第5話
朝日と共に目が覚めたテイは腹が鳴ることもなく日課をこなしていた。
日に日に減るため池の水が少し気になるが、テイにはどうすることもできない。
日課が終わると気分転換に魔法を考査する事にした。
今日は午後から配達の予定がある。
そのため、今は魔法を使う事ができない。
自宅に戻ったテイは窓際まで椅子を引っ張り、その椅子に座ると、窓縁に肩肘を付き、空を見ながら考えはじめた。
テイが覚えた魔法は2つ。
『水滴』と『火種』である。
だが、成功してるのは『水滴』だけで成功回数はたった2回。
「『水滴』って魔法って本来の使い道ってなんだろうな。」
『火種』の魔法はきっと火を使いたい時、種火を生み出す魔法だと予想できる。
だが、『水滴』は本当に指から1粒の雫が落ちるだけで、使い道が全くない。
「繰り返して使ってたらわかるのかなぁ?」
きっとわからないだろうなぁと心の声が反射する。
成功した時点で完結したことが今ならわかる。
『火種』の魔法を練習する事しか今はできないが、農民の習性かそれとも最近雨が降らないせいか水の事がとても気になる。
「リンダばあちゃんなら何か知ってるかな? 物知りだし聞いてみるか。」
自分でわからない事は他人に聞くしかないと結論がでると、椅子から立ち上がり。
昼食の準備をはじめるのだった。
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簡単な野菜炒めを作り、それを昼食に食べたテイは午後の配達の準備をはじめた。
今日の配達場所はリンダばあちゃんの家だ。
リンダばあちゃんの家は徒歩で30分ほど離れた場所にあり同じ農村に住んでいる。
リンダばあちゃんは自分で家庭菜園をしているため野菜には困っていないが、果物が大好物でテイに果物の配達を毎週頼んでいる。
テイの家の目の前には大きな野菜畑が広がるが、家の裏には『元』果樹園がある。
両親が生きていた頃は3人で野菜畑と果樹園を世話していたが、現在テイ一人のため、果樹園の世話をする余裕がなく放置されている。
それでも少なからず実が生るので、昔から付き合いがあるリンダばあちゃんには変わらず果物のを届けるようにしていた。
元果樹園に入ったテイは実を探していた。
「美味しそうな実をつけた木がない....。」
普段なら甘い匂いが立ち込め、選ぶの方が大変なほど実り豊かな場所のはずだが、今日は一つも見つける事ができない。
1時間ほど探すと、家からかなり離れた川辺に実が3つだけ生っている木があった。
「3つしか採れなかった。これで我慢してもうしかないな.....。」
わざわざ家に帰って荷車を引いて運ぶ量でもないので、持っていた麻袋に実を入れ、そのままリンダばあちゃんの家に向かうことにした。
元果樹園の中を歩いていると雑草が生い茂った原っぱの中ぽんつと枯れかけの小さなりんごの木があった。
「そういえばこの辺に父さんと一緒にりんごの木を植えんだっけ。そっか、あの時のりんごの木はこんなに大きくなったのか。」
このりんごの木は父親との最後の思い出だ。
父親は少しでも稼ぎを増やそうと果樹園をさらに広げようとしていた。
その時にりんごの木の植え方や木の世話の仕方を少し教えてもらった。
今まで一人で生きていくことで精一杯だったテイはその事をすっかり忘れていた。
「果樹には詳しくないけど、もうここまで枯れてたらだめだろうな。」
目の前の木は葉が完全に落ち、枝も折れかけていて新芽も見当たらない。
「この木だけでもダメもとで育ててみようかな。果樹園から一番元気な木を台木にして挿し木でもしたら甦らないかなぁ。でも、今日はもう時間がないや。」
りんごの木の周りの雑草だけ、後でわかるように踏み倒し持っていた水筒の水を全てりんごの木にかけた。
帰りにまた寄ろうと決め、再度リンダばあちゃんの家に向けて足を進めた。
「リンダばあちゃんいるー?!! いつもの配達にきたよー!」
リンダばあちゃんの家についたテイは玄関から大きな声で呼びかけた。
少し待ってみたが反応がないので、建物の裏手向かった。
「ワン!ワンワン!」
「クー元気にしてたか?」
飛びついてきた、子犬を抱きしめ、頭を撫でる。
「よく来たね。テイちゃんごめんね、今きりつけるから。」
どうやら家庭菜園の手入れをしていたのか、リンダばあちゃんは雑草を抜いていた。
テイはリンダばあちゃんにいの一番に言わないといけない事があった。
「ばあちゃん、ごめん。」
「うふふ、テイちゃんは別に遅刻はしてないわよ。」
昨日の出来事は既に農村中に知れ渡っているようだ。
テイは少し顔赤らめながら言葉を続ける。
「違うんだ。実は果物がたったの3つしか採れてなくて、来週は多分何も届けれそうにないんだ.....。 俺がいつでも果物は取れるなんて思ってたから世話なんか1つもしてなく....。本当にごめん....。」
