第6話 女同士の激しい争い


朝食があるとマスティマに伝えられた矢先の事だった。


姿を消しながら部屋に隠れていたアーモンドに押し倒された俺は目前で左右に揺れる豊満な胸を眺めるという破茶滅茶な展開に直面しているのであった。




「ねえいいでしょバエル? 私ずっと前からこうしたかったけどいつもあなたの側近には厄介者しかいないじゃない?」




そもそも俺そのバエルって奴じゃないし...。


でも断ったらひょっとして痛い目に合うんじゃ...。




「あ! そうそう時和くん! 朝食は洋食派? それともやっぱり和食派なの!?」


「あ...」


「え? 時和くんこれは一体...?」




さっきまで能天気な朝食話はどこにいったのか、頬を赤らめるマスティマ。


そしてそれに挑発を加えるように豊満な乳を顔面に押し付けるアーモンドさん...。




「い、息苦ひいでしゅ...」


「ちょっとあなた! 一体どういうつもり?」


「っち...、ええと、どういうつもりって何に対してのどういうつもりなんですか〜?」


「今君明らかに舌打ちしたよね!?」


「してませーん、これは私達人間同士の純粋なスキンシップであってあなたには関係のない事ですが」


「関係ない訳ないよ! 大体そんな不純なスキンシップ...!」


「あら、あなたが言う不純な事っておっぱいを男の子の顔に密着させる事? これの何が不純なのかしら、私達の国ではこんなの日常茶飯事よ」




更に口を覆い隠すようにその柔らかいクッションは密着し、今度こそ本当に窒息死するのではないかと息ができずにいた。




「に、日常茶飯事な訳ないでしょ! も〜! 時和くんも気持ちよくなってないで早く降りてよね!」




右手首を思い切り引っ張られ、アーモンドの胸の中から何とか逃れることが出来た。


助かった...だが何故か怒っているのか握ってる手首は物凄く痛かった。


朝食は洋食にした、といってもフランスパンだが。


朝に食べる骨つきの魚なんか出されると時間がかかりすぎるのだ。




「さて! 時和とアーモンド、死んでから気の毒だがよくここに来てくれた、新しい仲間が増えて俺は物凄くありがたい」


「「はい!」」




誠の言葉に俺とアーモンドは返事をする。


恐らく演技なのだがよく人間のフリなんて出来るものだ。


横にいるこいつに内緒で、こっそりマスティマに密告してやろうとも思ったが、いつもベッタリくっついてるのだ。


それに万が一密告したとしてもここの天使がこの女に勝てるのか、そしてもし勝ったとしても一気に悪魔が奇襲すれば天使が生き延びる可能性は高くないのだ。




運命は俺の手に握られた状態にあるが、俺に能力が備わっていない以上強い方の犬になるしかないのである。




「さて、マスティマにはもう聞いているかもしれないがお前達は選ばれし戦士だ、それも10年に一人が何故か二人もいるというレアケースにある」




そりゃあ一人は悪魔だからだぜ旦那...。




「お前達人間だったばかりの者にはまだ分からないだろうが俺達人間は一人一人能力を隠し持ってるんだ、まあ見てろ」




そう言い、誠の手のひらからバチバチと火花が散ると、雷の姿が如実に出現する。




「す...すげえ...触ってもいいか」


「別にいいけどしばらく麻痺して動かないぞ?」


「じゃあ遠慮しときます...」


「いいか、こいつは実戦ように使える雷だ、今のままじゃ見てて凄いとしか思わないだろうが使い用によっちゃ予想もしないくらいに化ける、こんな風にな」




誠が両手でバチバチ音を立てた雷の乗る手を少し横に捻ると彼の姿は残像を残し消える。




「ここだ」


「....え!?」




次に彼の声が聞こえたのは真後ろからだった。




「わかったか、これが俺達人間が持つ能力ってやつだ」


「人間ってマスティマは持ってないのか?」


「いや、こいつはまた別さ、お前の傷を治した治癒能力なら持ってるし何一つ能力がない奴もいる」


「こいつってゆうなー!!!」




あの時か...確かプロローグが終わってから俺は傷ついた身体が完全に治癒されていたのだ。




「急がなくていいぞ、お前達に能力があるといっても潜在的な力があるだけで今使える訳はないんだから、俺なんて30年もかかったんだからな」


「人外的な力を発揮すれば良いんですよね? それならもうできるかもしれません」


「あ! その喋り方猫かぶり!」


「ね、猫なんて被ってません!」




アーモンドのキャラが定まってない唐突な敬語を指摘するマスティマ、さっきの出来事以来彼女達の目線は合うことは無かったがようやく初めて目を合わしたと思うと火花が飛び交うように険悪なムードが漂ってた。

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