第3話
目を覚ましたテイは妙に体が気だるい。
「あれ? いつ寝たんだっけ? それになんか体が重い気がする。」
昨日の記憶が半分飛んでいるテイは体を起こし机の惨状に気づく。
「ああー、蝋燭が全部なくってる......。」
夜スクロールを見るためにつけていた蝋燭はすでに跡形もなく崩れていた。
蝋燭の値段はそれなりに高い。
農村ではほとんど必要性がなく生産される事も少ないが、町では需要が高いため高騰している。
「今月は節約しないといけないのにまた出費を増やしてしまった......。そうだ! スクロールを手に入れて魔法を覚えたんだ! 夢じゃないよね?!」
昨日の出来事を思い出してきたテイは自分が寝ていた辺りにスクロールがないか必死に探し始めた。
「良かった。夢じゃない! スクロールはあるし、相変わらずほとんど読めないけど文字も写っている!」
床に落ちていたスクロールを丁寧に拾い上げ太陽の光に当て確認をすると、しばらくニヤニヤしながらスクロールを見つめていた。
「そういえば今は何時だ?」
(ぐぅー)
まるで返事をするようにお腹が鳴る、腹時計による12時のお知らせである。
庶民は朝働き昼飯と共に休憩をし、また夕方お腹が減るまで働く事が一般的になっていた。
無論三食食べる人も間食もする人もいるが貴族か大富豪だと相場は決まっている。
「やばい、まだ野菜に水をやっていない!!」
最近晴れ間が続きで日課である水やりをしなければ野菜を枯らす原因になる。
農民にとっては死活問題だ。
急いで外に出ると太陽はまだ真上には来ておらず、昼にはかなり早かった。
それでも普段水やりをする時間よりかなり遅い。
急いでため池に行き、水を汲み野菜畑に水をやりはじめる。
だが、空腹で体が思ったように動かない。
仕方ないので傷ついた野菜を選びながらその場で食べた。
そうすると体に力が戻ってくる感じがした。
「おっかしいな。町に行ったから、少し疲れてるとしてもいつもこんな事はないのに。それに腹時計が狂う事も今までになかったんだけどなぁ。」
やっと調子を取り戻した体で遅れを取り戻すように水やりを終わらせた。
町に行った次の日はできるだけ用事をいれないようにしている。
そのため今日は休みだ
でも、農民に休んでる暇はない。
最近できていなかった草むしりや熟れ過ぎたり傷がついたものを収穫して肥料の作成をしないといけない。
あくまで休みは普段できない仕事をする日である。
それでも、今日は早めに作業を終わらせた。
理由は水浴びついでに上流にある川を確認するためだ。
晴れが続き雨が降っていないため、徐々にため池の水位が落ちてきている。
こういう時、水路に溜まっている砂や土が邪魔になりため池の水かさが更に下がる原因になる。
そのため水路の掃除もしなければならない。
「それなりに汚れてるけど、水の流れが緩やかで今日は掃除しやすいな。」
テイは泥だらけになりながらも水路を掃除し、上流の川にたどり着いた。
「やっぱり川の水位も減ってるなぁ。晴れの日が続くのは嬉しいけど雨が降ってもらわないと困るなぁ。」
水位はかなり減っているがまだ数日は大丈夫だろうと確認し、すぐさま泥だらけの体で川に飛び込んだ。
「きっもっちい。やっぱり川での水浴びはいいよな。井戸の水だと冷たすぎるし、やっぱり川が一番だ。」
流されないように注意しながらプカプカ浮き存分に川を楽しんだのち、着ていた服を脱ぎ川で洗濯をした。
服が乾くまで時間があるテイは河原で人間の頭ほどの大きさの石を抱え、魚を獲ろうしていた。
水位が下がってる分いつもより魚は見えやすく、更に少し深い場所に魚は溜まっているようだった。
抱えている石を頭より上に振りかぶり、そして体全身で反動をつけ水中の石に向かって叩きつけた。
「今日は1回で獲れた! 1.2.3.4.5! うん、十分だ! 美味しそう。」