「いいのよ、テイちゃんが野菜畑で手一杯なのを知ってて私のわがままで頼んでるのだから、気にしないで。それに理由は雨でしょ? テイちゃんのせいではないわ。 テイちゃんところの野菜畑の方は大丈夫?」
「野菜畑はまだ大丈夫だよ。本当にごめん。」
「気にしなくていいのよ、また獲れるようになったらお願いね。それよりこちらでお話をしましょ。」
自分の不出来を謝ったテイにリンダばあちゃんは優しく許してくれた。
そして、リンダばあちゃんに誘われるように、ウッドデッキにある椅子に座った。
「真面目なテイちゃんが仕事を適当にしてるなんて噂を昨日聞いたの。食堂の奥さんがいろんなところで言いふらしてるみたいなのよ。テイちゃんだって調子が悪い日だってあるわよね?」
「それが.....。」
テイは少しばつの悪そうに言いよどみ。
その後、恥ずかしそうに笑い次第に自慢したそうな顔になった。
少し考え決心をし、テイは行動に移した。
「よく見ててね。 いくよ! 『水滴』」
リンダばあちゃんにわかるように人差し指を目の前に出すとテイは呪文を唱えた。
『水滴』の魔法は成功し、人差し指から雫が落ちる。
うまくいった事に安堵しながらテイはリンダばあちゃんにどや顔をした。
「どう? すごい? すごいでしょ!? 実は最近魔法を覚えたんだ!」
「まぁ、魔法なんて久しぶりにみたわ。すごいわね。」
リンダばあちゃんは拍手をしながらほめてくれた。
「やっぱり、リンダばあちゃんは魔法を知ってたんだ。」
「昔働いていたお屋敷のお子様が見せてくれただけだわ。それに、すいてきなのね? 私が見たのは確か『ウォータードロップ』って魔法ね。」
「もしかして、『
それでさ、この魔法って指から雫を落とす以外何ができるか知ってる? そもそもどんな効果があるの?」
リンダばあちゃんが魔法の事を知っていたため、テイは大興奮し質問をする。
「そうね、テイちゃんが言った通りの魔法よ。指から雫を落とす魔法。それ以上でも以下でもないわ。」
「えー....。 じゃあこの魔法使い道がないじゃん....。」
無駄な魔法みたいな事を言われ、テイは愕然とする。
「その魔法はね、魔法を覚えるための魔法って聞いたわよ。魔法が使える子は誰でも使えるようになる魔法らしいわ。その魔法を使って魔力を上げるって事も確か聞いたからしら?」
「魔力ってなに?」
素朴な質問をテイはした。
魔法って言葉は知っていたが、それ以外なにも知らなかったテイにとっては至極当然な質問だった。
「魔法を使う力が魔力じゃないかしら?」
「へぇー。体から何か抜ける気がしてたのはじゃあ魔力なんだ。」
テイはその言葉に納得した。
「そーだ。魔法を使うとお腹が減るって話は聞いたことない?」
「その話はわからないけど、魔力を使うと疲れる話は聞いたことあるわ。 もしかして、それで寝坊したの?」
そういえば、会話の始まりはその話だったと思い出したテイの顔はまた赤くなる。
「......うん。」
「覚えた魔法は使ってみたいわよね。あそこには村長にお願いされてかなり安く野菜を渡してるんでしょ? 大丈夫? 納得いないなら契約をやめるのも手よ?」
「ううん、いいんだ。僕一人になってはじめてお願いされた仕事だし、月に1回しかないから大丈夫。」
安くてもお金はもらっているし、月1度ならそこまで面倒ではない。
少しでもお金を稼ぎたいテイはそう答えた。
「そう、テイちゃんが不満に思ってないならいいわ。でも、気をつけなさい。水不足になりつつある今、野菜が収穫できない農家もでてきてるらしいわ。それで、なにを言われてもちゃんと自分の意見を言うのよ。いい人ばかりではないから、騙されないようにするのよ。」
リンダばあちゃんは真剣な顔をしてテイを諭すように言った。
自分の周辺の出来事に薄いテイは、内心来月食堂にいつもの倍配達すると約束したのは失敗だったかもしれないと思ったがもう断ることはできない。
「わかった。気を付けるよ。」
「そう、それならいいわ。 この後の予定はある? なければ私が夕食をごちそうしてあげてもいいわよ?」
リンダばあちゃんはテイの答えに満足したのか笑顔に変わった。
魅力的な誘いにテイは悩むが早めにしたい事があるので断ることにした。
「ごめん、ちょっと今日はやりたい事があるんだ。それに今度は僕が食事を持ってくるよ。」
「テイちゃんがご飯を? 楽しみにしとくわ。」
少し驚いたリンダばあちゃんはすぐからかうように言った。
「リンダばあちゃんまたね。 果物ができたらすぐ持ってくるから! クーも元気でね。」
「テイちゃんも体に気を付けてね。魔法の使いすぎにもね。」
「ワンワン!」
果物を渡し、リンダばあちゃんとクーに別れを告げテイは来た道を引き返した。
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