第2話

 勇貴が大怪我をして救急搬送された。

 それを聞いたとき、磐音は彼女と日帰り旅行の途中だった。

 彼女も勇貴を心配して、「すぐに帰ろう」と言ってくれた。

 勇貴が搬送された病院は、偶然にも磐音の勤務先。

 勇貴がどこを怪我して何針縫ったのか、磐音は知らない。なぜ大怪我をしたのか訊いても、きちんと答えてくれない。

 きっと、何度も訊かれるうちに答えるのが面倒になったのかもしれない。

 創傷を縫合した後も高熱が続き、1週間経った今も、勇貴は入院している。



「ユウちゃん、まだバルーンしてるの?」

 磐音は、ベッドにくくりつけられたハルンパックに目をやる。

 勇貴は「見るな」と掛け布団を垂らして隠そうとする。しかし、ベッド柵があるため隠せない。

「熱が引くまでトイレ禁止だって、医者から言われてんだよ」

「抜いてあげようか? きっと気持ちいいよ」

「やめろ! 違う意味に聞こえるから!」

 勇貴は本気で、でも笑った。

 磐音は、心の中で胸を撫で下ろした。

 良かった。この歳になっても、まだ冗談を言い合える。

「ユウちゃん、お茶は飲めるのか?」

「うん。お茶と水は許可されてる」

「じゃあ、好きな方をどうぞ……あっ」

 水が入った紙コップに、いつの間にか青もみじが浮いていた。

「そっちもらうよ」

 勇貴は、水の方を選び、青もみじは指でまんで除いた。

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