第13話
「うわ! 思ってたより、たくさん人がいる!」
酒場を出て、大通りで開かれる夜市に来たテイは人の多さに驚いていた。
道の両端には40件以上の露店や屋台が並び、朝見た野次馬の何十倍もの人が道を埋め尽くしている。
カレンが言う様に大通りには外灯が設置してあり、商品を見るには十分な明かるさが確保されていた。
だが、人が多くゆっくり店の商品を見て回る事などテイにはできそうになかった。
「そういえば、水筒がない。」
大通りから少し離れて、込み合う夜市を遠くから眺めていたテイはふと水筒をソフィアに渡したままだった事を思い出した。
町から家に帰るには水分補給をしなければ、倒れてしまう。
そのため、水筒は必需品なのだが、テイが町から出発するつもりの早朝に水筒など売っている雑貨屋が開いてる可能性はかぎりなく低い。
「水筒って売ってるのかな?」
テイが少しだけ覗いた感じだと、売ってるもの大半は食べ物やアクセサリーに綺麗な皿などが多く、生活必需品を置いてるところはなかった。
「あるよ。ひっく。」
テイの独り言に対して返事が後ろから返ってきた。
テイがあわてて振り向くと顔を真っ赤にして完全に出来上がっているトーマスが立っていた。
「よっす! えーっとエイだっけ? いや、ビーだっけ? ひっく。」
「いや、トーマスさん、俺テイですよ。」
「そうっす。ひっく。デイ?テイ?」
トーマスの反応みる限りかなり酔っていて会話は成立しそうになかった。
「えーっと、今日はどうしたんですか? お一人ですか?」
何気ないテイの一言にトーマスはあからさまに嫌な顔をして突っかかってくる。
「知り合いに誘われて飲みに行ってきただけっす。ひっく。別にレベッカを置いて遊びに出てたわけじゃない。付き合いっすよ、 付・き・合・い! 売り上げをちょろまかしたわけじゃないし、レベッカからこれで遊び....いや、酒の付き合いに行ってこいって言われたからきただけっす。ひっく。あくまで仕方なくっすよ。」
身ごもっているレベッカを家に残し遊んでる事を知り合いに何度も注意され、同じ釈明をしたのだろうとテイは予想ができた。
機嫌が悪くなったトーマスをどう相手していいかわからないテイはすぐさま元の話題に戻す事にした。
「えっと、さっき言ってた話なんですが、水筒を売ってる店なんてあるんですか?」
「あるよ。どっかでみた気がする。ひっく。真ん中くらいだったっすかね?」
トーマスのなんとも信用できない言葉だが、これ以上酔っ払いに絡まれるのも嫌なので、その言葉にテイはのることにした。
「水筒を置いてる店があるんですね。真ん中の店の方を探してみます。ありがとうございました。では、これで失礼します。」
「ああ、まったす。ひっく。」
テイはトーマスいう真ん中の方の店を見るために人込みの中に入った。
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トーマスと別れたテイは人の波を必死にかき分けながら、1時間ほど水筒を売っている店を探したのだが、見つける事ができず、今まで体験した事のない人込みの中を移動したテイはかなり疲弊する事になった。
ハイドとの約束の時間も近づいてきたため、テイは水筒を探すのを諦めハイドがいるバルトの酒場に戻る事にした。
せっかく時間と体力を使い探したのに、ここでやめるのはなんとももったいない気がしていたテイは未練がましく帰り際、露店を注視していると。
大通りから少し外れ、外灯の光もあまり当たらず薄暗くなっている場所に露店がぽつんと1件立っているのを見つけた。
ダメもとで近づいてみると、その怪しい店には探していた水筒が陳列していた。
「あの、これ水筒ですか? 持って確認しても大丈夫ですか?」
「ああ、いいぞ。ただ盗むなよ。」
水筒を見つけて興奮したテイは失礼な店員に許可を取ると、水筒を手に取って確認し始めた。
革製のしっかりした作りで、穴も空いてなく新品で間違いない。
露店では不良品や贋物を混ぜている店もあり、このような怪しい店では気を付けるのは当然だった。
この水筒を買おうと決めたテイは店員に値段を聞いた。
「これいくら?」
「1500だ」
「高くない? 800くらいじゃだめかな?」
「それはあまりにはも下げすぎだろ。1200だな。」
「じゃあ、1000で。」
「1200だ。 その代わり、おまけでこの小瓶を1つつける。」
「わかった。じゃあ、それで。」
交渉が纏まるとテイは今日の野菜の売り上げの一部から1200マニーを取り出し店員に渡した。
「まいど。」
「ねぇ、この小瓶って何使うの?」
「ああ、それはな、旅先で持ち歩く香辛料の入れ物だな。」
「へー、そうなんだ。」
「まぁ、用途なんて気にせず、おまえが好きに使えばいいさ。」
「わかった。」
陶器製の小さな小瓶と新しい水筒を手に入れたテイはバルトの酒場へと走った。
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