勇者を押し付けられたがレベルが低すぎる

コイル

第1話 Lv.10!よくここまで来れたな

 私、アングリア・トネードは、剣の才能があるため、VSDS:前衛剣術守備戦隊にお呼ばれされていた。しかし、今の職である鍛冶がとても楽しく、その誘いは蹴った。ある日、国王陛下から命令が出された。あの誘いを蹴ったのはマズかったか…と思いながら別王宮に向かう。因みに国王陛下が普段住んでいる王宮はここではなく、20マイルほど離れた首都である。ここにある王宮は、国王陛下からの命令伝達指揮所、別荘でもある。

 門兵に呼び出し書類を見せ、別王宮に入る、そのまま真っ直ぐ進み階段を登ると別王宮管理長がいる。

「よく来たアングリア。聞いているだろうが国王陛下から命令がある。別にこないだの事を怒っているわけではない」と大臣。

 ああ、なら安心だ。私はそう思い、ホッとする。

「今回の命令は別件だ。近々この城下町に勇者が来る。ああその勇者だ、魔王を討つための。君はその勇者を迎え、そのまま旅立ってくれ」

「は!え、ちょっと急すぎます!どういう事ですか!」

 思いもよらぬ命令に動揺した。いきなり勇者の直掩を頼まれたのだ。

「驚くのもわかる。だが、VSDSよりはマシだぞ」

「確かにそうです。死傷率などを見れば勇者一行のほうがまだいいです。ですが危険であることには変わりありませんし…それに私にはまだ鍛冶が」

「アングリア、国王陛下からの命令だ」

 その一言で私は諦めた。最高権力からの命令ならばどうしようもない。

「管理長、命令内容を教えてください」

「それがいい。命令内容を伝達する。番号:1259751K、種別:SE、内容:来たる勇者を迎え、世話をし、そのまま護衛とし旅立て。以上、伝達を終了する」

「了解。アングリア・トネード、命令を受領します。このイリシア国の為」

 敬礼。

「うむ、このイリシアの為…ではここらは補足だ。Lvは知っているよな?」

「はい、生まれた時の大きさ、現時点での筋力や速力などの力と経験を計算し、算出された数字のことです。それがどうかしたんですか?」

「実はな…これから来る勇者、Lv.10なんだ」

「は?」

 思わずそんな言葉が出てしまう。

「10なんだ」

「いや…分かりますが、どういうことです?ここに辿り着くには、最低でもLv.24必要なはずです」

「運が良かったんだろう。あと剣技も下手だし、臆病だ」

「それ、勇者として大丈夫なんですかね…」

「わからん、とりあえず頼んだぞ」

「了解です」

 敬礼をし、部屋を出る。億劫になる。生きるのが。Lv.10…魔物は各地に平均的な強さで分布する。街や村に近い場所は弱く、離れていけば強くなる。魔王がいるとされる瘴気エリアには、格段に強い魔物がいる。ここまで来るのはかなり大変だ。Lv.10では。

 家に帰り、早速支度を行う。自分で作った複合金属の剣、軽い防刃鎧、小さな盾など装備を確認した。異常はない。あとは荷物を…

「おい、そろそろじゃないのか」と親方。言われて時計を見ると時間だった。家を出て街の門へ向かう。遠目に何か見える、あれか?


                 ※


 ボクは勇者の印があったから勇者になったんだ。でも小さい頃から乱暴事は苦手で…今も小さいは余計だよ。確かに小さい。歳は14、でも14だよ。小さい頃といっても不思議じゃないでしょ。王様から直々に装備を渡されたな〜。国中からかき集めて一番強いものを選んだんだって。でもサイズが…合わなかった。仕方がないからボク用に一から作り直したんだ。良かったのかな?あの装備溶かして。まあそれはボクに関係ないし、いっか。


 まさかここまで強いとは…魔物って怖いんだね。スライムってどうしてあんなに可愛いのか…ああ早く次の街に行かなくちゃ…


                 ※


 あれだな。どう見ても不似合いな装備だ。髪は短め、顔は…女か?いや男だろう。歳が若いのか女に見える。ボロボロじゃないか。よくここまで来れたもんだ。アングリアは近づく。

「あんただな、連絡で聞いている。世話役のアングリアだ」

「…アングリア?だ…れ?世話役?」

 おいおい、知らせてないのか。面倒だ。

「まあそんなことはどうでもいい。こっちだ。水と食料を用意する」

「水…!」

 アングリアは勇者を連れ、家に戻る。


「助かった!」

「そいつはどうも。聞いてないのか?世話役の事」

 食事を用意しながら質問をする。

「聞いてないよ。王宮城下町からここまで人に会ってないもん」

「おいおい、人っ子一人似合わないってどういう道を通ったんだ。仮にもここから王宮までは輸送ルートが通っているんだぞ」

「いや〜魔物と戦ったり、逃げたりしてたらどこだかわかんなくなっちゃって…」

「だろうな。ほら、芋煮だ」

 料理を置くと目にもとまらない速さでがっつく。

「ありがと!」

「落ち着けよ。そういえば名前聞いてなかったな。私はアングリア…アングリア・トネード」

「ボクはシャーリー・ペテリアム!」

「シャーリー?随分と女々しい名前だな」

「女々しいとはなんだ!ボクは女だ」

「は?」

 今日二回目の腑抜けた返事だ。

「女?…歴代の勇者は全員男だったが…」

「そうだよ。みんな驚いてた。でも歴代は歴代、ボクはボクさ。ここまで来れたし」

 そういうシャーリーの目は、輝いていた。弱くはない。自信に満ちた強い心を感じる。アングリアはそう感じた。

「じゃあ明日ここを出る。剣技は旅の途中で身に付けよう。それがいい」

「げ、やっぱ訓練はするの?」

「当たり前だ。魔物を倒してるだけじゃ強くならないぞ」

「う〜わかってたけど…しょうがないか」

 シャーリーは手を差し出す。

「よろしく!」

「ああ、こちらこそ」

 手を握る。彼等は明日のための準備へ…



用語集

・VSDS:ヴィーエスディーエス…Vanguard Swordsmen Defense Squadronの略。装備は剣と大盾。その名の通り前衛隊。主人公がいる街には、374th VSDSの本部がある。

・番号1259751K…命令内容書番号。Kはキングのこと。

・種別SE…種別記号。この場合、特殊護衛(Special Escort)の意味である。

・別王宮…国王陛下の別荘地みたいなもん。これがある町は、各指揮所が別王宮に設けられる。

・イリシア王国…主人公と勇者が暮らしていた王国。民主制であり、周辺諸国との外交関係が良好。軍事力は世界第二位。

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