モッペルムオーの脅威

列を作っていたのトラックの中にいた僕達だけじゃない、横から二組の列を作った人達に挟まれていた。


 彼らもまた手錠を付けているようだ、きっと同じ説明を受けた者が連れて来られたのであろう。


 僕達の列では真ん中でコソコソと喋っている声が聞こえた。




「なあどうする? 王の顔を見るなって」


「俺も気に食わねえけどよ、モッペルムオーがいかれているのは有名な話だろ、あながち間違っていないかもしれないぜ」




 その会話を聞き僕達の列の誰もが再びあの肉片が飛び散る光景を脳裏に浮かんだであろう、ゲームとすれば物凄くインパクトの残るよくできたシーンとも言っていいだろう。


 僕達が向かう建物は全身が真っ黒だった、空の色も地球では考えられない程の暗黒色であり星一つ見えはしない。




 建物の中に入った僕達は暗闇で少ししか周辺の姿が見えない場所にへと着き、途端に先頭の足が止まると後方へと徐々に続いた。今思えばただ闇雲に歩かされたのだが一体ここはどこなのだろう。




「跪け!!!!!!!!!!」




 途端に咆哮のような叫び声が耳に響く、一番判断が早いのは僕達の列である。


 僕は素っ頓狂な顔で立ち尽くしていたのだが、先頭が跪くと次々僕達の列だけ跪く者が現れるのでそれを真似て僕も跪く事にした。




「よく来たなエランドの屑共」




 突如として聞こえた老けた声、さっきの叫び声を上げた者とはまた違った声だ。


 僕は前を見ようとしたが体が反応したのか再び地面を見下げる事にした、確か主であるモッペルムオーの顔は見てはならない筈だ、貫禄のある声からもし彼がその王であるならば僕の首は飛ばされるかもしれない。


 そして見事に予想は的中した、真下を見ていると突如として『グシャッ』という不協和音が鳴り響き、誰かの頭が僕の目前に転がる。




「うぐっ……」




 咄嗟に右手で声を押し殺す、生臭い異臭が充満する中で殺されたのは一人ではなく複数である、確認はできないが僕達の列以外の全員が殺されたように思えた。


 薄っすらと横眼で見えるのだ、誰一人として跪いている様子は無い。


 そして立ち尽くしていたその身体は次々倒れてゆく、飛び散った血は僕らに満遍なく振りかかった。




「その列はどうやら二人を除いた五人が生き残ったようだね、君達は僕が嫌いな事を忠告する優秀な部下に当たったようだ、運が良い事を感謝するべきだよね」




 もう駄目だ……。


 今すぐにでもこの場から立ち去りたい、父の死因は後回しでもいい。


 しかしログアウトというボタンは一体どこにあるのか、そもそもゲーム機器を頭に被っている感覚はない。まるで現実のような感覚、頭を触ろうとしても触れているのはゲームの中での自分の頭。


 つまりこれはゲームではなく現実……?




「さて、僕は一度しかルールは言わないから二度は言わないよ、神は食欲旺盛であり沢山の人間を食したがっている、一人一日ノルマ10人ってとこかな、もしそんな事もできない無能であるなら僕の手で君達を殺す事になっている」




 何を言っているのかまるで理解ができなかった、いくらゲームとはいえ人間10体を化け物の手に渡すだと。俺達はこの化け物に一切の抵抗ができない状態なのだ、こんな恐怖を与えるゲームを父さん達は何故作ったんだ……。




「それは今日も含めて1日10人と……」




グシャッ。




またしても血飛沫が飛び散る、彼は質問すると反射的にモンペルムオーの顔を見てしまったんだろう。




「はあ、彼が死んだ代わりに特別教えといてやるよ、勿論今日中だよね、それと一日まで残り七時間のようだ、リタイアするなら先に僕に伝えといてね、それじゃあいってらっしゃい」




 全員が固まった、いや元から固まっているのだ。




「どうした? さっさといくんだよ!」




 モンペルムオーの怒声が響き渡ると共にその場にいた人間達は足早に建物から出ていく、一番遅れて出たのは僕だった。

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