第16話

ドンドン。


テイは野菜の水やりを終え、ちょうど家で休憩しているとドアを叩く音がした。


「おーい、テイ俺だよ俺。」

「俺って人は知りません。誰ですか?」


マックスの声がするが、ドアを開けないでテイは適当な返事をする。

疲れているテイはマックスとのやり取りを考えるとどうしても憂鬱になってしまう。


「マックスだ。マックス様だ! いいからさっさと開けろよ! こっちは仕事できてんだよ。」


さすがに仕事とという言葉を使われればテイもすぐさま家のドアを開けないといけない。

テイはドアを開け、嫌そうな顔でマックスの顔を見て言葉を放つ。


「もー、何?」

「何じゃねよ。おまえ昨日家にいなかったろ? おまえの家が最後なんだよ。村長からの伝言と、その件で集金だ。」

「集金ってなんのお金? 俺金なんてないよ。」

「俺の話を先に聞けよ。近々雨が降るって話は聞いたか?」

「町で聞いた。」

「それでな、雨が2~3日中に降るってさ、あと雨が降って増水した川には近づくなってのが村長からの伝言だ。金は雨を降らせてくれる祈祷師にお布施をするから一人1万マニー払えだってよ。」

「えー、そんなお金ないよ。」


最近なにかと出費をしているテイはお金を払うのを渋るが、雨が降らないと困るため払うしかない。


「はいはい、さっさと払え。こっちはおまえのせいで予定遅れてるの。」

「わかったよ。はい、1万マニー。」


テイは棚からお金を取り出すとマックスに1万マニーを支払った。


「よし、これを村長に渡して報告すれば終わりだな。ってかおまえなんか顔赤くね? 風邪でも引いたんじゃねぇの? あんまり俺に近づくなよ、うつるだろ。」


テイは一人になってから一度も体調を崩した事がなかったが、最近無理をする事が多くあり、マックスに言われて自分の体調が悪い事を自覚する。

体が重く、熱っぽくて寒気がする気がした。


「はっくしゅん!!」

「うげ、きたねぇ。こっち向けてするなよ。じゃあ、俺は急いでるからこれでな。」


マックスはテイから病気をうつされるのを嫌い逃げるように帰っていった。

テイはマックスが帰った事にほっとし雨に向けて準備するため外に出る。

そうすると既に空は黒い曇で覆われていた。


「マックスが伝えたにきた伝言って昨日と全く同じ事を言ったんじゃないよね? 実は今日か明日中に雨が降るってことはないよね?」


この確信めいた予想が真実だと思ったテイは体調不良など言ってのんびりしている場合ではない事に気付き、まずはじめに水瓶の水を入れ替える事にした。

水は一番大事だ。

雨が降り井戸水に異物が混じった場合、飲み水に使う事は難しくなる。

近くに川あるが雨で濁るし、村長の伝言で言われたように危険だから近づくわけにはいかない。

いつもは1回か2回、その日に使う分しか水瓶に水を張らないが今日は井戸と家の中を何往復もして水瓶が満杯になるまで水を貯めた。

それが終わると休む事なくテイは野菜畑の裏側に広がっている森に入り、燃えやすそうな枝を集めはじめる。

雨が降ってないため落ちてる枝は乾燥させなくても十分に薪として使えそうだった。

家にはまだストックしている薪はあるが雨が降った後だと乾かすために時間が必要になるのでできるだけ薪は集める必要がある。

粗方数日分の薪にする枝を集めたテイは徐々に気温が下がっているのに気づく、急いで拾い集めた枝を家に運び込んだ頃にはポツポツと雨が降り始めた。

雨が降りはじめたからといって家で休むわけにはいかないテイはまた外に出ていく。

今から雨の中、野菜の収穫をしなければいけない。

収穫できそうなものは片っ端から収穫していく、残していてもほとんどが雨によって地面に落ちて流れたり、実の重さで苗自体がだめになる可能性があるため放置する事はできない。

それに雨の中外に出て何度も自分の食糧として使う野菜を収穫するのも大変なので今しておくべき作業だった。


「はぁはぁ..........、そういえば雨ってすぐ止むのだろうか? もう少し詳しく聞けばよかった。」


息を切らせながらテイはマックスに雨がいつ止むか聞き忘れていた事を後悔する。


「仕方ない、畑も一応長雨に耐えれるように対策しておくか。」


収穫を終えた野菜を家に運ぶとテイは野菜畑に戻り、長雨対策にうねを盛り上げたり、ため池の水をせき止めている仕切りを外したりと長雨対策の作業を行った。

テイが思いつく限りの対策を終えた頃、雨はもうすでに本降りになっていてテイは泥だらけになり体全身ずぶ濡れになっていた。


「はっくしゅん! 本格的に風引いたかも......。でも、長雨対策はできたからまぁ良しとするか.......。」


テイは泥を井戸水で洗い流すと、体を拭き着替えベッドに潜り込んだ。


「そういえば薬なんて擦り傷の時塗る薬くらいしかない。とにかく水を飲んで食べて寝るしかないか.......。」


雨が降っている間テイはベッドの上で過ごす事になるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

農民が魔法にドはまりした! 明日出良也 @swindle

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