田圃の守護者

第41話


 次の稲を運び出すために、紗南の操る稲刈り機の正面にいた。その時、水中を蠢く4つの影を見た。メダカだ。小石が支えていて、行き場を失っているようだった。このままでは、稲刈り機に轢かれてしまう。大変だ。俺は咄嗟に駆け寄り、メダカの逃げ道を作ろうとした。しかし、俺の足はズッポリと沼地のような田圃にはまってしまい、身動きが取れなくなった。ここは紗南からは死角になっているようで、気付いてくれない。ブヲンブヲンというエンジンの音に混ざって、シュッシュッという稲を刈る音がどんどん近付いて来る。このままでは、メダカ達を助けられないどころか、俺まで轢かれてしまう。


「マスター、危ない!」


 まりえはそう叫びながら、俺のところに駆けつけてくれた。どうせなら紗南のところに行って、稲刈り機を止めてくれればいいのにと思った。とはいえ、ピンチの時にはいつも駆けつけてくれるまりえに文句などいえた義理ではない。


 ーブヲンブヲンシュッシュッ!ー


 俺は、懐に飛び込んで来たまりえをぎゅっと抱きしめて、稲刈り機を待った。


 ーブヲンブヲンシュッシュッ!ー


 その時である。俺の身体はまたもあの、不思議な光に包まれた。何とも言えない安らぎをもたらすあの光だ。これで3度目。いや、違う。4度目となる。


 初めての時を俺ははっきりと思い出した。直ぐ近くを流れる小川のほんの少し上流の山の中。その時に誕生したのは、俺と同い年の女の子が2人と、少し年下の女の子の赤ちゃんが2人だった。日本が世界に誇る鑑賞用の淡水魚、鯉が人化した女の子達だ。妹のなごみと、羽衣とあおいちゃん。あともう1人は、キャサリンに違いない。


 エンジンが止まり、俺は助かったことを知った。光を見た紗南が気付いてくれたのだ。稲刈り機を降りて俺のところまで来てくれた。まりえは、もう気を失っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る