第2話 戦いの始まり
まあ、なんて仕事が早いんでしょう!
しかも丁寧。
なんて感心している暇はありません。
彼女が城の守りを強固なものにする前に、なんとか手を打たねばなりません。
しかし彼女は小さな釣鐘型の巣を我が身で守るように、そこから動こうとはしませんでした。
アシナガバチは六月頃から行動が活発化します。活発化ということは、攻撃性も増すってこと。
なんにしても、巣を駆除するのなら、早いうちに決行してしまわねばなりません。女王様はせっせと自分のお城の拡張に精を出しているのですから。
巣が大きくなって、女王の近辺に働き蜂というボディガードが付き始めたら、とてもではありませんがわたしの手には負えません。手に負えないどころか、ベランダを縦横無尽に飛び回る彼女の配下たちによって、わたしは洗濯物を干すことすらできなくなるでしょう。
だって怖くて怖くて!
これ見よがしにブンブン羽音を立てながら飛ぶのですもの。「刺すぞ! 刺すぞ!」と脅されているようではありませんか。
ベランダに出るどころか、サッシを開けることすらできなくなりそう!
そして最大の邪魔(←わたし、です)を排除し、勢力拡大を続ける彼女らは、城の増築にも励み……励み……どんどん巨大化して……。
や~ん! そんな事していたら、寒くなるまでベランダには出られないでしょ!
洗濯物も干せなければ、可愛いばらの手入れも出来ないなんて!
(やっぱり、ダメよ!)
害虫駆除の業者さんの手をお借りするという最終手段にもつれ込む前に、わたしの手でなんとかしてみせましょう。
家族に被害が出る前に――!
かくして、女王とわたしの攻防戦が開始されたのでした。
わたしは室内から、敵の状況を観察します。早く彼女が、一時戦場離脱をしないかと期待しながら。
しかし彼女は警戒心を増しながらも、巣作りを休むことなく、そしてその場を離れようともしませんでした。
そのむかし、豊臣秀吉が一晩で墨俣城を築城したという逸話がありますが、彼女も秀吉並みの手腕の持ち主と見えます。やって来て三時間ほどでお部屋が三室出来ていました。
あの室内には、すでに卵を産み付けたのでしょうか? 繁殖に勤しむ彼女のことですから、そのくらいの先手は打っているはず(もちろん推測)です。
このペースで巣作りは進むのでしょうか。
すれば単純計算で明日の今頃にはお部屋は二十四室……――。
待って待って、いくら彼女が仕事が早くて城づくりに燃えていたとしても、暗くなったら休むはず。昆虫ですからね。
体力使うから、休憩だってアリよね。だって、産卵だってしているのよ。
しかして計算通りのハイスピードで進まないとしても、おそらく今の倍の大きさにはなっていると思った方が良いでしょう。
(悩んでいるうちに、幼虫が羽化してしまうのが最悪なのよ)
やはり、急がねばなりません。
あの城(巣)を落としてしまわねば!
彼女がこの場を離れた隙に巣を落とし、その後に殺虫剤を噴霧し、ここが決して安全な場所で無いことを彼女に思い知らしめればよいのです。そうすれば、彼女はこの地を去るでしょう。
彼女は女王で母親なのです。種の存続のために、少しでもリスクは避けたいと思っているはず。
ここは仁義なき戦いやけんね!――と、おんな同志のバトルは、静かに白熱していきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます