第12話
「おっちゃんいるー?」
「おまえ家に帰ったんじゃなかったのか?」
町に戻ってきたテイはバルトの酒場にきていた。
いつもなら、用事を終わらせ日が暮れる頃には家につく予定だったのだが、ソフィアのせいで町に戻る事になり行く当てもないテイはバルトを頼る他なかった。
「実はさ、途中で人助け?をしてさ、町に戻ることになったんだよ。」
「それは難儀だったな。」
「でさぁ、行くとこないからさ。おっちゃんの家に今夜泊めてくれない?」
「俺は別にいいんだが、ここは夜中までうるさくてまともに寝れないぞ? それに、おまえ朝になったらすぐ家に帰るんだろ? ゆっくり休んだほうがいいと思うぞ。」
「そうだよね.....。」
バルトが言う様に酒場は宿には適していない。
テイも今日はかなり疲れているので、できればぐっすり眠りたかった。
「テイちょっと待っとけ。おい、ハイド! ハイド!!」
バルトは店内で酒を飲む一人の若い男を呼んだ。
「なんすかバルトさん。」
「おまえの家、宿屋だよな? 部屋は空いてないか?」
「まぁ、うちは個室なんで満員御礼とはいきませんね。」
呼ばれてきたハイドという青年は気だるそうに話した。
「そうか、ならこいつテイっていうんだが、俺の顔を立てると思って今夜安く泊まらせてやれないか?」
「どうですかねぇ? 母ちゃんしだいなんで俺はなんとも言えませんね。」
「フレイアさんか。あとで手土産用意するからそれでもなんとかならないか?」
「それなら多分大丈夫です。ついでに今日の酒代も安くしてもらえると俺は嬉しいんですが。」
「ああ、わかった。いいぞ。」
バルトがハイドと交渉をするとテイに返事を聞いてきた。
「テイこれでいいか?」
「おっちゃん、わざわざありがとう。」
いつもバルトに世話になっているテイは少し申し訳なかったが、今から宿屋を探すのは大変なので、この好意に甘える事にした。
「テイだっけ? 俺は2時間くらいここにいるつもりだから。そのあと家に案内する感じでいいかな?」
「はい、よろしくお願いします。」
テイに自分の予定を告げたハイドは席に戻り、酒を飲み始めた。
これから2時間どう時間を潰そうか迷っているとテイはバルトに呼ばれた。
「飯食ってないんだろ? とりあえず、この席に座って飯を食え。」
「いや、悪いよ。昼も食べさせてもらったし、時間もあるから外で何か食べてこようかなと思ってたところ。」
「うっせ、俺の料理が食えないなんて言わないよな?」
ある意味では恩の押し売りではあるが、ここまで言われればテイも断る理由はない。
「わかった。ありがとう。」
「まぁ、おまえは客じゃなくて身内みたいなもんだからな。俺の料理の毒見役をしてくれ。」
少し照れくさかったのか、バルトはそそくさと厨房に消えた。
「あんたがテイ?。会うのは初めてね。マスターからよく話を聞いてるわ。」
ウェイトレスらしき若い女の人が話かけてきた。
「えっと、どなたですか?」
「見ての通り、ここで働くウェイトレスのカレンよ。酒場が込む時間帯だけ雇われてるの。」
日が落ち外が暗くなった時間の酒場は盛況でバルト一人では手が回らない。
そのためバルトはウェイトレスを一人雇っていた。
午前中から午後の入りくらいの時間にしかテイは顔出すことがなく、夕方日が暮れてから酒場で働くカレンとは当然会う事はなかった。
でも、バルトの話の中にはよくテイの名前が挙がり、カレンはテイの事が気になっていた。
「ほんとに農民って感じね。もう少し綺麗な服をきたら?」
カレンはまじまじとテイの事を見ると服装を指摘してきた。
カレンの何気ない一言にテイはショックを受けた。
別に汚い恰好で町に来たわけではないが、一日中荷車を押したり野菜を運んだりしているとそれなりに汚れる。
「町には仕事に来たんで汚れるのは仕方ないかな。」
「それにしても、髪も伸びっぱなしじゃない。」
今まで指摘される事がなかったので一言一言が心に刺さるものだった。
「カレンそれくらいにしてやれ。テイをいじめるなよ。」
料理を持ってきたバルトはテイとカレンの話の間に入ってきた。
バルトも昔は服装など気にしていなかったが、年を取り体裁を気にするようになり今は気をつかっているが、少年に対して今はっきり言うのはあまりにも酷である。
「別にいじめてないわよ。」
「いいからさぼってないで働け。」
バルトに追い払われるように、カレンは給仕の仕事に戻った。
「おっちゃん俺の恰好って変かな?」
「まぁ、普段は家に帰ってここに居ないんだから多少は目立つな。そこまで気にすることじゃない。」
「そうかぁ。」
軽く落ち込むテイにバルトは持ってきた料理の説明をはじめた。
「昼と多少メニューが被るがこのスープと串カツを食べてくれ。」
昼に食べたヴィシソワーズだが、冷たくはなく暖かく小さな人参が彩りに追加されていた。
テイが口に運ぶと冷たくのど越しが良かった昼の物とは違い、濃厚なポタージュの味に人参ならではの甘味もあり、更においしい味になっているようだった。
「このスープ昼とは違うね。」
「ああ、さすがに大量のスープは魔道具では冷やせないからな。暖かいなりの工夫をしないとな。昼のフィッシュフライはそのまま提供してるが、テイは食べたから全く同じ物もつまらないだろうとそっちは肉にしてみた。牛を潰す奴も最近は多いからな、知り合いに譲ってもらったんだ。食べてみてくれ。」
串カツの見た目はたまに町の出店で見かけるようなものと同じだった。
テイがかぶりつくと外はサクッとし、中はジューシーでピリッと辛く旨いものになっている。
バルトはただ塩で下味をつけるのでなく、肉をバルト秘伝のタレに漬け込む事で美味しさを増していた。
「うん、両方すごくおいしいよ!」
「そうか? まぁ、肉はもう少し漬け込んで熟成すればもっと良くなるんだろうが時間がなかったからな。それでもいい味が出せたならよかった。」
「おい、バルトそれをこっちにもくれ!」「マスターこっちに同じものを!」
テイが食べるのを見ていた数組の客がテイと同じものをさっそく注文してきた。
「いいのか? あまり数も用意してないしな、肉の値段は高いぞ?」
「いいから早く!」「注文取り消すわけないだろ!」「俺らにもくれ!」
バルトの脅しに誰も屈する事なく注文は更に増えた。
「ふはは、テイのおかげで今日も儲かりそうだな。 おいてめら、酒もしっかりと飲めよ!」
嬉しそうにバルトは注文された串カツを作るべく、厨房に戻った。
飯を食べ終えたテイはハイドとの約束にはまだ1時間30分以上あり時間を持て余していた。
このまま酒場にいて1席をただ座って潰しているのも気が引け、どうしようと迷っているとカレンが話かけてきた。
「あんた暇なら夜市でも見てきたら?」
「夜市?」
「町住じゃないなら知らないか。大通りには外灯があって明るいから、この時間帯は夜市を開いているのよ。衛兵も見回りしていて危なくないから行ってみたら?」
「そうなんだ、おもしろそうだね。暇だし行ってみようかな。」
お金はないが見るくらい文句は言われないだろうとテイは思い、カレンの言葉に従う事にした。
テイはバルトの酒場から出て夜市が開いているという大通りに向かった。
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