石同士がぶつかる衝撃でうまく魚が仮死状態になり水面に浮かんできた。
いつもは十数回しないと獲れない魚が今日は一発でしかも大量に獲れた。
その結果、テイは暇を持て余す事になった。
そうするとやることはただ一つ、昨日覚えた魔法の練習になる。
「昨日はたしか『火種』を使ってうまくいかなくて、『水滴』を使ったら寝てたんだよなぁ。」
昨日の事を思い出しながら、手元を見る。
「よし、今日は『水滴』をもう一度試そう!」
『水滴』を使う事を決めると、成功しろ成功しろと心で念じながら魔法を唱えた。
「『水滴』!」
昨日と同様に体から何かが抜け、そして指先に何かが集まる感覚がしたのち、それは霧散した。
「『水・滴』! 『水滴』!!!」
魔法をゆっくり唱えようと、魔法を力強く唱えようと何も起こらなかった。
「うっああー、なんでなんだよお!!」
うまくいかない感情を声に出した後、気持ちを落ち着かせるため目の前の川で顔洗った。
「多分、水の魔法だろ? どうして水ができないんだよ....。」
水面を叩きながら考えるが何も浮かばないまま、また魔法を唱える。
「『水滴』!」
体から何かが抜け、そして指先に何かが集まる。
その時だった、顔から指先に向かって水がしたたり落ちた。
一瞬集中がその雫に移ってしまうがすぐ魔法に集中する。
そうすると今度は指先に集まった何かは霧散する事なく水滴になった気がした。
そして、その水滴はそのまま地面に落ちた。
「もしかして、もしかして、もしかして!! 成功!?」
傍から見れば、ただ顔から落ちた雫が指先を伝い地面に落ちたようにしか見えないが、テイはこれが成功だと確信した。
「やったぁ!! ついに成功した! 魔法を使えるようになったんだ!
よし、行くぞ! 『水滴』!」
すぐさま、先ほどと同じように雫の事を思い浮かべ魔法を唱えると今度は顔から水が落ちてきてないのに指先から1つの雫が落ちた。
そして、いつものように喜びを体で表現しようと立ち上がろうとした時、めまいがした。
どうにか頭からこけないように、手を地面についたが体に力が入らない。
「あれ? 朝みたいに体が重いし、いきなり調子が悪くなった? また、お腹が空いたのか?」
(ぐー)
予想が的中したのか、体が空腹を訴えてくる。
朝の謎の空腹も魔法を使ったせいだという事が判明した。
今何か食べないと、また数時間眠ってしまう事になるのは経験上わかっていた。
さすがに今河原で寝るわけにはいかない。
それこそ数時間たてば暗くなり、野生の獣やほとんど出くわす事がない魔物に遭うかもしれない。
とても危険な行為だ。
眠気と体のだるさを精神だけで支え、近くに置いていた魚を咀嚼する。
普段は当然焼くのだが、今は火をおこす力も焼きあがるまで待つ気力もない。
新鮮だが生のままではおいしいと思えない魚でも、噛みしめ飲み込むたびに、体に力が戻ってくる感覚がした。
「危ない、魔法ってお腹が空くものだったんだ.....。」
魚を2匹まるまる食べ終えるとどうにか体が動くようになっていたが、それでも疲れがとれた感じはしなかった。
「魔法にはこんなデメリットがあるのか....。たくさん食べないと使えないなんてそりゃお金持ちしか魔法が使えないね....。」
魔法は唱えて成功すればなんでもできると思っていたテイにはこの事が少しショックだった。
世の中の不条理に文句を言いつつ、半乾きになっていたズボンをはき、上着で残っていた魚を包むと、近くに落ちていた流木を杖代わりにし、地面を踏みしめるようにしてゆっくりと歩いて家に帰った。
家に帰りつくと河原で魚を食べたのに空腹状態は治まっていなく、残りの魚を塩焼きにして3匹すべて完食するとそのままテイは泥のように眠ることになった。
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