雨の日は猫が鳴く

流生

雨の日は猫が鳴く

 ポロポが鳴きました。

「なーなー、なーなー」

 私は空を見上げます。空はとってもごきげんで、太陽と目が合いました。

「ポロポ、雨が降るのですか?」

「なーなー、なー」

 ポロポは私の足に頭を擦りつけて返事をします。

 もう一度空を見ましたが、雲は見当たらず、真っ青です。雨の気配はしません。

 私は机の上の書類を眺めます。今日の内に終わらせなければなりません。

 次に窓の外で踊っている洗濯物たちに目をやりました。風と一緒にダンスをして楽しそうです。

 そして私は結論づけます。

「ポロポ、今日はきっと雨は降りません。太陽さんはそこに居ますし、天気予報のお姉さんも、一日中晴れだと言っていました」

「んなー…」

 ぐりぐりと頭を撫でてやりましたが、何だか不満顔です。

 私はその顔を無視して仕事を続けます。


 それから一時間後、私は雨の匂いがすっかり染みこんだ洗濯物をもう一度洗濯機に入れていました。

「当たりましたね、ポロポ。疑ってごめんなさい」

「なー、なー」

 ポロポは少し目を細めて私を見ます。だから言ったでしょう、という感じです。

 洗濯物たちが回っているのを、私は目で追います。

 ポロポの天気予報は昔から当たるのです。それはそれは、テレビや新聞なんかよりもずっと。

 きっとそれは、ポロポが長い間雨の中に居たからだと思います。

 ポロポと初めて会ったとき、ポロポは道端の段ボールの中で「みーみー」と鳴いていました。一緒に何か書かれた紙も入っていましたが、書かれている文字は読めませんでした。

 その時の天気が雨だったのです。だからポロポは雨がわかるのです。

 私のお友達が教えてくださいました。ポロポみたいな猫を“捨て猫”と言うのだと。

「なー、な」

 いつの間にかポロポが隣に座っていました。私は優しくポロポを撫でます。

「ポロポと私は同じです。私もポロポもお母さんに捨てられたのです」

「なー」

 ポロポは短く返事をしました。

 私は少し弾みをつけて立ち上がります。

「さあ、お仕事を続けなければいけません。手伝ってくださいますか?」

「なー」

 ポロポは私の問いにそっぽを向きます。イヤなのでしょう。仕方ありません。

 私は仕事机に戻って、仕事を続けます。

たくさんの絵が描かれた書類は私でも読むことができるものです。

「ご飯はもう少し待ってくださいね」

 私はポロポに言いました。

「なー」

 ポロポは行儀良く座って返事をしました。

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雨の日は猫が鳴く 流生 @Rui-Tubasa-Ringo

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