生き残った5人


 建物から200メートルくらい離れた後、不思議と僕と同じ列の彼らとは同じ場所に辿り着いていた。


 というよりも難なくモンペルムオーのいる真っ黒な建物から離れられた訳だ。


 辺りには見張りがいない、このまま走って逃げればいいのではないか。




「さてどうするかだな、あんた俺と組まねえか?」


「ええ構わないわ、急ぎましょう」




 生き残ったのは男4人に女1人、早速一番体格がでかく頼れそうな男は女を勧誘していた。


 こいつらはこの世界の住人という事だ、逃げるという選択をしないという事はその行動自体無駄だという事が分かっているのだろう。


 ここの5人と組む事も考えたが集める人数が五十人になる、7時間じゃ初めて会った彼らとじゃどう頑張っても無駄に終わるであろう。




「お前は俺と組まないか?」


「え? あ、ああ、全然いいけど」


「そうか! それは良かった! 俺はドクだ、よろしくな」


「僕は理おさむだ、こっちこそよろしく頼む」


「おう、変わった名だな、まあそんな事はどうでもいい、着いてこい」




 声をかけてきた男は決して強そうな見た目でもなく、身長は僕と同じくらいである


 いや、僕がこのゲームに入ってからでかくなったのだ、現実では170にも届かないが背丈だが目線からして西洋人になった気分である。


 余ったもう一人は男女ペアになった彼らとチームを組み、僕達は別々の場所にへと散った。


 心配している訳ではないが30人も集めなければならないのだ、かく言う僕達も20人を集めなければならない。




「理おさむはモンペルの兵士にどうやって捕まったんだ?」


「き……気づいたら捕まっていた……ドクの方はどうやって?」


「俺は寝た切りの病気の母を看護していた処、兵士数人に捕まった。母は老いていたからその場で容赦なく殺されたさ」


「それはお気の毒に……」


「そりゃあ悔しいし怒りがこみ上げてくるさ、だがこのデスロードの世界では弱者が殺されても文句は言えない、俺達人間の誰かがこの世界を変えない限りはな」




 同情していたのか少し悲しい気分になったが、彼の発言に『デスロード』という単語が出てきたのを僕は見逃さなかった。『デスロード』、父さんが作ったゲームのタイトルだ。 


 つまりこの不気味な世界は父さんのゲームで間違いない事が判明した、このドクというのもNPCノンプレイヤー、プログラムで動かされてるだけにすぎない存在しない人物という訳だ。


 だとするとこの会話自体も予定調和、彼が主人公の相棒要因であるならば耳を傾け受動的に動けば生存確率が上がる事は間違いない。




「俺にはこの世界を変える力が備わっていると思っている」


「え、今なんて?」




 考え事をしてたせいか話を聞き流してしまった、確か世界を変えるとか言っていたような。




「冗談に聞こえただろ、でもこれは本当の話さ。俺はモッペルムオーの出す課題を熟知しているし、攻略できる自信がある」


「そ、それは本当か!? ていう事はもしかしてリピーター?」


「はっはっは、リピーターな訳がないだろ、虐殺好きのモッペルムオーがノコノコ自分の奴隷を逃す訳がない」


「すまない」


「何故謝るんだ? だがまあリピーターみたいなもんさ、うちの兄貴がモンペルの兵士に捕まったのはもう二年も前の話だ」


「君の兄貴が?」




 ドクの話で血縁者が二人も死んでいる事が露わになる、だがドクは決して怒りに満ちた様子も無く全てを悟ったように淡々と話を続けた。




「兄貴が捕まった後真っ先に向かったのは自宅だった、そして俺に言ったんだ、「俺と協力して10人を生かした状態で集めろとな」」


「な……」


「いかれてるだろ? 同じ人間を奴隷にしなければならないんだぜ、だがそれも仕方が無い事だ、俺達は13日間男女問わず病人までを手にかけた、兄貴が生き残るためにはこうするしか無かったんだ」


「辛かったんだろうな」


「ああ、その時からもうモッペルムオーの奴隷になってたようなもんさ、自分が死ぬよりも家族を殺される事がこの世で最も辛い」




 さっきまでくすんだ色をしていた彼の目にはいつの間にか涙が溢れていた、まともな人間に快楽で殺生する者はいないのだ。




「14日目だ、散々暴れまわって目を付けられたのは兄貴だった、何者かに家に侵入されロープで手と足を括られ家ごと燃やされたんだ、その時俺は母親の方の家にいてな、戻ったら兄貴は死んでいた」


「そんな事が」


「兄貴の傍にいてやれなかった事を今でも後悔してるよ、エランドから解放されるのは15日目、俺は大切な日に気を抜いちまってたんだ」


「……」


「勿論俺達兄弟は屑だ、散々人を殺してきたんだからな、俺達兄弟は殺してきた相手の顔を一度足りとも忘れた事はねえ、だからこそそいつらの犠牲を俺は無駄にするつもりはねえんだ」


「その犠牲になった人達の償いをする方法はあるのか?」


「そうだ、俺とお前で15日生きる、最初に会ったやつも言ってただろ? 元々はエランドだったってな、まずはエランドから抜け出し隙を見つけ、神とモッペルムオーを殺す」


「あいつを殺すだって? 本気で言っているのか?」


「誰だって隙ができている間は紙のように破れやすい、それに本当の敵はモッペルムオーじゃなく神だ、本当の名は常人じゃ誰も知らないがな」




 壮大な彼の計画を聞き、驚きと不信感に満ち満ちていた。


 これが父さんが作ったゲームのシナリオなのだとするのならば話を盛り上げるのは当然だろう、だが僕の目的はここから脱出する事と父さんの死因を探る事にある。


 だとするのなら彼の復讐のためにわざわざ付き合う必要性は本当にあるのだろうか。




「無知で悪いんだが一つ聞かせてくれ、なんとかしてモッペルムオーの手から逃げられないのか?」


「試してみるかい? 逃げた途端頭がパンッだぜ」




 僕達は走った、約30分の間だったが体は頑丈なのかあまり疲れる事はない。


 辿り着いたのはドクの家だった、中に入るととても生臭い汚臭が漂ってくる。


 血痕は無く隅々まで拭き取ったのだろうが、臭いが消える事は無かったのだろう。




「お前銃と剣どっちが使えるんだ、俺は銃を使うからどっちを選んでも構わないぞ」


「どっちかっていうと剣かな、銃は今まで一度も使った事が無いんだ」




 剣も使った事は無いがVR以外のゲームではよく使った事がある、効率が良いのは銃の筈だが当たらなければ意味がないだろう。


 ドクに渡された剣は不思議と重量感をあまり感じなかった、十分な筋力が備わっているのか剣自体が軽いのかは定かではない。




「それで、この近くに無抵抗の相手を捕まえられる処があるのか?」


「ある訳が無いだろ、神とモッペルムオーが支配している今人間達に安堵できる空間はどこにもありはしない、誰であれ警戒はされるんだ。だからこそトラックを狙う、後10分程度でこの近くを通るだろう」


「トラック? それって」


「なんだ忘れたのか、俺達も最初に乗っただろう、あの無抵抗なエランドが数人乗ったトラックだ」

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