第48話
「マスター、お風呂!」
奈江にせがまれて入ろうとして、気付いたことがある。既にお風呂は定員オーバーなのだ。俺のうちのお風呂場は広いから、5・6人なら一緒に入っても大丈夫だが、さすがに17人ではすし詰めになる。
「マスター、ご安心ください!」
まりえが珍しくドヤ顔を決めた。新潟に行く前から仕込んでいたことらしい。
「既に、近隣のお風呂屋さんを4件買収してあります!」
何という、ジャストミートだろう!4件ものお風呂屋さんを事前に買収しておくだなんて。金魚達の金力には敵わない。特にお隣の銭湯は、既に通常営業を辞めて、俺達専用に改装してある。でも、待てよ。この近所に、他に3件もの銭湯があっただろうか。そもそも、お隣の1件だけで充分じゃないのか?
「他の3件は特殊浴場なのですよ!」
あぁ、特殊浴場か。って、分かってるのだろうか! 何の冗談だろう。まりえって、天然キャラじゃないけど、どう見ても本人は真面目に話している。だから、俺は何も文句は言えないのだ。
「マスター。18歳以上は利用出来るんですよ!」
まりえの声が我が家にこだまする。
ーーー
「有った! まだ使えそうだ!」
俺が納戸から引っ張り出してきたのは、ウォーターベッドの予備のマットレスだ。これがあれば、17人で雑魚寝が出来る。
「じゃあ、もう寝よーう」
「賛成でーす!」
奈江の掛け声に1番元気に反応したのは、キャサリンだった。
「でも、キャサリンは大使館に戻らないと……。」
「良いのです。戻らなくっても、怒られませんから!」
「だったら、私達もお泊まりして行こうかしら!」
あおいちゃんの強硬なリクエストで、羽衣も含めて全部で20人が、窮屈に雑魚寝することになった。さすがに辛い。何よりも、俺の欲情を誤魔化さなくてはならないのだから。
ーーー
きれいな川の側キャンプ場ではミナミメダカが、魚沼ではキタノメダカとドクターフィッシュが新たに仲間になった。この先も、俺が自然と触れ合う度に仲間が増えていくのだろう。そう思うと楽しみであり、身体がもつかどうか心配でもある。
一方で、多くの謎が生まれた。その謎はいまだに解明されていない。キャサリンや羽衣が話してくれるまでは、解明されることはないだろう。いつになったら話してくれるのだろう。そう思うことも楽しみであり、心配でもある。
「どうです? マスター!」
花火大会用の浴衣が届いた。優姫は早速着こなしているのだが、それがエロい。少しだけ胸元が緩んでいて首元が深めに開いている。俺はあらぬところに力を込めながら曖昧な返事をした。
「優姫の着こなしは反則です。エロ過ぎますよ」
あゆみが不満げに言った。だけど俺からすればあゆみも充分にエロいと感じてしまう。どこにも隙のない着こなしが清楚なイメージで却って俺の脳みそを刺激する。
「ぽんぽんがくすぐったい!」
奈江がお腹をさすりながら言った。俺は心配で、帯の上からお腹をさするのを手伝った。奈江は気持ち良さそうにしながら、時々涎をすすっていた。
「さっ、産卵要求ですか!」
「マスターも隅に置けませんね!」
そう言ってきたのは、まりえとキャサリンだった。何でも金魚は産卵期になるとオスがメスのお腹を突く行動が見られるらしい。あおいちゃんが教えてくれた。それにしても、2人の格好が凄い。優姫に対抗してエロさを醸し出そうとしたらしいが、はだけ方が半端ないから少しもエロさがなく、ギャグとしか思えない着こなしなのだ。キャサリンは悪ノリしているだけなのだろうが、まりえの場合は真面目にやっているのだ。俺はしばし絶句した。
「景虎くん、お待たせ!」
最後に登場したのは羽衣だった。あゆみ同様、隙のない着こなしだ。思えばずっと俺のそばにいてくれた人だ。一番大切にしないといけないのは、羽衣なのかもしれない。本気でそう思った。
「これが、天活というものなのですか?」
「男の欲望を具現化しただけのような気もするが」
「いや、今日は特別。花火大会だから」
志西と瀬北の疑問に紗南が答えてくれたように、今日は天活も父上の顧客の面倒もお休みで、近所で行われる花火大会に行くことになっている。
「それじゃあ、出発!」
こうして、俺達は花火大会に出かけ、楽しい時間を過ごした。だから、父上の会社の留守番電話を聞いたのは、翌朝のことだった。
ー私、臨海テレビの代表をしておりますー
続 新 金魚は世界最古の観賞魚 了
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