第4話 誰かに言いたい
「すみません、本当にすみませんでした。」
テイは今日も完全に寝過ごしてしまった。
しかもよりにもよって村の食堂に朝一番で配達する日にだ。
「約束を反故にされるなんてね、親がいないからって甘い顔すればこれだよ。本当に困るわねぇ。」
村の食堂に月1回、他の農家が育てていない野菜を村の食堂に卸していた。
村長がまるで慈善活動の様に親がいなくなったテイに手を差し伸べた風に見られているが、実際はただ世間体を気にしながら安く仕入れるためだった。
どんなに安く買い叩かれようとテイにとっては大事な収入源だ。
「すみません、本当にもう二度と同じ過ちは犯しませんから。」
テイは何度目かわからない謝罪の言葉を食堂のおばさんに言い頭を下げ続けていた。
「頭を下げて謝るなんて誰でもできるわぁ。誠意を『誠意』を見せてほしいわぁ。」
「どうすればいいですか?」
「わからないの? 学がない孤児は本当に困るわぁ。そうねぇ、次の配達日には今日の二倍持ってきなさい。当然支払う金額がいつも通りよ、所謂罰金ね。それで今回は見逃してあげる。」
「分かりました。」
色々言い返したいテイだが今回は自分に非があるため素直に頷くしかなかった。
「でわ、また来月きます。今日は本当に申し訳ございませんでした。」
もう一度丁寧に謝り、そして帰ろうとしたテイは食堂のおばさんに腕を掴まれた。
「わざわざ食堂にきて飯を食べないで帰ろうとする人なんていないわよね?」
いつもなら次の配達があるのでやら、昼食の約束がありましてなど何かと理由をつけ断っているのだが、今日はそうとはいかない。
「そうですね、最近食べれてなかったから今日は食べていこうかな。あはは。」
心にもない事を言いながら引き攣った愛想笑いにテイは徹していた。
「じゃあ、今日のおすすめランチCでいいわね。」
テイが返事をする前に勝手にメニューを決められ、おばさんは厨房に消えた。
テイはこの食堂ではあまり食べたことはないが知っている。
おすすめランチCは裏メニューで内容はただの在庫処分であることも。
しばらく待っていると大皿に野菜の盛り合わせと小皿に入ったシチューが運ばれてきた。
「あなたは痩せてるからたくさん食べなさい。」
言葉だけを聞けば、テイの事を心配している優しい人だが、内容がとてもひどい。
申し訳程度につがれたシチューと明らかに新鮮さが失われている野菜、それがしかも無駄に多い。
野菜を食べ始めると、自分で野菜を育ててるからわかる、他人の野菜のまずさ。
少しづつテイの目に映る光が消えていく中、必死に愛想笑いだけは崩さない。
しっかりとおばさんが目の前でテイの食事を観察しているからだ。
「どう? おいしいかしら?」
(まずいです! とてもまずいです!)
心の声でそう叫びながらテイは更に笑みを深める。
さすがになにも答える事ができない。
野菜を飲み込む様に食べきると、口直しにとっておいたシチューに手を伸ばした。
シチューを一口飲むとすぐにわかった。
(これ、あんまりおいしくない、むしろなんか変な癖があって気持ち悪い。)
数日前に美食家も唸らせると言われている酒場のおじさんところでシチュー食べてしまったせいでもあるのだろう。
どうしてもあれと比べてしまう。
牛乳の臭みが残ったチーズになれない牛乳を使ったようなシチューの味、土の味と表現すればまるで素朴な味に聞こえそうな土臭く芯が残る野菜たち。
(あああ、僕の野菜がこんなのに使わてるんだ。ごめんよ、父さん母さん。)
テイの心をへし折るには完璧なメニューだった。
気が付けば涙が溢れ出ていた。
「涙を流すほどおいしいのかしら? 普段まともな食事を食べてないのね。可哀そうに。」
テイは変に同情され、更に気持ちを落とした。
そして、食べ終わると、もう一度笑みを作り直し言い放った。
「とてもとても美味しかったです。」
「そう、それは良かった。でわ、3千マニーになります。」
一瞬テイは固まったが、とりあえず持ってた有り金全てでどうにか足りた。
そして、テイは自分に言い訳をはじめた。
(む.....むらだから村だから、高くなるよね。うん、そう、そうに違いない! そうだ仕方ないんだ。たまには高級店で食事するのもいいよね。でも、もう当分贅沢なんてしたくないや。)
普段外に出ても1食500マニーくらいしか使わないテイからすれば、本当に高級店の値段だ。
だがもうこれ以上深くは考えない。
でも、今回の事件はテイの心に深く刻まれる事になった。
魔法は危険! 使いすぎは危ない。
そして、元気がなくなったテイはとぼとぼと家に帰り、夕方前からベッドに入り、そのまま眠った。
その日は魔法を覚えてはじめて1回も使う事がなかった。
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