷させられると再起不能だ、それにゾンビFは俺にローガン・ラギアの弱点を教えてくれたゾンビでもある、彼に死なれてしまってはこの先俺達が生きていく上で非常に困難となる。
残念という感想はでたが、悲しみという感情は生まれなかった。
あまりにも付き合いが短かかったという事もあるが、
今感じている事は自分の必要としていた所有物が失ったというくらいの感覚である。
ゾンビになった途端に人間だった頃に感じた感情というものが失われたのだろうか。
「とにかく外に向かえ!!! 吾輩らじゃこのドラゴンに勝つことはできん!」
「マスター!!!!!」
叫んだのはおっさんでもミラージュでもないゾンビの誰かだ、
何に対して叫んでいるかはローガン・ラギアの口元を見た途端に一目瞭然だった。
それはローガン・ラギアの大きく開かれた口を覆う程の、紅蓮の猛火がゾンビ達に向かい、襲う。
おっさんも炎の範囲内にいたが、間一髪で地面を蹴り上げて猛火から逃れる。
「あああああああああああああ!!!」
しかし凄まじく大きく、凄まじく早かった猛火だったため、間に合わないものもいた。
たった一体のゾンビだけは炎に燃やされ、その場から微動だに動けない。
「水だ水! この近くに水はないのか!?」
「服だ! 服を脱いで扇げ!」
おっさんの指示で近くにいたゾンビ達が一斉に服を脱ぎ、火を消そうとする、
その中にはミラージュも見えた、彼女も躊躇わずに脱いだ服で扇いでいる姿が目に映る。
仲間がローガン・ラギアの尻尾に踏みつぶされても何も感じないでいたが、
俺と違って他のゾンビ達は自分の仲間に死なれないよう必死に振る舞いを見せている。
もし俺が殺されそうになった時にあのゾンビ達は無関心でいるだろうか、
俺はこの中でもマスターなのだ、その意地を見せなければならない。
「ローガン・ラギア!!! こっちを見ろ!!!」
燃えている仲間のゾンビを向いて二撃目の猛火を放とうとするローガン・ラギアだったが、
こちらの方をギロリと睨みつける。
勝つ術は無い、だがそれでもこれで仲間達を守って死ねるのなら本望である。
「来い!!! お前が最強というのならまずはこのゾンビマスターである吾輩を倒してみよ!」
ローガン・ラギアは俺の方をじっと睨みつけ、その場で固まる。
決して油断してはならない、いつ攻撃してきてもいいように近くにある大きい岩陰に逃げる準備はしていた。
しかし、それでもローガン・ラギアは攻撃しようとしない、
更にローガン・ラギアの紅蓮の皮膚は徐々に変色し始め、俺達ゾンビと同じ薄い緑になっていく。
「主あるじ、我が主よ! お名前を聞かせて頂けませんか!」
これは……。
どうやら体格があまりにもでかいらしく、ゾンビ化に遅れたが一応成功はしたらしい。
しかしローガン・ラギアが俺達の仲間になるにはあまりにも最悪なタイミングであった、
ゾンビ達が群れている処には元下部であるゾンビFとゾンビCが死亡した事によって、
残りのゾンビ達はがっくりと項垂れていたのだった。
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