第15話 雨
「ふぁああ....。良く寝た。ここはどこだ? んー?? そうだ、ハイドさんの宿屋に泊めてもらってたんだっけ?」
目を覚ましたテイは自分がどこにいるかわからなかったが、少しづつ昨日の記憶が蘇る。
テイが朝起きて一番はじめにする事は当然野菜の水やりなのだが、木漏れ日の館にいるテイはそれをする事ができない。
いつもの日課をできない今の状況にやきもきし、野菜が心配なテイは早々に家に帰る事を決意する。
外に干してあった服を着て、持ち込んだ物しっかりと持ち、忘れ物がない事を確認しテイは部屋から出た。
昨日フレイアに言われた通りに鍵を返そうとフロントに行くと眠そうなハイドが座っていた。
「おはよ、やっと起きてきたか。これで俺も寝れる。」
あくびをしながら背伸びをし、ハイドそう言ってきた。
「おはようございます。どういうことですか?」
「母ちゃんからテイが起きてくるまで店番しろって言われてたんだよ。気にしなくていい、よくあることさ。」
ちょっとうんざりしながらハイドはそう言いうとテイに手を振りカウンターから出て、自分の部屋に向かおうとする。
「あの、ここの場所がわからなくてどう行けばおっちゃんの酒場に行けますか?」
テイはハイドを呼び止めると道順を聞いた。
昨日暗闇の中ハイドの背中だけ追いここに着いたテイは木漏れ日の館の場所など全くわからなかった。
「ああ、わからないか。ここから左に曲がればすぐ門さ。そこまでいけばわかるだろ? 気をつけてな。」
「お世話になりました。」
道順を聞いたテイはハイドに頭を下げ、木漏れ日の館を出た。
ハイドが言う様に木漏れ日の館をは門の近くだった。
門からバルトの酒場まではいつも通る道なので、迷う事は無くバルトの酒場に着く事ができた。
朝日は昇り少しづつ人の往来がはじまりつつある時間帯なのに、バルトの酒場はまだ営業中なのか扉が開いていた。
「朝なのにまだ営業してるのかな?」
テイは預けていた荷車を持ちだす前にとりあえず酒場の中に入ることにした。
店の中に入ると、掃除をしていたバルトがこちらに気付き声をかけてきた。
「よう、きたか。その顔だとゆっくり眠れたみたいだな。」
「おはよう。うん、ぐっすり寝れた。宿に泊まるのは初めてだったけど良かったよ。あと、フレイアさんが土産美味しかったって伝えてって言われた。」
「そうか、良かったな。」
テイの反応にバルトは満足そうな顔をする。
「おっちゃんはこの時間帯までいつも営業してるの?」
「いや、うちは日が出る前に閉めてるさ。まぁ、それから明日の仕込み、いや今日の仕込みか。それに掃除や片付けもあるからな。こんな時間になる事もある。」
「大変そうだね。カレンさんは手伝ってくれるんじゃないの?」
「日付が変わる頃にはあまり忙しくなくなるからな。その辺でカレンは帰らせてる。まぁ、ちと大変だが、好きでやってるもんだからこんなもんだろ。」
「なんかいいね。」
バルトが心底好きな仕事をしている事がわかりテイはなんとなく嬉しくなった。
対して、バルトはテイの笑顔になんとなく恥ずかしく気まずくなる。
「うっせ、俺の話はもういい。それよりおまえこれから帰るんだろ?」
「うん。早く帰って野菜に水をあげないと。」
「ああ、そうだな。もし、来週雨が降って来れそうにないなら無理するなよ。町での配達はうちとアレックスのところくらいなんだろ?」
「そうだね。悪いけどおっちゃんアレックスさんに伝えといてくれる?」
「ああ、わかった。まぁ、アレックスもわかってると思うがな。」
「んじゃ、またね。大好きな仕事頑張って!」
「俺は今から寝るんだよ。気を付けてな。」
バルトの酒場出たテイは酒場の裏手に置いておいた荷車を回収し、押しはじめると真っすぐ自分の家に向かった。
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「なんだかすごく久しぶりに家に帰ってきた気がする。」
たった1日町で泊まっただけなのに随分と時がたった気がする。
帰り道は前日と違い今日はなに事もなく家に着くことができた。
自宅とその目の前に植えたりんごの木や野菜畑を見てテイは帰ってきた事を実感する。
「あれ? りんごの枝もうしっかりと台木にくっついてる。植物の成長は早いなぁ。そうだ! 小瓶に貯めてた魔法の水もあげよう。ほーら、元気になれー。大きくなれー。」
数日前枯れかけていたりんごの枝は元気を取り戻し、台木と接合されていた。
その事に気分をよくしたテイは、もしかたら本当にこの水滴の魔法でできた水が良い影響を与えてるのではないかと思った。
昨日寝る前に小瓶にためておいた水滴をりんごの木に与えていく。
「ん? 今枝が動いた? そんなはずないか。ってこんな事してる暇なんてないんだった。早く野菜に水をあげないと。」
水滴を与えたりんごの木がわずかに動いた気がしたが、風かなにかの見間違えだとテイは思い、それよりも丸一日以上水をやれていない野菜畑が気になり、テイはため池で水を汲むと早々に野菜に水をやり始めるのだった。
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