アブソリュート・ダークネス

コルフーニャ

デスロード


 父が遺産として残したVRゲームは彼のパソコンのファイルに隠されてあった、そのゲームのタイトルは『デスロード』。




 父のパソコンのファイルに入れたのは僕だけである、何故彼のデータに入れたかを言えば父が死ぬ二日前に「俺が消える前に部屋のあらゆる本を捲れ、その中の一つに俺がお前に伝えたい事が書かれている」という事を伝えられたからだ。




 そして本に書かれていたのは父のパソコンのデータパスワード、その下に『ファイル32の中にあるゲームに俺のVR機器を使って入り込め」という内容である。








 いかにも妙な話である、しかも父の死因は心臓麻痺という突然死だ。父は俺にだけ自分が死ぬ事を予め伝えていた。


 それはこのゲームの中に父が死んだ原因が隠されているに等しいというものである。


 僕には当然ながらそれを探る使命というものがある。


 躊躇いなどもはや無かった、俺はVR機器を頭につけゲームの中に入り込む。




 体に広がった夜を示す暗黒色と共に物語は始まった、キャラを選ぶ画面もチュートリアルも無い。


 そして手錠足錠で拘束された体と目隠しで眼を覆われている状況である。無理に立とうとしたがバランスが保てない、どうやら揺れているようだ、車の中だろうか。




「勝手に動くな!」




「ひいっ!? は、はい」




 僕は急いでその席に座り直す、VRというものはこれで二度目の体験なのだが鮮明に声が聞こえるようで本当に教師から怒られている時の事を思い出す。


 一回ゲームを切ろうかとも考えたがこの程度でびびっているようじゃ父の本当の死因は二度と解明されないまま終わるだろう。




 それにしても父に聞かされていた通りこのゲームが商品化せずに制作打ち切りになった原因が分かるような気がした、ただでさえVRは販売してから数か月しか経っていなのである。


 ここまで恐怖心を煽るようなゲームならば世に出されないのも納得だ。




「いいか、俺もお前達と同じエランドの時期があった、だが主に忠誠を誓ったためにこうした光栄な職に適任される事になったのだ、だから貴様らにも忠告だが主には忠誠の意を伝えろ、さすれば主もお前達をきっとお認め下さる」




「その主の名前ってなんなんだ、俺達は今から何をさせられるんだ!」




 中年のような声が後方から聞こえた、演出と思い聞いていたが俺以外にも誰かがいるようだ。


 その途端辺りは激しい怒声で溢れた、彼の声が共鳴したのか恐怖心が瞬間的に怒りにへと変わったのだろう。




グシャッ。




 鳴り響いた轟音と共に柔らかく熱い何かが飛んでくる。




「なんじゃこりゃああああああ!」




「もういいだろう、目隠しを一人ずつ外してやる、こいつは見せしめだ」




 この場を仕切っている男は一歩歩いては止まり一歩歩いては止まりを繰り返し、ついに僕の目を塞いでいる目隠しが取られた。


 驚く暇もなかった、まず第一に女の怒声がその驚きを遮ったからだ。




「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「なっ……なんだこれは!!!」


「奴は少々荒い性格だったのでな、ああいうのは早死にする、だからこそ見せしめに丁度いいと思ったまでだ」




 その驚嘆の原因となった光景はまさに地獄絵図、男と思われる者の首元から上の部分が消えた姿である。そして破片がこっちにも飛び散り、返り血も全員が浴びていた。


 頭部が転がってない事から察するに彼の肉片に違いない、ゲームとは思えない程の血の熱さと生臭さが伝わってきた、販売停止になったとはいえここまでリアルだと妙である。




「いいかよく聞けエランド共! このままの状態では貴様らは一匹残らず主に殺されるだろう、奴はどっち道死んでいた、つまりはこの先俺よりも気が短い王が待ち受けているのだ」


「王……てめえそいつは絶対王モッペルムオーの事を言っているのか?」


「その通りだ、俺は彼に忠誠を誓った、だから生かされたのだ」




 話が大体掴めたような気がした、彼の言うエランドというのは日本語でいう『使い』、用はこの世界でいう奴隷のような者だろう。僕達は短気なモッペルムオーに忠誠を誓わない限り生きるという選択肢は無いらしい、さっきの肉片の感触と異臭から普通のゲームで無い事は間違いないのだ、念には念をである。




「そしてこれは忠告だ、モッペルムオーの顔を決して見るな、事故であっても頭が消し飛ぶぞさっきのこの男のようにな」




 全員が口を閉じた、さっきまでの怒声はどこにいったかと思うような怯えっぷりだ。


 ゲームの設定上でも突然この世界に来たのは僕だけだろう、どうやらさっきの『モッペルムオー』という主の名前をエランドが知っている事から察するに捕まった原因は彼らは理解しているようだ。




「着いた、反発したのは一人だったか、見せしめが効いたようだな? お前達は利口のようだ、誰一人死なない事を祈っている」




 僕達は車のトランクのような場所から足錠を外した後に下され、列を作り建物の中にへと入っていった。まさか今より恐ろしい光景を目の当たりにするとはこの時は思っても見なかったものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る