第40話

「このあだりは、水が残っておってな」


 俺達に割り当てられた田圃は、1番下流に位置しているのだが、その分水捌けが悪いらしく、まだ水が残っている。


「ほんどは、来週のがええんじゃが、台風が来るっちゃ」


 世話をしてくれたおばさんが少しだけ悲しそうに見えた。農家の方々の米に対する思いが、ほんの少しかもしれないが伝わって来た。


「急ぎましょう、マスター」

「うん。今日中にこの区画は終わらせないと」


 まりえに言われなくても、俺は急いでいた。一刻も早くこの場を立ち去らないといけない。そう思っていたからだ。だから、紗南がやや乱暴に稲刈り機を操っているのも気にせずに、せっせと刈られた稲を水のないところへ運んでいた。だから、あんなことになってしまった。

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