最終章

第45話

 目的地に着いた頃には、全てが膳立ててあった。たらいの中には活きの良い、4匹のドクターフィッシュがいた。


「これから、どうするの?」

「簡単なことよ。供物にするだけよ」


 俺が思っていたのとは少し違っていた。ドクターフィッシュというくらいだから、人化させて治療してもらうものとばかり思っていた。だが、キャサリンの説明によると、ドクターフィッシュの命と引き換えに、まりえが助かるというのだ。ドクターフィッシュ達はそのための捧げものだという。


「キャサリン、そんなの、間違ってる!」


 俺は咄嗟にそう言った。


「じゃあ、まりえがどうなっても良いの! まりえを助けたくはないの?」


 キャサリンの鬼気迫る物言いに、俺は一瞬怯んでしまった。でも、やっぱり何か違う気がする。まりえは助けたい。でも一方で、4匹のドクターフィッシュはどうだろうか。その命は軽いものなのだろうか。何か、もっと良い方法はないのだろうか。例え困難な方法だったとしても、まりえとドクターフィッシュ双方の命が救えるなら、それに越したことはない。俺は、キャサリンに思い留まるように懇願した。


「そんな暇があったら、手伝いなさい!」


 キャサリンはピシャリと言いながらも、手際よく湯を沸かしていて、決して手を止めることがない。それでも人手が足りないようで、俺にも手伝うように促してくる。たらいの中にはドクターフィッシュ。正に生け贄にしようという構え。


「だっ、だめだー!」


 俺は咄嗟にたらいをひっくり返した。その時だった。俺の身体から、光が放たれた。いつもの光だ。


「少年よ、ありがとう」

「あとは私達に任せなさい」

「早くまりえを連れてきて!」

「直ぐに助けてあげるわ」


 まだ光が残っている時から、俺の脳裏にはその声が響いた。それは暖かく俺を包んでくれた。これで、まりえは助かる。そう思った。羽衣が白衣を4着持ってくるのがうっすらと見えた。俺は安堵の中、そのまま気を失った。

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